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1話
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2話
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それは、夏休みも後半戦に入ったある日のこと。
「ここから、あそこまで」
細く長く白い指が宙を軽やかに泳ぎ、豪奢なクロスに飾られた長テーブルの上にずらりと並べられた色鮮やかなケーキとスイーツを指名する。
「一つずつ、あのテーブルまで持ってきて」
若いウェイターが困惑しながらも口を開く前に、必殺の一撃が打ち出される。
「お願いします」
ちょっと首をかしげ、上目つかいに満面の笑顔を見せる。
タイミングをはかっていたかのように、さらりと髪が一房流れる。
籠目市が生んだ超絶美少女、枇々野那奈の美少女力は、日本一女子高生が集まる街、ギャルシティ渋谷においても、更にはその南端にタワーとしてそびえる高級ホテルにおいても、健在だった。
「わ、分かりました」
顔を赤らめたウェイターは上ずった声で了解すると、いそいそとケーキを皿に盛りつけ始めた。
「あいかわらずあこぎなことをする」
ナナの背後に立つ長身でボブカットにメガネの少女、阿久津瑠璃はそう言うが、その口調は非難しているものではなく呆れているものだ。ナナのあこぎな行いによって、自分がその恩恵を受けることを遠慮する気も、ウェイターに同情する気配も全くない。
「お互い様よ」
ナナは悪びれずに答えると、コーヒーサーバーにカップをセットし、ホットカフェオレのボタンを押す。
「ケーキバイキングは一見お得に見えるけど、実際には人件費を下げることによって利益を上げる仕組みでしょ。このコーヒーだってそう。機械に任せておけば人手もかからないし、良くも悪くも味は変わらない。更に持ち運ぶ手間までカットしたら、コストはどんどん下がっていくわ」
シュボボボボと機械的な水蒸気の音を立て、ホットカフェオレが一杯できあがる。カップをソーサーにのせて席まで運ぶナナの後ろに、ジュースサーバーで調達したメロンソーダの入ったグラスを持つルリが続く。
窓際の良席である。外の厳しい陽光は直接差し込んでこず、窓の向こうに設えられた小さな庭園を照らすように工夫されている。
優雅に席についてから、ナナは続きを話し始める。
「さらに、ウェイターまで正規の店員ではなくて、大学生のバイトを使う。高級ホテルの売りは外観や内装の立派さだけではなくて、上質のサービスでしょう。そこを怠って経費削減のためにバイトを使ったりする。だとすれば当然、サービスの質は低下するわよね」
「でも、お前は十分にサービスを受けているだろう」
「違うわ。金銭を払ったものが等しく上質のサービスを受けなくてはいけないのよ。私のように特別扱いされるものが出てはいけないの。もっとも、」
ナナが言葉を区切ってウインクをするのでルリが振り返ると、先ほどのウェイターがよろよろと皿を持ってきているところであった。
「享受できる特権を拒む気はないけど」
付け加えると、ウェイターにもう一度微笑みを向ける。
「お待たせいたしました」
「ありがとう」
木目のテーブルの上には黒のランチョンマットが広げられている。空いたスペースにケーキを満載した白いお皿が次々と並べられていき、テーブルを埋め尽くした。
「素敵」
パンと手を打ち、いそいそと携帯電話を開く姿は歳相応のかわいらしさがある。
「ゆっくりとお楽しみください」
ウェイターは丁寧に挨拶をして下がっていく。ナナはカメラ機能を起動させながら評する。
「女子高生にたぶらかされはしたけど、ウェイターとしての資質は悪くないのね。ま、こんなところでバイトをしているぐらいだから、本来の目的は目的は女子大生やOLなんだろうけど」
「さっそく怒られてるぞ」
ルリの指摘どおり、先ほどのウェイターが背の低いウェイトレスに厳しい口調で叱責されている。
「もしかしたら、ああいうのが好みなのかもしれないわね。客の前で注意をするなんて、あっちのほうが失格だと思うけど」
ナナは興味なさそうに言うと、すぐに撮影に戻る。シャリーンと甲高い電子音が響くと満足気な顔をする。
「じゃあ、食べましょう」
「待て、私はまだ撮ってない」
ルリが撮り終わるとすぐにナナはフォークを伸ばす。
この店のケーキバイキングでは、ケーキは通常よりも小さく、細長くカットされている。ナナはその細長いケーキの五分の一ぐらいを切り取って直接口に運ぶ。
「む」
短くうなってすぐに次のケーキにフォークを伸ばし、また五分の一をカットする。次から次へとフォークを伸ばし、後には端がカットされたケーキが残されていく。ルリはそれらの五分の四のケーキを自分の前の皿に移し、ゆっくりと食べていく。
しばらくは会話もなく、ケーキを食べるという作業に没頭する。
「このラズベリーのケーキは絶品だな」
「うん、それは絶対におかわりする。この小豆のロールケーキも良いわよ」
それは制限時間二時間の闘いの始まりであった。




