162話 結構マジでやってます。
そしてリハビリを終えた俺は学園の正門の前に立つ。
出席はギリギリ足りて、追試やら課題は病院でこなした甲斐あり俺は3年生に上がった。
頑張ればその分力になる。
諦めず最後の最後まで…勉強あんまり好きじゃないんだけど。
「翔〜!!」
俺は呼ばれて振り返る。
どこの世界でも俺の横にはあなたがいた。
「早く出るなら言ってよ〜一緒に行ったのに。」
「いや、事前に言ってなかったですし。ここまで歩いてくるのに時間かかりそうだったんで。」
「お母さんに会って、翔は先に行ったって聞いて、ダッシュで来たんだけど。よいしょっと。どう?」
「はい。可愛いです。」
「っ!?ち、違うよ!制服乱れてないか聞いたの!」
「え?あ、はい!大丈夫です。」
先輩は受験の時期に間に合わず、もう一度3年生をやるらしい。
卒業はできそうだって話だったんだけど、受験は間に合わなかった。
就職してもいいやって本人言っていたけど、母さんが…和歌さんの母さんが「ダメよ。もう1年やって来なさい。」それに対して和歌さんも「じゃ〜そうする。」の二つ返事。
退院して歩くのがやっとな俺を支える為だとか一緒だと楽しそうだしって事を後で聞いた。
最後の年を彼女と…和歌さんと一緒ならなんでも出来そうだ。
「ほらほら、行くよ翔。」
「自分で歩きますって。だから、手を引っ張らないで下さいよ。」
周りの同級生の視線が痛い。
そんな慌ただしく俺の学園生活は再スタートしたのだった。
そしてそれから…。
―パーン。
―ズパァン!
「トゥエンティ・ナイン・マッチポイント」
静まり返る場内。
最後のポイントを取れば勝ち。
シャトルの乱れを直しながら呼吸を整える。
「ふぅぅぅ…はぁ!」
―スッパーン。
「まだ負けない!」
―パーン。
「こっちも…負ける気なんてない!!」
―スパーン。
「っぐ!まだまだぁ!」
―パン。
「これで…よいしょ!」
―ヒュン…ズパァァン!!
「ゲ、ゲームセット。ワンバイ、兵頭。2ー0」
「おいおい、出鱈目だな。あの兵頭って高校生。」
「あんな跳べる人いるんだね…。」
「今のなんだよ。あんなの取れるやついるのか??」
高校の関東大会決勝の一戦。
静まり返った場内も試合が終わると騒つきだした。
「兵頭やったな。関東1位だぜ。」
「あ、ありがとうございます。」
「「「兵頭先輩!最後のカッコ良かったです!!!」」」
「あ、ありがとう。ちょ、ちょっと近いって。」
「はいは〜い。お喋りは後で出来るよ。片付けして集合だよ!」
「「「はい、先生!」」」
後輩達が片付けしにばらける。
「おめでとう。関東1位になっちゃったね。」
「ありがとう、マ…先生。ん、約束がかかってたから。」
「ふふふ。あの約束も効果的面だった訳だ。」
「「「兵頭先輩!先生!片付け終わりました。」」」
「ありがとう。ご苦労様。はい、集合!」
学生達が集まる中、1人そわそわして落ち着きのない学生が1人。
「兵頭さん、気持ちは分かるけど話聞いてる?あなたの表彰式の話なんだから。」
「は、はい。えへへ。」
そう言われて遠くの方に手を振る。
それに気がついたその人も手を振る。
「兵頭先輩がふにゃふにゃです。」
「あ〜あそこにいる人って…それはこうなるか。」
「ホント好きですよね先輩。」
「はぁ…先に報告してきていい「ありがとう、ママ!」…わよ。」
最後まで話を聞かず走り出す。
「もう。学校では先生と呼びなさいって言ってるのに。」
「そう言ってて、先生も行きたいんですよね?表彰式まで時間ありますし「ホント?後よろしくね部長!」…行っても。」
「兵頭は絶対に母親にだな。」
うんうん。
部員皆んなで頷くのであった。
「パパ!見てた!勝ったよ!!」
「うん、見てたぞ。凄いじゃないかきりん。」
走って寄って来た我が娘、兵頭 きりんの頭を撫でる。
「全くきりんちゃんたら、先生の言うこと最後まで聞かずに行っちゃうんだから。」
「ママも生徒放って大丈夫なの?」
「部長に任せて来た!」
「あいつも不憫ね。」
「あ、あいつ!?き、きりんはその…部長と仲が良いのかい?」
「ん?部長と?仲は悪くないよ。部長と副部長だしね。」
「そうか…後でお父さんに紹介してね。」
「こらこら目が怖いぞ。うちの大事な部長を困らせないようにね。」
「大事な!?和歌まで!?今すぐ挨拶しないと!!」
「もう、2人で話こまないで!きりんも混ぜて!」
頬を膨らます我が子を撫で撫でして鎮める。
となりの和歌も羨ましそうに見てたから一緒に撫でるのをわすれない。
「俺なんか悪寒がした気がするんだけど…。」
「多分じゃなくて、あのお父さんじゃない?」
「え?俺何かした??」
「大方、きりんが変な事口走ったんじゃない?」
「それは…ありえるな。天後で助けてくれるか?」
「何かされる前提なのね。奏人は心配性ね。」
高校卒業して大学に、俺は企業に就職。
和歌は学校の先生になって、今はきりんの学校で先生をしている。
2人の就職が決まり結婚して、2人の間に子供ができた。
娘が産まれてくると、どこか確信してた俺達は名前をきりんと決めていた。
そして高校3年生になったきりんは大会で優勝する。
「パパ!約束覚えてる?」
「勿論だよ。2人で遊園地だろ?」
「うん!!」
「ふふふ。きりんちゃん嬉しそうね。」
「この為にマジで頑張りましたから!」
「そうだね。去年準決勝で負けたリベンジって頑張ってたのは見てたよ。」
幸せな時間はこれからも続く。
今日までも、これからも、この先ずっと…。
ふと学生時代に言われた事が偶に頭を過ぎる。
…兵頭は淡々とこなすから、頑張ってるかよくわからんな。
…もっと頑張れよ。お前なら出来るんだろ?
……俺。
結構マジでやってます。
「翔どうしたの?」
「あ、いや。ちょっとぼーっとしてた。」
「翔はいつも頑張りすぎなんだよ。」
「え?」
「翔が頑張ってるのは見てるから。」
「私も見てるよ!パパ!いつもお疲れ様!」
「はは、2人ともありがとう。」
分かってくれる人がいるのは良いものだ。
頑張ってきたことが報われたかな?
頑張るのはもう1人じゃなくていいんだ。
それに気がついてくれた和歌。
そしてきりんさんと。
俺は、俺達はまだまだ頑張っていけそうだ。
これにてお話しはお終い。
頑張るって言うのは自分に言い聞かせてた様な作品でした。
最後まで読んでくれた方々、目を通してくれた皆様。
ありがとうございました。