東方翠漆紫 15
「蓬莱。敵の居場所は分かる?」
「把握してますが、暗殺すると思った方が良いでしょう。」
銃は共々残り二発。相手は風を操る。緊張が身体を締め付けていく。
「来ます!」
妹紅が早撃ちで狙撃するも外れた。
「左に20センチ、もしくは1秒後ならヒットした可能性があります。」
そう言いながらそそくさと棚の陰に隠れた。靴箱の下には上海も居る。そして時間を操る咲夜まで居る。これはチェックメイトだ。
「どこかな?」
ドアから出てきた瞬間、男は倒れた。
「気絶完了。潜入に。」
やったのは上海だった。
街に戻ってきた俺らは慧音 (正気に戻っている)と会い、今回の異変のグループしたっぱを蹴散らす事にした。
「俺には瞬間移動の如き速さが有る。」
紫と早苗は無口に頷いた。
「紫のスキマとエミから授かった力で捩じ伏せる事も難しくない。」
慧音も構える。ワーハクタクの姿、満月の時なので身体能力や精神的な部分でも上昇している。
「紫…あんたは覚えてるだろ。」
「あんなことはさせない。」
紫には自らの油断のせいで多くの人を亡くした。それは外部侵入者による暗殺。それを取り締まらなかった自分が悪いと何年も、今も責め続けている。故に忘れることも無い。
「早苗…巫女の力を振るうが良い。」
早苗の目が本気の光を灯した。
「やっと来ましたね。」
黒板に向かって何かを書いている紅い髪の女が主犯だった。
「私の名は…」
白いチョークで丁寧な字で文字を書いていく。
「都坂渚と申します。」
更に何かを書き進める。背中には身の丈よりも大きい扇子が有る。
「私は『風を起こす程度の能力』。操りはしませんが逆に操れるような風は起こしません。おかげで高速移動も出来ます。」
そしてゆっくり扇子を引き抜いた。
「では、やりましょうか。」
それに釣られて構える。
「では授業です!」
その風で外に飛ばされた。しかも皆、揃ってだ。
「見くびらないでくださいね。」
エミは自然と氷を産み出していた。皆、緊張で動きが固いにも関わらずだ。
「私は女王よ?何を恐れるのかしら?そこの渚よ。」
エミは満面の笑みで続けた。
「ここに君臨する氷の女王…私を討ち取るのは出来るでしょうかね?」
この挑発で皆が徐々にリズムを取り戻した。
「おやおや。」
そう開いた口はにやけたものだった。
「なら…」
「先手よ!旋風陣!!」
扇から起こる風が身体に浮力を与えてくる。その上には目に見える程の風のカッターが有った。
その時、咲夜が時間を止めた。そして全員を風の渦から出してから解除した。ついでにミスディレクションも切っている。
「甘い…」
渚は瞬間移動の如く消えた。視野から外れた姿はどこにいるのか分からなかった。
「!?」
瞬く間に蓬莱のデータが落とされ、咲夜には傷が沢山ついていた。
「くっ………」
あまりの衝撃に躊躇いができる。
「先生はお見通しなのですよ。」
そうナメている。
「そこに人形が居るのも分かっています。そして今、後ろに霊夢が居て前には妹紅が居ること。銃を所持していることも把握済みです。」
そのくせして後ろを見ていない。それなのに的中していた。
死角が無い。そう思っていた。
「渚先生にはどの教科が苦手なんですか?」
それはエミからだった。
「私は地理が苦手なんですよ。先生は?」
「私は歴史ですかな?」
普通な質問だった。
「格闘術は持ってますよ?」
渚が距離を詰めた。だが、エミには見切れるスピードだった。
「ふふ、凄いね。あ、大丈夫。セコいことはしませんよ。」
その影で指を一本出した。十分は持つだろう。そういうことだ。
「避けてばかりじゃ勝てませんよ。」
「そうですね。」
それを合図に風を起こして顔に斬撃を与えた。エミは倒れる。
「隙あり!夢想封印!」
「!?」
エミは倒れたふりして足に氷を張り、拘束術をかけていた。身動きが取れなかった。
「だがな!」
「マスタースパーク!!」
言わせずに終わらせた。