11~20
【錬金術の商人】11
古いシルクハットに、モノクル。
ブルーのマントに、星の滑車がついたブーツ。
黒いトランクを手にした、白い髭を蓄えた老人を見かけたら、十中八九、錬金術の商人だろう。
不思議な錬金術の品を見せてくれる。
だが、何故か泣いている人にしか商品を紹介しない。
【経年劣化担当】12
あっちの柱に塗料を吹き付け、こっちの鉄骨に錆を起こし、そこらのタイルに黒ずませ、人の肌に皺を残す。
これらはすべて、経年劣化担当者の仕業である。
「私たちの仕事は止められないのです。そう、誰にも」
【幻燈館「地獄の世界」のチケットもぎり】13
幻燈館「地獄の世界」は遊園地に忽然と現れる黒いテントの幻燈館である。
口上を述べ呼び子をするのは一つ目のアイマスクをした奇妙なチケットもぎり。
実は彼の館の支配人という顔を持つ。
「当館は自信を持って“地獄を見た人”をご覧になるお客様をお選びしております」
実はこれが決まり文句。
【幻燈館「地獄の世界」の案内人】14
幻燈館「地獄の世界」に入ると暗室に浮かぶ幻燈の物語を聞かせる案内人がつく。
幻燈の明かりに白い歯と白い手袋がくっきり見えるが、全貌を見た者はいない。
語りの独特な節回し、闇の中で影のように動く身振り手振りと、存在感は確からしいが・・・
【風の噂】15
とある強制収容所で秘密裏に生体実験が行われていた。
被験者は収容所を出ると二度と戻れなかったので、捕虜たちは何も知らないはずだった。
しかし、いつの間にか捕虜たちは自らの行く末を把握していた。
そして、抵抗運動を起こした・・・という。
こうした事例の背景には、大体〝風の噂〟と呼ばれる何者かが関わっている。
・・・と、専らの風の噂である。
【小さき人々の追跡者】16
虫取り網を手に旅をする彼は【ちっさいおっさん】【小さい妖精】と呼ばれる神出鬼没の小さき人々を追跡するのが生業だ。
「あいつら電車もバスも無賃乗車なんですよ?許せますか?絶対払わせてみせます!」
督促に闘志を燃やす彼は元々駅員だった。
【マンホール探検家】17
マンホールの穴からひょっと首を出すのはマンホール探検家。
「排水溝を探検します。汚いとお思いでしょ?しかしそんなこと塵に思えるほど迷宮は魅力的なのです」
迷彩服は泥の色、あらゆる排水溝の地図の完成を夢見る目は爛々。
何でも、暗い場所ばかり歩くから目が進化してサーチライト代わりになるらしい。
【言葉尻の盗賊】18
「コピー機が壊れてしまいまして・・・」
「どうぞ何卒・・・」
日本人は目上の人間への依頼のとき、皆まで言わないのが謙譲表現になるという。
ところがこれ、実は後ろに続く言葉を、言葉尻の盗賊に盗まれてしまっているだけ。
奴は曖昧さともどかしさを好むから、言葉尻を奪っては、言葉が出なくて困っている人の顔を見て、ほくそ笑んでいるのだ。
【幻想職業事典編纂者】19
幻想職業事典編纂者は私のことである。
幻のような職業を集めて事典にしている。
幻に出会うのは並大抵のことではないが、とある修行を行い、研鑽を積んだ末この職に就けた。
企業秘密であるから記載できないが、もし私と会えたら修行内容をご教示しよう。
【埃製造担当】20
あの黒っぽいモヤモヤ、白っぽく積もるコナコナ、埃が何処から飛来するのか。
埃製造に勤しむ彼は、メガホンのような機械から次々とふわふわ埃を撒き散らす。
「経年劣化担当と同じですぜ。時が経ったと、知らせるのです」
均等に埃を積もらせるには技術が必要、らしい。
*11 錬金術の商人→『錬金術を売り歩く商人』http://ncode.syosetu.com/n6955bx/ 小説家になろう掲載版
*13、14 幻燈館「地獄の世界」のチケットもぎりと幻燈館「地獄の世界」の案内人→『幻燈館「地獄の世界」』http://ncode.syosetu.com/n0535bv/ 小説家になろう版
即興小説トレーニング http://sokkyo-shosetsu.com/author.php?id=265146865