東方翠漆紫 14
「どうもどうも。」
エミは厚さ七センチもの氷の鎧を着て席に座った。
「ふっ、サービスか?」
勿論、男はエミを狙うも本人は無傷に優雅に高笑いを上げる。
「!?……まさか」
「私に見とれちゃって?もっと誘惑に誘って上げようかしら?」
スッと足を組んだ彼女を横目に銃を持っている妹紅はそれを霊夢に、その霊夢も隠れている場所をコロコロ変えて今どこに誰がいるか、男は解らなくなった。
「では、0。自分のタイミングで撃ちましょう。」
霊夢は魔理沙から滑る様に渡された蓬莱を使ってデータ解析を終えた。
「狙うのはあの一点です。」
咲夜も何かを見つけ、手に持つとそれは拳銃だった。元々は咲夜も射撃はピカイチなので………。
「Stand shoot!!」
立って打てと指示されたそれは凶弾によって倒れた。しかし…
「人形!?」
パン!!ガキぃ!!
「目の前を過ぎたなぁ、甘い甘い…!?」
それは照明の金具を緩め、その男に倒れかかった。慌てて避けた男の手にある銃を撃ち落とす等、咲夜には簡単すぎた。
エミは永琳から貰った薬を飲ませ、皆を連れて館を出た。その後にアリスにも合流。
「あとは凌雅と早苗、紫ね。」
「慧音も戻ったみたいだな。」
この事を霊夢に言うと「風使いの能力は文なんだけどな」と難しい顔をした。文には人を操ったりは出来ない。しかもつい先程、倒した男は殺し屋だ。
「分かるか、蓬莱。居場所は。」
「寺子屋の可能性あり。」
皆はその声を頼りに寺子屋へ飛んだ。
「幽香ぁぁぁ!」
「何よ?」
早苗と紫は怒りに満ちた。
「紫!」
紫が幽香を止めるが攻撃できない。
「活ッ!!」
早苗の札を貼って回復させるも目を開けてくれない。
「よくも凌雅を!!」
私を庇って死ぬ?
なんだそれ。下らないお話じゃないか。
いきなりの奇襲に私は倒された。その相手は凌雅だった。
「あら?」
幽香が後ろから来ていたのだった。
「まあ、良いわ。邪魔が一人消えた。」
傘に仕込まれた剣を仕舞う。その剣に刺された凌雅は無言で倒れた。幽香は私にナイフを投げつけて距離を置かせる。そしてまた剣で………
「ぶっ殺してやる!!」
殺意に宿る目は復讐を表していた。ドスのきいた低い声が早苗から出る。隠し持っていたスタンガンとナイフを手に持つ。
「ミルキーウェイ!!!」
真横から魔理沙が突っ込んできた。
「永琳から診察の術を貰ってる。だから落ち着くんだ。」
そう言うと二人は強く握っていた拳を開け、滞っていた力を元に戻した。
「絶対許さない!」「地獄の果てよ!」
「馬鹿ね。」
その瞬間、スキマが三つ開き、ひとつはビームが、ひとつはナイフの集団が、ひとつは猛火が吹き出た。
「グレイソーマタージ!!!」
「……終わりね。」
そして二人は魔理沙のもとへ駆け寄った。
「大丈夫だぜ。息も意識もある。ただ、声が出なかったみたいだ。斬られた所も本人が処置してあるし、早苗の札で修復してあるぜ。」
二人はホッとした。
「凌ちゃん………」「凌雅…………」
「言っただろ…」
まさかの返答に驚く。
「あんたにエミと…外れるとき」
「早苗」
俺は軽く呼んだ。
「!?」
物凄い突風が吹き荒れ、エミも含めて三人が驚く。
「嫌な予感。」
「ああ」「ええ」
「でもさ」
俺は言葉を続ける。
「早苗を助けて尚且つ、エミもフォローして無事で帰るからね。」
その静かに情熱の籠った声は信頼出来るものだった。
「怖かった」
「紫…」
「私、あなたが消える怖い夢を見た。」
全く同じシチュエーションだったらしい。
「でも、大丈夫。」
まだ完全には復活していない身体を起こし、立ち上がる。
「生きて帰ろう。そして、抱き合おう。」
そう言いながら早苗を抱いた。翠の髪がかかる。背中を包む温かい手を感じる。そっと離した後、紫にも手を回した。柔らかな身体が馴染む。優しい腕のなかに漬け込む。二人の胸の温かさを染み透らせた。
「ちょっと、置いていくなよ。」
魔理沙が突っ込む。だが、それを置いて魔理沙をキッと見つめた。
「良いんだね?」
全員で頷いた。