東方翠漆紫 6
「紫?それは彼にとって一番辛く感じるんだよ?」
「分かってる。分かってる……けど、これしか。」
早苗と紫が言い争っている守矢神社は神奈子も諏訪子も心配そうにこちらも見つめる。
「そもそも!」
私は机を叩いて叫ぶように言った。
「凌雅を幻想卿に連れてくるのが悪いんですよ!!」
そうすれば私の事も引っ越しただけ、と考えて終わってくれるのに。紫は何を考えてるのか分からない。私は紫に対して沸々と怒りさえ湧いてくる。
「そんなこと言うの?」
それなのにあの女はそんな口。
「何よ!!」
私は外へ飛び出した。
「早苗!」
神奈子様と諏訪子様が呼んでるけど……。
こうなるなら私は『決めた』。
私は宛もなくそこらを飛び回り、はぁと溜め息を吐いた。妖怪が襲ってくるけど傷さえもどうてもよかった。痛みには回復をさせてボーッと私は空を眺めた。それから泣いて泣いて泣き叫んだ。狂って狂って狂い尽くしたはず。
「もう、私は良いと思うんだ。早々と言った方がいい。」
そう思うんだ。
凌雅だって不可解に思ってるだろう。私が不自然に見えるだろう。それの理由を教えるくらい早い方が心労を少なくできるでしょう。
「私……どうしよう。」
ここ最近落ち込むことばかり。凌雅の事を思うと力が籠る。感情ごと私の全てが本能的に暴れようとする。
「もう………世界なんて要らない……」
博麗神社で霊夢のお手伝いさんとして働こうかな…アリスと一緒に人形作りに楽しみを置こうかな…それとも寺子屋の先生に……。
落ち込むこと永く気が付くと寺子屋の一室だった。まだ休みらしく…。
「さ、早苗!!??」
慧音が表情の狂った私を見つけてくれた。
「私さ……神社から抜け出たんだ。」
嗚咽混じりの私を手に連れて椅子を引き出す。
「紫にも裏切ってさ…」
慧音は真剣な顔をして聞いていた。
「神奈子様と諏訪子様に心配かけてるけど凌雅の事も有ってさ……私、あそこが段々居場所とは見えなくてさ。」
「なぁ…」
慧音はひとつ口に出した。
「一念発起ってしたことあるか?早苗が考えたことを自分でやったか?やってないんだったらやれ。紫でも霊夢でも反対が来ても異変じゃないだろ。」
そう。これは事実を伝えるため。
その後は慧音の胸のうちで泣き続けた。慧音はそんな私を優しく受け止め、背中を撫でてくれた。何年ぶりだろうか。そんなことをしてもらってのは。
私って弱いね……………………………。
「神奈子!後ろ!」
「くっ…!!」
「させないわよ!夢想封印!!」
「数が全然減らないじゃんよ…」
何十と居る魔物の討伐だ。正直、キリがない。埒もあかないし疲弊して滅びるのは避けたい。
「二神と巫女と一般人じゃな。」
「向こうより手が詰みやすい…。」
魔狼はジリジリと距離を縮めてくる。
「いきなり失礼!霧雨魔理沙のマスタースパーク!!!」
軽く十体あしらう魔理沙の救済に一旦は落ち着く。
「それにしても凌雅…あんた身体能力が売りなの?凄すぎるよ。」
「さあな?」
踏み鳴らしていたその足を駆け始める魔狼にはたまた偶然にも有った剣を使って切り込む凌雅を筆頭に迎え撃っていた。
「凌雅!」
霊夢が彼に襲おうとしている魔狼に気付き、叫ぶ。しかし彼は口角を上げただけだった。
「「「凌雅!」」」
他の三人も叫ぶ。そして噛みつかれる瞬間を見たがその魔狼は光の泡となって消えた。
「やっぱりね。」
真剣に居たようには見えない声を出す。もしかして見破ったからこうしたのか。
「紫?どこ?テストならペーパーで結構じゃないの?」
「実技よ。」
そう言って現れる紫。それも見破っていた。
「ご名答よ。満点をあげるわ。」
剣だった。青い柄の剣だった。
「どうかしら?」
「チェックでまずは…」
そう言うと紫に斬りかかった。その紫はスキマを使って回避する。
「り、凌雅?」
魔理沙が呼ぶも生返事しかなかった。
「もしかして許してくれないかしら?」
「許すはず無いだろ!あのままさらっといきたかったんだ。」
そう言った途端、紫も凌雅も急に倒れた。