36話 器用過ぎてイーブン。
―パーン。
―パーン。
―パーン。
「クリア一つとっても、中々ハイレベルな戦いですね。」
「お互いにドリブンクリアで返して、十分な姿勢を取らせない動きだな。」
「あれ結構難しいのに、よくあれだけ打てるなと思います。」
「トゥエンティートゥー・トゥエンティーワン」
今度は先輩のゲームポイントだ。
だけど、2人は特に焦る様子もなく構えている。
―スッパーン。
―ズバァン!
―パーン。
―パーン。
「どのショットも常に攻めの姿勢。だが、2人も人間だからな。わずかに隙ができる時がある。」
「そうなると、点差が広がると思うのですが…。」
「サービスオーバー、トゥエンティートゥー」
「またイーブンか。何でだろうな?」
「んー。俺にもよく分からないです。」
再びイーブン。中々2点差にならない2人。
サーブが苦手でも、攻守が苦手な様子も特にない。
「極端なんですかね?お互いに器用すぎて。」
「ん?極端とは?」
なんと言えばいいかな…。
先輩は割りとなんでも出来て、器用なんだけど。
行き当たりばったり?この場合だと。
「そうですね…。攻め過ぎてたり、守り過ぎたりとそんな感じがします。」
「あぁ。言われてみればそうだな。翔は和歌をよく見てるな。」
「はい。…いやいや、試合を見てるんですよ!」
「ふふ。そう言う事にしておくさ。」
「その含み笑い気になりますね。」
もはや、俺の気持ちは網野さんにばればれらしい。
あまり広めたりはしない人だと思っていけど。
どこの世界でも、恋愛ネタはいじられるのか。
「しかし、あれだな。好きなタイプと言うのは似るものなんだな。」
「タイプが似てるですか?誰とです?」
「あぁ…。誰とは言えないが、翔と和歌のような感じのやつを知っていてな。大変だろうと思ってしまうのだ。」
「そ、そうですか。」
多分きっと、ルカさんとヘレンさんの事だろう。
でも違うかもしれないので、誰がどうかは触れないでおこう。
いろいろ突っ込まれても困るし。うん、そうしよう。
「ところで網野さん。この試合についてんですが、何点まで続くとかルールってありますか?」
「この試合か?基本的には2ポイント差付けば終わりだが、もしくは30を先に取ったらだな。」
「あー、そこは俺の知ってるルールと変わらないんですね。」
「そうなのか。運動とはどこへ行っても、案外共通なのかもしれないな。」
「サービスオーバー、トゥエンティーセブン・オール」
網野さんに恋愛ネタでいじられてる間に、もうそろそろ勝負も大詰め。
恋愛話は置いといて。息を飲み、勝負の行方を見ていると…。
ブォーン。
この広場の魔法陣が光りだした。
「網野さん!あ、訓練中すいません。至急の依頼がありまして…。」
「まさか、例のやつの件か?」
「は、はい。」
「くっ。このタイミングでか。」
慌てた様子で入ってくる、学生だろうか?同じ年くらいの人がこの広場にやって来た。
網野さんもそれに答え、少し焦った様子が伺える。
そんな雰囲気に試合も止まって…
「サービスオーバー、トゥエンティーエイト・オール」
「続いてたし!?」
「皆!すまないが、ちょっと試合を中断してくれ。ルカ、本気出して何分動ける?」
「んー…。おそらく10分ってとこかしら。」
白熱の試合に、和やかな恋愛話から一転。
何かよくない事が起こってしまったのは分かった。