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【羽虫点呼者】91
春になると集まる。
何をするでもなく、宙に集りブンブン飛びまくる小さな羽虫。
実に神秘的というか不可思議な現象だが、その裏には羽虫点呼者の仕事がある。
彼が羽虫に呼びかけると、一斉に集まり、かの現象を起こす。
「何でって?
俺はアレにぶつかって驚く人の顔が見たいだけ」
結構な人数が引っかかるという。
【闇の粒子統括責任者】92
日が落ちると連れて来る。
目の前を塞ぎ、空間を閉ざす闇の粒子。
闇の粒子統括責任者は、影や夜にほどよい闇の粒子を配分する役目がある。
密度の濃い闇を衣のように纏い、袖を一振りして隅々まで闇を行き渡らせる。
安息、睦言、黙考。光ばかりが希望ではないと、闇を背負って語る。
【かまくら仙人】93
雪の深い日には、ふくふくとしたかまくら仙人がやって来る。
家よりうず高く積った雪に横穴を掘り、火鉢や餅や汁粉や雑煮などを用意して、居心地良さそうな空間を作る。
吹雪で方向を見失った人を、そのかまくらの明かりで導き、暖を取らせて餅を振る舞う。
ちなみに餅は美味い。
【地球守護神】94
エジソンが電気を発明して以後の地球は、いわば深海で生物が発光しているようなもの。
暗黒の宇宙に自分の存在を知らしめている。
当然外敵に見つかりやすいため、地球は危機にさらされているが、地球守護神がバリアを張って日々地球を狙う外敵から守っている。
「地球外生命体、案外いますよ」
24時間体制なのでげっそりしている。
【獏の夢見】95
夢を主食とする貘は、誰かの夢を食い、栄養とする。
貘の夢見は、そんな貘が蓄積する七色の夢を取り出して見聞記に認める。
人間の夢、蟻の夢、鵲の夢、海豚の夢、蛤の夢。
誰かが見た夢を貘はたくさん知っている。
貘の胃は夢でいっぱいですと夢にとりつかれて貘を屠る。
【占い師の水晶玉製造業者】96
一点の曇りもない、先を見透すだけの透明さ。
球体の水晶をそれほどまでに磨き上げるのは、並の技術では不可能である。
「あくまで占い師の力を引き出すものです」
と謙遜する占い師の水晶玉製造業者は侮れない。
美しく神秘的な水晶玉は占い師の力を時に数倍にまで力を増幅させる。
中には水晶玉の力を己の力と勘違いし、過信したあまりに報いを受ける占い師すらいるという。
【日常左半次】97
日常茶飯事の出来事の隣には、日常左半次の影がある。
仕事で大忙し大慌てのとき、日常左半次が依頼を舞い込ませる。
失くし物の多い人には日常左半次の悪戯がある。
「いつものうっかり、いつもの事件。それが日常茶飯事です」
ちょっと笑える、が条件。
日常を変える大事件とは対極にいるのが日常左半次である。
【羊カウンター】98
あなたが眠りについた後、あなたの代わりにあなたが数え残した羊を数え始めるのが、羊カウンター。
一匹ずつ柵を越えたり、一面に群れていたり、眠りの羊は十羊十色。
「せん・・・ごひゃくじゅうに匹!!」
羊を数え終えた途端にパタリと寝てしまうので、決してあなたは羊カウンターから自分の羊総数を聞くことはないだろう。
【風の通り路の作り手】99
都市や住宅街に、密集した建物群を縫うような風の通り路が出来ているのをご存知だろうか。
東西南北を巡り季節をもたらす風に路を提供するのが風の通り路の作り手。
ビルの隅の観葉植物に、家と家の通用路の苔にまで、風が春夏秋冬を連れて来る手助けをする。
「楽しいものですよ。
風と私だけが知る路があるのですから」
【絵画の世界探検家】100
絵画の背景に広がっている世界に行ってみたいと思う者は五万といるが、本当に行ってみたのは絵画の世界探検家だけ。
彼は様々な絵画にひょいと入り込み、その中を逍遥、愉快に観察した。
モナリザのいる山脈を見て回り、ムーラン・ド・ラ・ギャレットで婦人とダンスをした。
元キュレーター。
絵画への愛は変わらない。
*96 占い師の水晶玉製造業者→
「水晶弄波」(幻燈館「地獄の世界」)
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