表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おもちゃの魔法が呼び覚ますキーコネクトっ  作者: くろろん
第2章 もどかしい喪失感と過去
11/25

第3話

 その日の一日が終わって、ウィルスは肩をならした。

 まだまだ予約待ちの商品は山ほどあり、少しずつでも消化しないと次から次へと注文が降ってくる。

 立ち上がって思いっきり伸びをしたウィルスは、リットが工房にこないので、自ら店の方に顔を出した。

「リット、今日はどうだった?」

「……」

「リット?」

 リットはウィルスに振り向きざま、黒鞄を渡した。

「何だい?これは」

 リットが何も言わないので、ウィルスは訝しがってカウンターの上に鞄を置き、留め金を外した。

「なっ……」

 ウィルスは唖然とした。

 これだけのお金があればアーティクト並の店だって出せるだろう。

 だが、なぜリットがこんな大金を?

「このお金……どうしたんだいリット?」

「……くまのぬいぐるみを、どうしてもほしいという貴族の娘さんがいらして」

「えっ……」

 ウィルスは大金を前に固まる。

 テディが……売られてしまった?

「一応、断ったよ? でもこの大金を渡されて、断れる状況じゃなかったし。あのお嬢さんならぬいぐるみを大事にしてくれそうだったから」

「…………」

「か、勝手に売った事は謝るよ? でもおもちゃだって子供の手に渡った方が幸せだと思ったから。それに、このお金があればお店、もっと大きく出来るんじゃないかと思って」

 ウィルスは大金を前にしてしばらくの間、無言だった。


***


 リットが帰った後も、食卓のパンに手を付けず、黒の革鞄を見つめ続けた。

 ……確かに、このお金があれば、店を大きく出来る。職人を雇える。アーティクトに対抗出来る。

 だけど……だけど?

 テディがいなくなったこの喪失感はなんだろう。

 いつもそこにいたテディがいない。テディの声が聞こえない、テディのボアのついた手が頬を撫でてくることもない。

 テディ……

 お金と……くまのぬいぐるみ一体。

 たかが一体だと……人々は笑うかもしれないが。

(僕にとっては……)

 何よりも、大切な一体。

 精魂込めて、魂を込めて作り上げたかけがえのない一体。

 命を宿した一体。

 ウィルスは黒鞄を横に退けると、パンにかじりついた。

 そして、黒鞄を片手に工房に行くとテディと同じボアの生地を出して、型を取っていく。

 作業は夜を徹して行われた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ