東方翠漆紫 17
それは………………
「凌雅!?」
「狂気かなんか、か?」
「咲夜は寺子屋にて力尽きています。凌雅はおそらく撹乱作用の毒薬を飲まされて所持したナイフでです。」
ニヤリと微笑む凌雅。
「魔理沙にRRL」
「その前にお前だ!」
しかし、そのフェイントは当たらなかった。拳が目の前40センチをきっていたのに。
それを救い、蓬莱を抱えるようにしてフェイント攻撃を避けたのは文だった。
「まぁ、いいか。」
「何が?」
妹紅が尋ねる。
「いや、なんでも。あっ、失礼!」
そのまま寺子屋に…咲夜を奪還に向かっていった。
「隙に封魔陣したけどあまり通じないみたい。」
「あいつは焔に…」
それはエミだった。
「私の属性を受けているから炎で。」
そう言わずに魔理沙がマスタースパークを放った。しかし、氷の壁に打ち消される。
「エクスパンデッド・オンバシラ!!」
「!?」
その持ち前の脅威的なスピードで避けていく凌雅に皆が焦った。しかも弾幕まで来る。それは………早苗に狙ってだった。
「私か?!」
それにいち早く察知した早苗は魔理沙の箒に捕まる。
「このまま振り切って逃げて!」
魔理沙はおどおどしながらも移動し始めた。
「チッ!」
唇を噛んだ。何故ならそれは魔理沙が凌雅に撃ち落とすか、凌雅が正気に戻るかの勝負になるからだ。こちらには早苗が、向こうには魔力の低さがある。
その時、霊夢は思い返した。
ーーお母さん……
「私、嫌だ…」
まるであの時と同じ胸の痛みが心を破壊し始める。
「あの日と…」
あの忌々しきあの日と
「同じ…」
私のお母さんと同じ…ような。魔理沙がお母さんに、私が見殺しにしたアイツと…。
「魔理沙ぁぁぁぁ!!」
私は壮絶な痛みが身体を駆け巡る事に顔をしかめた。胸を締め付ける様な痛みが襲う。
「アイスプロ………」
エミの声が聞こえはするも最後まで聞けなかった。それだけじゃない。
「ブレイジ…………」
あれ?なんだっけ?あれは、なんだっけ。名前まで忘れた。
「結局…………………」
私って弱いよね。
声にすらなってない。常に誰かが居なくては力を出せず、しかもその人を助けられない。そんな事態は努力してもなんとかできるかなんて保証は無い。
私は思い出した。
あの男が無理矢理私を博麗の巫女にした時、私は思ったことが有ったな。
見殺しにした男の話なんて聞きたくない。
信頼なんて棄てた男に教えられるという愚行を今もしてる。
拒否してもその男は冷たい目で諭す。
そんな野郎を殺したかった。残酷に仕立てたかった。
努力してもそれは出来るのか?
あの時、怪我させてでも止めれば良かったのに?
それから私は私を嫌いになった。だから魔理沙と出会ったあの場所で自分の身をかき斬った。
それは自分の決断。
その一連から
努力なんかしない
そう決めたんだ。
「霊夢!!」
心配するなら魔理沙を!
「おい!霊夢!」
だから魔理沙を!!!!
「とりあえず霊夢を…」
だから、だから魔理沙を!
魔理沙を…………早苗を…………凌雅を…………
声にならない声で示すも意識すら尽きた。