71~80
【文字仙人】71
誰が何と言おうとも、文字仙人は山に住む。
里に降りて世界一周、世界各国の文字を採取し、収集したらまた山に蟄居。
「死せる言語があれば、文字も然り。
誰かが話せるうちに、読めるうちに、記録しておかねば消滅する。
日本でも既に失われた文字はあるのだよ、知らないかい?」
俗世から離れられぬ、しかれども彼は文字仙人。
【金魚の国創設者】72
紅の打掛をゆらめかせ、黒い墨の如き鰭で水を溶く。
金魚の国の城郭は優雅絢爛、幾尾もの金魚が遊ぶ。
巨大な水槽を用いた、金魚の国創設者曰く、夏の夜の道楽を、楽園に導く役割を果すという。
「弄ばれた短い命、花魁のような美しい罪。
私はそれを集め、救い、最後まで見届けるのだ」
愉悦と哀愁の国哉。
【猫道開拓者】73
住宅街の屋根の上。塀の上。細い通路に、垣根の間。
猫ぐらいしか通れなさそうな道を、猫道開拓者は潜り抜ける。
猫ぐらいしか通れなさそうな道を、猫より先に見つけて、得意満面で猫に案内する。
悔しそうな顔が何より好きですにゃん。
猫撫で声で言う表情は猫そのもの。
【酩酊遊人】74
赤提灯へ、宴会へ、酩酊遊人は渡り歩く。
いつもふらふら、幸福に夢うつつ。
笛を吹けば歌もうたい、一句詠んで笑わせる。
酒の席に溶け込んで、とことん楽します。
一銭も払わず誰も問わず、もう一度酒席に呼ぼうにもなかなか捕まらない。
酔いに任せて風流吹かせ、旅行くは酩酊遊人。
【透明人間捜査官】75
透明人間になったらどうする?
途方に暮れたら、透明人間捜査官を訪ねればいい。
きっと助けてくれる。
透明なのを利用して、好き勝手やらかしたら?
透明人間捜査官が必ず見つけ出し、天誅を下すだろう。
「存在が消えてるんです。こちらが如何様にしても文句は言えないはずですよ?」
笑顔が怖い。
【時のジュース作り】76
「『時間を潰す』というのですから、時とはすなわち、果物だったのです」
と、時のジュース作りは熱弁を振るう。
彼は慣用句からヒントを得て、『時』という果実を手に入れ、潰してジュースを作るようになった。
人や場合により、甘かったり酸っぱかったりするのが、時のジュースの妙味だという。
【睡魔討伐隊隊長】77
あなたが眠くて舟を漕ぎ出すとき、睡魔討伐隊は出航する。
元凶たる睡魔は自然の摂理なれども、睡眠とはすなわち海のようなもの。
舟を漕いで進むうちは、睡魔へ果敢なる抵抗をしうる。
討伐隊隊長はそんな睡魔への闘争心で満々。
眠たいあなたの心強い味方になってくれる。
【風乗り】78
波乗りとくれば風乗りだっている。
何故なら空気には実体があり、特に風の強い日は空気が塊になって波のように進み、渦巻いているからだ。
それに乗らない手はない。
海のように動くその推進力を利用して、風乗りは特殊な風乗りボードを用い、吹き荒ぶ風に乗って、木の葉や塵と共にどこまでもゆく。
【絶叫演出家】79
主な出先は遊園地。
特にジェットコースター、お化け屋敷など。
絶叫演出家は、絶叫する。
ジェットコースターの落下と回転に合わせて「キャーッ」。
お化け屋敷のお化け出現に際し「キャーッ」。
別に遊園地の回し者でも、サクラでもないが、ここぞというときに絶叫演出をする。
【水の巡査】80
苔むす岩から染み出す最初の一滴。
寄り集まって流れる細いうねり。
徐々に広がり勢いを増す河川。
様々なものを呑み込む深さを有する河口から全容を秘す大海へ。
水の巡査は水を巡る。
水道、雨雲まで網羅し、水の詰りや氾濫などを解決する。
が、彼さえ水によって連なる一大帝国を、未だ把握できないという。




