東方翠漆紫 19
紫は浮かない顔をしながら、霊夢も青い顔をしながら神社まで着いた。
「他の社に手は出したくないからな。」
そう言いながら神社に登り着いた。
奇妙な風が吹いた瞬間、早苗が現れた。しかし、どこかおかしいのは瞭然として見えた。
「早苗」
紫はそう呼び掛けた。
「………」
しかし、静かに流れていく。
「二人を出してどうするの?」
霊夢は訊いた。自分で言いながら次の言葉を探していた。
このなか、紫は焦っていた。自分のスキマは使用不可能で、今はただ弾幕の巧いだけの妖怪だ。脅威は無い。
「邪魔」
早苗はそう冷たく息を吐いた。
「たったそれだけの連中で勝とうなんて何億年も早いわ。」
「!?」
皆、その一言に驚いた。特に霊夢は酷く驚いた。
彼女の狭い心を拡げた、その過去に本気の目をして言った「恩人」とは程遠い、複雑な思いが言葉を殴り倒した。
「けど、私はやるのよ。」
「なら殺すまで。」
巫女とはかけ離れた口調の早苗と対峙する。
「夢想封印!」
しかし、早苗は動かず手を組んだ。その顔はまるで勝ち誇ったかのような堂々とした構えだ。
「!?」
霊夢は思い返した。これほど早苗は強かったのか。
「封魔陣!!」
「殺人ドール!!」
まるでそれを雨粒のように弾く早苗の軽い体術、そのもので意識を離した。
早苗………やはり、強いんだよね。
初めてやったときから感覚は有ったんだ。
各々呻きを出して目を開けた。
「危なかった。大丈夫?」
神奈子と諏訪子の声だった。すぐさま何かを飲まされた。するとみるみる疲労と痛みが消えていった。
「早苗でしょ?咲夜、鈴仙、妹紅。慧音。」
そしてやっとして周りに誰が居るのか把握した。すると奥から戸が開く音がした。
「急患!」
それは魔理沙を連れた萃香と勇儀だった。
「永琳の薬は強いわね。」
神奈子の感嘆は一旦、束の間の休憩を思わせた。
「アリスも何とか出来たけど、寝込んでる。あと数十分かな。」
神奈子の後ろには寝ているアリスが居た。
「どうしよう…」
「ごめん。遅れた。迷子は怖いな。」
「エミ!?」
それは無傷のエミだった。
「あれは分身だよ。けど、居場所バレて死にかけた。」
「はぁ。」
「んなことより」
回復した魔理沙が言う。
「どうしてこうなっちまったんだ?」
「どうも」
二人して、声を揃えて答えた。
「早苗にとっては邪魔だったみたい。」
しかし、すぐに反論が出た。
それはエミと鈴仙だった。
「そんなことはない!」
エミが話を続ける。
「早苗は貴方達を傷付けたくなかったから追い出したと思えませんか?」
鈴仙が取り次ぐ。
「早苗はお人好し、人を困らせるわけにはいかない。苦しませてはいけない。だから先手を打って博麗神社を圧迫した事も有ったでしょう。」
「大切な貴方達に苦しい思いはさせたくない。もし、そう思っていたなら。」
「それが悪に働いてる。」
二人の説得を聞いた神奈子と諏訪子は黙った。
「あの子には結界が強く張られている。霊夢の数倍は有る。正直、紫が「霊夢よりも光る」と隠れた才能を誉めていた位だ。」
「だからこれ。私のこれを。」
それは結界を破れるキーアイテムだった。
「さて、誰がな…。」
「私は囚われた皆を戻します。」
そう、手を上げたのは鈴仙だった。
「なら……………」
「よし、じゃあ。行くぞ!」
そして大一番が始まった。