第2話
レジ前にテディが置かれるようになって、ショーウィンドウからそれを覗いた子供たちが店内に遊びに来るようになった。
商品は全てサンプルだった為、買う事は出来ないけれども、店内で遊ぶだけで子供たちは満足しているようだ。
テディにもそれが十分伝わってくるから、子供たちに放り投げられようが黙って微笑んでいた。
そんな時。
一台の馬車が店の前に停車する。
リットがなんだろうと思っていると、馬車の扉が開いて、従者に手を引かれながら子供が降りてきた。
従者が先導するよう店の扉を開ける。
「いらっしゃいませ」
リットがそういうと、子供が店の中を仰ぎながら入ってくる。
リットは子供を見て目を見開いた。
ふわふわのロングの髪とフリルがたっぷりの洋服、その子供自体がお人形のように見えた。
そして、子供の眼はレジの横に縫いとめられる。子供は従者に指さして「あれ」と言った。
リットが様子を窺っていると、従者が律儀にお辞儀をしてくる。
……どうも、この子供の執事のようだった。
「突然押しかけて申し訳ございません。こちらはハスク家の三女、フィリア=ハスク=ドルチェ様でございます。こちらの店の噂をお嬢様が耳になさって、今日直接伺わせていただきました」
「はぁ……?」
突然の貴族の来店にぽかんとするリット。
こんな街中にある小さな店に3頭立ての馬車を横づけする場違いな光景にぽかんとするしかなかった。
「それでですね、ご相談なんですけど」
「はい?」
「そちらのくまのぬいぐるみを、お嬢様が大変気に入られたようで。よろしければ買い求めたいのですが」
リットはテディを見下ろした。
これだけは何があっても手放してはならないとウィルスに固く言われている。
「すみませんが、これは売り物ではないんです」
リットがそういうと、フィリアは執事の袖を引っ張って、何言か呟いた。
「どうしてもそちらのぬいぐるみをご所望のようなので。お金に糸目はつけません。どうか譲っていただきたい」
「でもですね……」
リットがそう言いかけた時、背後から別の男がやってきて、手にしていた黒の革鞄をバクンと開いた。 リットは身を乗り出す。札束が隙間なくぎっしりと詰まっていた。
「これでお取引出来ないでしょうか」
「……」
リットは考え込んだ。