楽園#4人目
『黄金の羽根』
もう僕は人間でない。腕から伸びる黒い翼を畳みながら森の中を黄色い鳥の脚で歩く。何日歩いたのだろう。“失敗作だ”と言われ捨てられ、人間とはかけ離れた姿にされ人には恐れられ逃げてきた。冷たい地面、暗い森、僕は人間でもなければ鳥でもない。一体何者なんだ。すると赤く輝く木の実が目に入った。丁度お腹も空いていた。木の実に近づくと
―ガシャン!-
脚に激痛が走った。
「あっ・・ああ・・ぁああ!!痛い!痛い!」
動物用の罠に引っ掛かったのだろう。細い鳥の脚に刃物が突き刺さっている。大量の血が流れ、動くたびに刃が更に足に食い込む。貫通するくらいもう脚の感覚さえなくなってきた。すると物陰から銃を背中に下げた大柄な男が現れ興奮した口調で近づいてきた。
「う、嘘だろ・・。珍獣か!?やった・・やったぞ!こいつは売れる!」
そう言って息を荒くした男が近づき、罠のネジを更に強く締める。
―バキッ―
脚に刃が完全に貫通し、脚が折れた音がした。
「うああああああああああああ!!!!あ‘‘‘‘!」
「すげぇ・・。それに翼も生えてる」
両腕を掴まれ引っ張られる。黒い羽が何本か抜け、地面に舞う。
「い、痛い!やめろ!離せ!もげる!」
すると鋭い痛みが腕に走った。
―ザシュッ―
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
腕と羽根の付け根の部分を切り刻まれ、男が血を見て人舐めする。
「・・さっき猪を獲った時の傷が治っていく・・!?これは・・食べると不老不死になるのでは・・人舐めの血でここまでの力・・神獣というものなのか!」
この男の言葉は理解が出来ない。このままでは死んでしまう、そんな事を思ったが寧ろそれは好都合なのかもしれない。人間でも鳥でもない自分はここで殺されても何も後悔はなかった。
「その子は人間よ」
いつの間にか男の後ろに女が居た。もしかしたら、最初から居たのかもしれない。
「だ、誰だ!いつから!」
さっきまで僕の腕を切っていたナイフで女に向かって切りつける。女は軽々と避け、男が倒れた。というより死んだ。さっきの一瞬で何が起こったのか。すると男の胸には先程持っていた自分のナイフが刺さっていた。
「すぐに足かせを外しましょう」
女は僕に近づいて罠を外してくれた。そして包帯を巻いてくれた。包帯を巻く女の手は白く細かった。手慣れた手つきで赤く染まった足が白くなっていった。すると匂いが鼻についた。
「花の匂いがする」
「あら、そんな匂いがする?」
「貴方から花の匂いがする」
「・・きっと庭の花の手入れをしていたからかしらね。」
「・・助けてもらったお礼をしないと」
「そんなお礼をされる程はしていないわ。それに貴方は1人?」
「うん。行く宛てもなく、ただただずっと森を歩いていた」
「それは寂しかったわね。もし、よかったら私と共にする?」
「一緒に?」
「ええ。他にも3人住んでいるのだけれど・・」
「いいの?」
特に何も考えずにこの人についていった。傷はとっくに癒えている足は痛みは当然なかったが、とても暖かった。
馬車に乗る際に羽根がつっかえて笑われた。
「天然というか、なんというか」
この人の笑顔はとても可愛い。僕まで嬉しくなる気分になった。この人、姉さん(と呼ぶように言われた)から“楽園”という物について説明され、人体実験の失敗作であることを伝えた。
そして初めての名前を考えてもらった。僕は人体実験の失敗作。そして名前なんて物貰う事はなかった。人間にも鳥にもなれなかった失敗作。自由に飛べない失敗作。
「“アニゴザントス”花言葉は可愛い愛、よ。」
僕の茶色の髪を撫でながら姉さんは言葉を続ける。
「アニゴザントスは間違いなく人間。そして鳥よ。恵まれているわ」
「恵まれている・・?失敗作が?」
「人間であって、鳥である。普通の人間や鳥であればありえない事よ。それに驚異的な治癒力。他人までも治せてしまう、とても凄い事」
普通の人間や鳥であればありえない事。僕はいつも、どちからでない事に対して絶望を感じていた。人からは疎まれ恐れられた。”悪魔”だと。
「失敗作なんかじゃない、貴方は貴方。自由の鳥よ」
自由の鳥・・。逃げるように森を歩いく度に見かける鳥に何度憧れを抱いたか
「僕、飛びたいな・・」
ふと声から漏れた一言。
「ええ、これからは自由に飛びなさい」
そして姉さんは僕の羽根にキスをした。初めて自分の姿に対して自信が湧いた。胸が熱くなってムずかゆくなった。
僕は飛べる。自由に飛ぶんだ。姉さんがいる楽園で。
姉さんに連れられて森を歩いて行くと、聞き覚えのある鐘の音が聞こえた気がした。
=続く=