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【鳥瞰人】41
洛中洛外図屏風など、日本画には空から町を見下ろした構図がある。
絵師が山の上から眺めたとか屋根の上に登ったとか諸説あるが、本当は鳥瞰人と呼ばれる人がいたから可能な構図であった。
鳥瞰人は鳥のように空を飛ぶ。
鳥のような眼で、建物や人の動きをとらえ、位置を把握することができた。
とある殿様の命により、絵の構図を写すときのみ依頼を受け、絵師に提供していたという。
今もいるとか、いないとか、噂では正体が烏天狗。
【死者の名簿作成業者】42
孤独にこの世を旅立つとしても、死者の名簿作成業者は必ずあなたの死をあなたの名と共に記す。
何故死にゆく人を知っているのか、何故名が分かるのか、数多の謎をインクに溶かして記録する。
静かな微笑みは最後の愛の一滴。
誰一人として漏らすことはないという。
【雲の上の大家】43
「安定した白雲を恒常的に保ち管理するのは骨が折れます」
と柔和な面立ち、雲の上の大家の言である。
上空幾万メートル、遠い空の雲の上を所有し、賃貸している。
日当たり良好、絶景必至。
しかし誰が借りるのか?
「風神雷神様とか・・・」
柔和な笑顔で、曖昧に濁す。
【妖怪駆除係主任】44
「なになに、最近妖怪を見なくなった?
時代のせい、科学の実証主義のせい・・・
やれやれ、俺たちの活躍は誰も見やしねぇもんだ!」
と、のたまうのは妖怪駆除係主任。
闇夜に跋扈する怖い怖ーい妖怪を駆除してきた。
「昔はよかったって?河童に内蔵を引き抜かれてもそう言うかい?」
彼らは闇夜の安心を自負している。
【忘却失せ物記録者】45
大事なものを失くしてしまうと、惜しみ悔やむ思いがいつまでも心の中に残る。
ただ、買い物のレシートや、他愛のないメモなどは、失くしてもすぐ忘れられてしまう。
そんな寂しい失せものを記録するのが、忘却失せ物記録者。
忘れ物とはすべて悲しいもの、悲しいものは忘れてはならない。
忘却と失せ物、二重の悲しみを綴る。
【怪盗朧月夜】46
『あなたの瞳に妖しく光ります。怪盗、朧月夜。』
と、CMだけして正体は語らず、怪盗朧月夜は去っていった。
いっそのこと紙幅を盗んでいったのかも知れない。
「はっきり」したものを盗み、何でもぼかしてしまう。
【喪失語句辞典編纂者】47
言葉は発せられて宙に舞い、有限なる人の脳に記憶される。
時に本にも電子にも、人の脳にさえ記録されない言葉もある。
しかし、ただ一度だけでも使われた言葉は、喪失語句辞典編纂者が記録し、辞典に載せる。
喋る人書く人のいない言葉ばかりを、泡沫を捕まえるようにして集めているのだ。
「ええっと、『チョベリバ』っと・・・」
【金糸雀救助隊】48
置き去りにされた鉱山の金糸雀を、金糸雀救助隊は救助する。
光る服で暗い鉱道を飛ぶように駆け、鳥籠を抱えて秘密の通路から脱出。
「金糸雀が命懸けなら、金糸雀のために誰かは命懸けになってもいいと思ってねぇ」
元鉱夫。
頭の上にとまる金糸雀は金色の歌声をのんびり響かせる。
【物語の綻び仕掛人】49
物語の綻び仕掛人は物語を愛する。
だが、綻びを見つけ、人目に触れさせるのが彼女の仕事。
物語には人の心を動かし、行動を起こさせる力があるから、という。
「偽証、虚言、捏造なども、物語なのです。
ダマすといいます。
私はそのダマの綻びを見つけるのです」
物語の利己的利用を憂う。
【幻獣ハンター】50
幻獣ハンターは伝説の盾(お手製)を左腕に、伝説の剣(お手製)を右手に、荒々しき姿で、幻獣を狩る。
というか、狩るべき幻獣を探している。
今のところ、遭遇したことはない。
「よく笑われるよ。
それでも、誰も『存在しない』ことを証明したことはないんだ。
俺は幻獣を狩ってみせる。
それがロマンってものだろ?」