楽園#1
楽園#0の続きです
『割引』
荷物をヘリオトロープに任せ、自室に入る。デスクに行き椅子に腰をかけ業務をこなす。
この楽園の維持と居生活の為の資金は大きく分けて3つ。
業務、活動、商売である。例外に市長からの支援金が送られてくる時もある。
この地は3つの土地で成り立っており、それぞれ町長がいるが全てを管轄するのは市長。私は表向きで業務をこなし、裏で活動をする。この活動は市長・神父・警察で成り立っている。いわば、警察でいう特殊部隊の様なものである。
依頼は市長・警察側もあるが、一般の依頼も受けている。但し、一般の依頼については特に金の報酬は得ないようにしている。ご厚意という事で売り物を分けてもらったり、元の値段からまけてもらったりといった風に報酬は貰っている。
神父からの情報料の際は、市長・警察の依頼時の報酬から3割教会の為に、という皆目で渡している。
商売に関しては楽園内の農作業での作物や花の他に、町長の計らいもあってかoasis達の才能を活かした物を披露するための場を提供してくれる事がありお小遣い稼ぎ、の範囲で回っている。
それにしても少し仕事を溜めすぎてしまった。机の上が見えない。これは参った・・。
ここ最近、活動の為疎かになりがちであった。書類をまとめていると羽ペンが床に落ちる。
―バンッ―
「紅茶お届けに参ったよーーー!!」
「!?」
羽ペンを拾おうとした瞬間、勢いよくドアが開かれ羊の角が生えた双子が現れる。廊下の光が彼らのクルンとした内巻きの金髪が光る。
「ビバーナムにティヌス!ノックくらいしなさい、と言ったはずよ」
「だって自分達が入れた紅茶なんだもん!」
「ベルガモット」
元気が良いほうがティヌスで大人しい方がビバーナム。呆れていると、近くの机にビバーナムが紅茶を置いた。そして二人はデスクから頭を出し大量の仕事を見つめていた。
「姉さん凄い量だね」
「溜めすぎだね!」
「えぇ。あまり庭仕事に顔を出せなくなるかもしれないわ・・」
「なら任せてよ!夜の仕事も任せて!」
「僕だって。姉さんの負担を減らすよ。夜の負担も」
どうしてアダルトな話になったのか。顔色一つ変えず大きな翡翠の瞳がこちらを映す。
「あまり他の子に変な事を吹きこんでは駄目よ?」
「「えー・・。」」
そんな他愛の話を交わしていると、ビバーナムが指をさし首をかしげながら
「どうしてwiegeに鍵はかけないの」
「僕もそれ思ったよ」
「かけてはいけない、のよ」
紅茶を飲むため椅子から立ち上がり2人の近くへ寄る。
「私は皆を信じてる。だから鍵をかけない」
むしろ鍵をかける必要がない。
Wiegeというのは“揺り籠”という意味を持つ。小瓶達を納める籠は何でもいいが、必ずチャームと花を装飾する事。これによりwiegeが初めて成り立つ。花とチャームは少年達の異変を察知する探知機の様な役割を持っている。
「「ふ~ん」」
聞いた割に興味がなさ気だなぁ。それはともかく、夕飯までには少しでも仕事を減らしたい。今日のご飯の当番は私だ。
屋敷の家事は当番制になっており週ごとに変わっていく。その事を告げ、彼らは少々拗ねた態度で机の端を小さく蹴っている。
「折角時間が出来たと思ったんだけどな」
「ごめんなさいね、私が溜めたせいよね」
「いいや。姉さんは人助けをしているんだ。我儘を言っているのは承知の上さ」
おちゃらけているティヌスでも、根はしっかりとしている。
「「仕事が終わったら、僕達を最初に構ってよ」」
「ふふ、了解したわ」
「「頑張ってね姉さん。それじゃあ夕飯に!」」
そう言って2人は部屋を後にした。紅茶に目を落とす。彼らが頑張って淹れた姿を想像しただけでも微笑ましい。紅茶を飲み終え、デスクに戻る。
「・・少し苦いわね」
あの子たちらしい。ここは全て苦い。楽園は苦い。苦く、苦く、甘いのだ。
美味しいあの子たち。そしてひどく甘いあの子たち。
喉が渇いた。