楽園#2人目
2人目:アシダンテラ
『空の重圧』
両親からの期待が何よりの生き甲斐、だから頑張ってきた。
兄達に苛められても耐えてきた。
耐えてきた、のに。
下の部屋から明かりが見える。物音をたてない様覗いてみると両親の話声がした。盗み聞きをするのは少しの罪悪感にかられたが、耳を澄ます。
「本当にファルシアは容姿も頭脳も才能もあって素晴らしいわね」
「ああ、君に似たのだろう。次は何の習い事をさせようか。と、言っても必ず秀でた才能を開花させるな」
「まぁ、あなたったら。でも事実よね。あの子の将来はどうしましょうか」
僕には選択権なんてものは存在しない。全て両親が決める事、当たり前の事じゃないか。両親こそが僕の意思。そう思い自分の意見は押し殺していたが、最近になって両親の期待が過剰すぎて苦しくなっていた。知らない事を知り、学ぶ事は楽しいけれどそれは自分の為なんかじゃない。全ては親の期待と喜ぶ顔が見たいから。僕を認めて欲しいから。自分は自分の人生を生きていない、いや、自分の人生なんて決められているのだ。そうだ。こんな事をしていないで勉強に戻ろう。そうして部屋に入った瞬間、部屋に潜んでいた兄達に取り押さえられる。
「んーー!んーー!」
「よぅ、ファール。わかってるな?大きな声を出したら」
まただ。また、兄達の苛めが始まる。酷く醜い汚らしい憎悪と嫉妬を宿した4つの瞳が僕を捕らえる。逆らえない僕の意思。逆らえばもっと酷い事をされる。一時の我慢、ただそれだけ。
「は・・い」
「脱げ」
「さっさとしゃぶれ」
それに、抵抗した所で両親を心配させてしまう、こんな所を見られたら幻滅されてしまう。それだけは嫌で、必死に耐えてきた。こんな辱めと屈辱を味わい、僕は耐えてきた。今日も耐える事ができる。明日も。きっと。
「何ぐずぐずしてんだよ!」
「んっ!!」
力強く無理やり口を開けられ兄のモノを入れられる。何とも言えない匂いと味、そして顎が外れるのでないかと思う程苦しくなり涙が頬を伝う。何度も乱暴に喉の奥を突かれ、吐き出しそうになるのを必死に我慢した。そして体を撫でられながら臀部の穴をもう一人の兄にいじられる。あと少し、もう少しで終わる。耐えるんだ。
「やっ!ひっ・・うぅ・・んぐっんん・・ん!!」
「んっ・・こっち出るわ!」
「んん!!っ!!おぇっ・・げほっ・・けほ・けほ!」
顔を持ちあげられ無理やり、出たモノを飲まされる
「こぼしたらもう一回だぞ」
「今日は人参な。明日もケツの穴に入ったままか確認する。勝手に自分で抜いたら、わかってんだろうな。」
「え・・でも、明日・・」
「あ?勉強の時も突っ込んだままでいろよ?抜けそうになったら自分で戻せ」
「途中で確認するからな」
そう言って2・3発、腹や背中を殴る蹴る行為をし、兄たちは部屋を後にした。見た目ではわからないような苛めをし続ける。昔は仲がよかった筈なのに、両親の期待を一身に受けたせいで妬まれるようになった。でも本当は知っている。本当はとっくに両親は知っている筈だ。厄介事に巻き込まれたくないためか、見て見ぬふりをしているのを僕は知っている。でも、こうやって無理にでも思いこまなければやっていけない。両親たちもこんな事がバレたらと思うと、世間の目を気にしているだろう。だからこそ見て見ぬふりをし、綺麗な表面のみ大事にしないのだ。偽りの親子姿。それでも僕は居場所が欲しかった。「親子」という枠に固執しているのかもしれない。それでもいい。それでも僕は「出来の良い子」を演じなければいけない。
なぜ?
思考もおぼつかなくなり、白濁した液体と汗と涙が散らばっている床に僕は崩れる様に倒れた。いっそこのまま粉々になりたい。
全身の痛みは兄たちの暴力か、それとも。
「顎が痛い・・。口の中も、お尻も、心も痛い」
次の朝
言われた通り異物が挿入されたまま食卓へ着いた。
「あっ!?」
「どうしたの?具合でも悪いの?」
「な、なんでもないよ母さん・・。おはよう」
「寝不足か?兄ちゃん達心配だぜ?」
「・・ううん。ありがとう」
通り際に兄達に臀部を撫でまわされ挿入物を刺激された。何食わぬ顔で“良き兄”を演じている訳だ。ぎこちなくはあったが早くこの家から抜け出そうと思い、いつもの時間より早めに家を出た。
学び舎までの道のりに教会がある。心を落ち着けたい時に度々訪れるのだ。入口で立ち止まっていたら女性の姿が見えた。その女性はこちらに気づき
「あら?入らないの?」
「あ、いや・・入ります」
教会に入るつもりなんてなかった。それに、こんな辱めを受けている姿で神聖な場所に足を踏み入れたくなかったが、何故か女性の誘いを断れなかった。その女性は神父様と何やら話の途中だったらしい、話している二人から少し離れた席に一人黒髪の少年が座っていた。恐らく女性の連れだろうか。僕はその子が気になり、何故かその子の隣に座った。
「・・見ない顔ですね」
こちらを見る事もなく、返答はなかった。初対面であり当然の態度だとは思う。はたまたここの国出身でない異国の人か
「話せますか?・・!」
何気なく視線を彼の体へ落とすと、ある事に気づいた。彼に足がないのだ。察したのか、彼はこちらをちらりと見て、口を開いた
「僕は人身売買によって両足を切断された。そして姉さんに助けてもらい、ここにいる」
人身売買はこの時代珍しい物ではなかった。現にこの町の話題にもなった。
「君は何故ここにいるの」
「何故って・・」
“なぜ”
さっきも僕は“何故か教会に入った”ここにいる理由はない。じゃあ、僕は何故ここにいる?それは僕の意思ではないから、わからないまま。わからない。教科書の様に、全て決まりと法則で成り立ち答えが一つあるものしか僕はわからない。いくら学んでも、それは小さな箱の中の世界だけ。
僕の意思はなんだろう。
柔らかな手が僕の背中を撫でると同時にチクリと背中が痛くなった。
「わからなくてもいいんじゃないかしら」
ふわりと甘い優しい匂いが僕を包み、金色に輝く前髪から大きな碧眼が僕を見つめ柔らかく笑みを浮かべていた。
感じた事のない胸の高鳴りと鼓動が早くなるのを抑え、カラカラになった僕の喉から何とか言葉を吐き出す。
「何故僕は・・」
「全ての道理に答えはあるのかもしれない。けれど、1つしか答えがないのであれば勿体ない事だと思うわ。そにれ、答えは必ずあるとは限らない。答えがない、理由がない、というのが答えであり理由でもある。わからない事は当然の事。わかろうとする事が大事なのよ」
「え?」
「あなたの探求心には関心するわ。頭の良さは関係ない。知ろうとする姿はとても美しい」
細く白い指が僕の頬を撫でる。
「私も知ろうとしている段階よ。勿論、あなたのことも。ゆっくりでいいのよ、時間は無限にある。やり直す事もできる。私と一緒に“自分の意思”を探してみる?」
「一緒に?」
「この子、ロサルゴサは私を姉さんと呼んでいるけれど、兄弟ではないわ。昨日会ったばかりで、この子も目的を持って私の家に住むことになっているの。貴方もよければどうかしら」
この人ならと、小さな灯が僕の背中を暖かくした。一緒に探し、共に笑い、過ごしたらきっと楽しいだろう。幸せなのだろう、しかし僕には両親や住む場所がある。両親の期待を裏切る事になる。そんな事僕には・・俯きながら悩んでいると、彼女は僕の顔を両手で包み込み、彼女と視線が合う。真っ直ぐな、雲一つない青空のような瞳が僕を映し出しているのがわかる距離であった。
「もちろん無理にとは言わない。貴方には家族が居る。決めるのは貴方次第よ、あなたの意思よ」
「・・行きたい。これが僕の意思だ」
僕はこの答えに迷いはなかった。初めて自分で作った新しい道。僕の意思。
花壇のお世話をしていた神父様に挨拶をし、彼女達の馬車に乗った。
何故だか、初めて自分の足で土を踏み、空気を吸った気分だった。
全てかかっていた重圧は、自分で重くしていたのかもしれない。本当は空っぽの重圧だった。
背中の痛みは親からの期待だったのかもしれない。
僕が下した決断は間違ってはいない。
時間は無限にある。
やり直す事ができる。
そう、姉さんと一緒なら。僕は姉さんと共に。
“楽園”と呼ぶ、彼女の館までの道のりの中、馬車は揺れる。乗客3名を乗せて。
僕は馬車の中でこれまでの境遇を説明した。
しかし、先ほどから道が険しくなり、馬車の車輪が振動を伝え僕の臀部に熱が入る。体が疼きだし、息遣いも不整になっていく。
「どうしたの?気分でも悪くなった?」
「・・違うんです。あの、」
「・・着いたらまず湖に行きましょうか」
「湖には何かあるのですか」
「楽にしてあげるわ」
随分森の深い所まで来たと思う。先ほどよりも振動が強くなり、じわりと汗がにじむ。
「そうだ、楽園に着いてからでもいいのだけれど・・楽園入りをするならば今の名前は捨てる事になるわ。それでもいいかしら」
名前?何か理由があるのだろうか、しかし今はそんな事を考えている余裕はなかった。
「っ・・は、はい構いません」
「そうね・・“アシダンテラ”。花言葉は豊かな気品。さぁ、もうすぐ着くからそれまで頑張って」
「アシダンテラ・・。」
僕の新しい名前。
馬車が止まる。
森の奥、アニスの花が見えた所で立ち止まると、姉さんはそっと土を触る。すると次第に門が見えるようになる。この仕掛けに第一声を上げたのが姉さんに抱かれていたロサルゴサだった
「さっきまで・・なかったのに」
「アニスの花言葉は知ってる?」
そう僕に問いかける。
「活力」
「そう、でももう一つ意味があるの。それが“騙す”。このアニスに触れたり匂いを嗅いだりすると幻覚を見るの」
「じゃあ、今僕達が見ているのは幻覚?」
「いいえ、これが現実。更に言うと、アニスは主を持つから」
「他の奴らは見つける事さえも出来ないって事?」
「そう。でも、貴方達のような私に認められているものは主のものと、みなしてアニスはそのまま咲き誇る」
そんな魔法のような花があるのだろうか。まだまだ僕は知らない事だらけだった。
「さ、中に入って」
門が重い音を立てて開き、長い一本道を歩き草木花のアーチをくぐりながら、館から右隣に少し歩き、森へまた入る。
「出入りする時は、さっき通った一本道のみだから気をつけてね。その他の森は私が居ない時は決して入ってはいけないからね。湖までは大丈夫だけれど・・」
「入ってしまったらどうなるの?」
「怖い人たちに連れ去られてしまうわよ。まぁ、そんな約束破りはしない事を信じているわ」
自由、とは言ったもののそれなりの自由というものがある。
「出るのは自由と言ったけれど、ある程度のルールはあるからね。もし、この館から出ていくとなったら、理由を用意しておくのよ」
「ルールがない自由は、破滅をもたらす。そういう事ですか」
「そうよ。私だって守ってくれないとルールも増えて自由なんてなくなってしまう。二人は守ってくれる?」
「「もちろん」」
「っと、湖はここよ」
森を少し進んだ所にはぽっかりの地に空いた湖が露わになっている。
「着替えは今持っていないから、そのまま同じのを着てもらう事になるけれどアシダンテラ下着を脱いで」
「えっ!?湖に入るんですか」
「えぇ。大丈夫よ、深くないから。そうね・・丁度お腹の辺りくらいの深さね」
「え、で、でも、その」
兄からの仕打ちで臀部に異物が挿入している所を見られたくない。失望されたらどうしようか。淫乱だと思われてしまう。そう思い、しぶっていると姉さんは靴を脱ぎ始めた。
「大丈夫、部分を洗うだけだから。なんなら私も入りましょうか?」
姉さんはそっと、ロサルゴサを青々とした草の上にそっと下ろし切り株で支えた。
「先にアシダンテラにしちゃうけれど、ごめんなさいね」
「ううん。早く楽にしてあげなよ」
「おいで」
姉さんは靴下と袖をまくり、白い足と腕が現れる。両手を広げ、僕を向かい入れると優しく僕を抱きとめた。心地よい温かさと良い匂いが鼻をくすぐる。心なしか、柔らかい姉さんの胸が僕の胸伝いに感触が伝わり、余計に鼓動が早くなる。
そして姉さんは僕を抱え、足だけを入水し僕の臀部が湖につくようにした。すると、姉さんは僕の臀部のを優しくなでながら、ゆっくりと臀部の穴に指を這わす。
「っ・・!?ま、待って、ね、姉さん、あ、の、何を・・!ぅあ、あっ」
「初めは少しキツイかもしれない。けれど、すぐ何も感じなくなるからね」
そういって臀部の穴をほぐしつつ、挿入部を抜いてゆく。
「その湖は何かあるの?」
草の上に座っているロサルゴサが問う
「全てを洗い流す、という説があるらしいわ。でも治癒力は本当だと思う。私も時々怪我をした時に浸かると普通より倍に早く治癒するの。不思議よね」
「んっ・・ふ・・あ、姉さんっ」
姉さんの背中に腕を回した手に力が入る。じわりじわりと、局部と臀部が熱を帯び、だらしなくも口の端から唾液が流れ落ちる。
「気持ちいい?」
「わ、わからない・・。でも、何かっ・・熱くて・・ね、姉さんもっと・・あの・・っ」
涙が頬に伝いながら、よくわからない気持ちと感覚を姉さんにぶつける。嫌な顔一つせずに、姉さんは僕の唾液を舌でなぞると、順を追って僕の唇に姉さんの唇が重なる。柔らかくて、小さな唇。甘くて痺れそうになり、僕は今まで感じた事のない昂ぶりに、姉さんとしか呼べなかった。
「も・・無理、変っ・・!ね、姉さんっ・・ぅああっ!」
「どう?楽になったでしょう?」
疲れ切った僕は、姉さんの肩に顔を埋める。それに答えるように姉さんは僕の頭を優しく撫でながらそう話す。
「う・・ん。でも、服・・汚してしまった、ごめんなさい」
じわりと下腹部のあたりにシミがついてしまった。
「いいのよ、どうさ新しい服に着替えるのだから。お次はロサルゴサね」
僕を湖から出すと、姉さんはロサルゴサを抱え傷口を湖につける。これはかなり痛むだろう。
「!!!!!あぁあああ!!!」
無表情な彼が脂汗を掻きながら、悶え、暴れ始める。黒髪の隙間から覗く緋色の瞳から、緋色が消えてしまう程大粒の涙を流す。
「頑張って、すぐに痛みは消えるから・・!」
そういい、数秒後ロサルゴサの動きが落ち着く。
「はぁっ・・はぁっ・・・痛くない」
「頑張ったね」
「痛みがなくなっただけで、傷は傷だから安静にしていないとだめよ」
そうこうしていると湖のある場所から見える大きな塔の上にある鐘が重く鳴り響く。
「これは?」
「時を知らせる鐘よ。さぁ、まずはお休みなさい。治癒を早める代わりに、それなりの体力も消耗するの。行きましょう」
湖の奥から生暖かい風が通り、鐘の音も同時に流れ、刻を止まる合図を知らせる。
全てはあの日、彼女のように。刻は止まったまま動くことも動かすこともできないまま。
それでも風はなびき、鐘の音が響く。
本当の鐘は何を知らせるのか。
=続く=
【自分の意思】