なんて馬鹿馬鹿しい。
私は分厚い本を閉じると、苛立つままに溜め息をついた。
馬鹿馬鹿しい。妖怪駆除係?死者の名簿作成業者?そんな職業があるものか。
青い滑らかな表紙を眺める。どう考えても、誰かが悪ふざけで思いついた創作物だ。文学の分類番号を付すべきだろう。「労働」に分類されているなど、馬鹿にしている。
立ち上がり、元の書架に戻しに行く。
ぎっしり並ぶ本の背表紙。さきほど、『幻想職業事典』を取り出したところだけ空いている。
するりと本を差し込み、そのスペースを埋めた。
まるで鍵穴に鍵を差し込んだように、本がぴたりと収まる。
苛立ちが治まらないまま、私はまた溜め息をついた。就活の黒い鞄の持ち手をぐいと引き寄せ、立ち上がる。
・・・大体、職業は対価と引き換えになる労働の種類をいうのだろう。一体あの事典に載る職業がどうやって職業たりえるのだ。あれらで金銭を得られるわけなかろう。世間でどう生きる?あの事典に掲載されている職業人は、霞でも食ってるのか―――
ふと、書架から出ようとしていたところを、立ち止まる。
あの本は、他の本に紛れて、きっと分かりにくいに違いない。
配架場所を間違えた本があるとカウンターのスタッフに言おうか。これだけ本があるのだ。図書館員だけでは把握しきれない本も存在するのだろう。
自分でもよくあんな奇妙な本を見つけたと思う。
ふらふら図書館内の書架をひたすら遊泳するが如く巡る私のような者がいなければ、分からないことがあるのだ。
そう思って振り向くと、
当たり前のような顔をして、笑っている私がそこにいた。