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1~10

【ブランコ乗り】1


ブランコ乗りをご存知だろうか。

彼はひねもすブランコに揺られている。

時に座り、時に立ち、絶えずブランコを漕いで、通りすがる子供たちに帽子をちょっと上げて挨拶する。

アクロバティックで優雅なブランコさばきは見物。

いつの間にか姿を消し、現れると必ずブランコに乗っている。



【蛙合唱団団長】2


蛙合唱団の団長をしているという彼女は、六月にふらりと現れる。

青々した田園の前に立てば喧々諤々の蛙鳴あめいに耳を澄ませ、葦のタクトを振ると忽ち一斉の混声調和をもたらす。

雨蛙のソプラノ、蟇蛙のアルト、牛蛙のバリトン。

いずれもなくてはならない声ですよ、と微笑む。



【怪談職人】3


怪談職人というやつは謎めいている。

常時微笑、しかれども無表情、ふと見れば余韻を残して辞去。

13日の金曜日、特に目玉のようにぬめりと光る満月の夜が一番好きだと言う。

「何故って?特に理由はないね。怪談とはそういうものさ」

暗闇に白い歯列を剥き出して愉快犯。



【紫陽花染織人】4


紫陽花染織人は梅雨の時期に花開く紫陽花を愛でて回る。

妖しく誘う紫、頬を紅潮させ、楚々として青、冷然たる白眉。

染め粉と刷毛を手に、愛しの恋人を染め上げていく。

愛という潤いなくば枯れてしまうのですよ。

彼は当然のような顔をして雨の中を花から花へと移ろう。



【コウノトリ仲介人】5


時に神の所業とも、悪魔の所業ともいわれるのがコウノトリ仲介人。

赤ん坊の手配をする運命の役人は、コウノトリに赤ん坊を渡し、見送るのが仕事。

どこからその赤ん坊が来るのか、そしてどこにいくのか、彼は口が固く、決して語らない。

人の最初の旅をひたすらに製造する。



【雑草請負人】6


雑草請負人は、除草業者ではない。

アスファルトや縁石の隙間、ビルとビルの間、家の塀の隅、空き地などに、どこからともなく着床し、生える草花たち。

その種を撒くのが、彼なのである。方法は簡単。

ズボンのポケットに穴を空けておき、あらゆる雑草の種でいっぱいにし、人工町中を歩き回る。



【蝋人形墓地の墓守】7


生前、じろじろ見られ、笑われ、恋され、一方的に罵倒されてきたんだ。静かに眠らせてやれ。

と、墓守は地下から湧く水の泡のような声で言う。

彼が守るのは蝋人形の墓地。

使い古され色褪せた蝋人形たちの前に立ちはだかり、何人にも触れさせない。



【死の代理人】8


あなたは気付けるだろうか。ひっそりと佇む死の影、その代理人の存在に。

貴賤、善悪、人望、経歴、家族の如何を問わず、死する人を選ぶ。

その選定基準は決して明かされない。

ちなみに、その非情の代理人の姿を見た者は、誰もいないという。



【東京路面電車の技手】9


かつて大東京には路面電車が通っていた。彼はその技手である。

「今はなくとも、昔、市民の足であった路面電車が存在した事実は消せない。

だから私も存在する。

電車を運転し、東京の道路をゆき、町のあちこちを巡る。

実はこっそり営業しています。」

運よく出会えれば、その電車に乗れるという。



【結晶形状決定主任】10


雪の結晶は何故美しいか?鉱物は何故個性ある形になるか?

すべては結晶形状決定主任の手によるものである。

結晶といわれるどんなものも、彼が考え抜き、デザインし、決定を下す。

「万物の声に耳を傾け、それを反映させるのが肝心です」

責任重大の役に固きポリシーを滲ませる。

*4 紫陽花染織人→「紫陽花染織人」(春子と不思議な物語シリーズ)http://ameblo.jp/midorimushi-show-bow/entry-11309482458.html/みどりむし書房のブログ

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