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小さな覚悟と友情と、そして小さな守護者の祈り

久しぶりの更新にも関わらずまだこの小説を読んでくれる心優しい読者さんには心からの感謝を。

ありがとうございます!


皆さん、こんにちは。

オレことキリです。

いきなりですが大変です皆さん、マイベストフレンドことレオン君がこのなんちゃってエルフ娘の旅に付いてきてしまいました。

ちなみに予定では貴族(悪徳)のお屋敷から助け出してから別れるつもりでした。


「レオン、本当にいいんですか? 私と一緒にいるとナマハゲ姫に襲われますよ、ナマハゲを舐めていると痛い目に会いますよ、本当にナマハゲは恐ろしいですからね多分」

「吸血姫だからね、吸血姫。というよりナマハゲが何なのかボクには訳が分からないよキリ。その物体(ナマハゲ)を知らないから軽視しようがないからね、キリはそいつに襲われたことでもあるの? 」

「「ブフオォォォオオオオ(俺たちが踏み潰すから安心してくだせぇ)!!」」


なし崩し的に旅をすることになったレオン君が若干戸惑いながらもニッコリと笑いかけてくれます。

素人のオレから見ても惚れ惚れする綱裁きで馬を操りながら紳士的に受け答えしてくれるレオン君。

やだ格好いい、オレが心から女の子だったら全力投球で惚れてたよ。残念すぎることにオレの魂は男だけどもね。

ラブコメ予定はないです、少なくとも今は。


「ですからっ、このままだとレオンまで危険な目に会うかもしれないんです! 私と一緒にいればきっとあなたまで魔物に襲われます! 」


友達を巻き込むなんてできないからね、生け贄(?)はオレ一人で十分です。

ナマハゲもとい吸血姫さんが襲って来たら、多分オレじゃ勝てないだろう。

そこら辺の魔物(ゴブリン君)を倒せる魔法や貴族のおっさんを気絶させる程度の魔法を使えるぐらいでどうにかなる相手だとは流石の楽天家のオレでも考えない。

何せ相手は(この世界での)世間知らずであるオレが知っているくらい有名な『伝説の魔物』なのだ。

レオン君はオレがこの世界に転生して初めて得た友人だ、理不尽なこの世界に生まれ変わって良かったと思えた数少ないことなのだ。

だからせめて、綺麗な形でお別れしたかった。

それなのに、レオン君はーーー。


「うん、いいんじゃないかな。いきなり強大過ぎる敵が出現してそれを倒すために旅に出る、キリがよく聞かせてくれたお伽噺の主人公みたいでさ。えーと、俺たちの戦いはこれからだっ!」


少しも不安を感じさせない笑顔を浮かべて楽しそうに手綱を握り締めて宣言するレオン君。

でもそれよくある打ち切り漫画の決め台詞だからね!? 始まりじゃなくって終焉の言葉だからね!?


「と、とにかくレオンは自分の家に帰ってく「困っているなら助け合うのが友達でしょ? ボクはキリを見捨てないし、キリはボクを見捨てない、それが友情ってモノなんだよね……違うの?」……違いません、違いませんよ!」


間違ってないけど、割とヘビーな場面で聞きたくなかった。もうちょいライトなシチュエーションで使うものだよ。

学校で花瓶を割って友達と一緒に謝りに行くとかそんな感じでさ。

……いや、言い訳は止めよう。本当はオレだってレオン君に一緒に来て欲しいんだ。突然前フリも無しで吸血鬼退治してきなさいって、父親に言われてまだオレは気持ちの整理がついていなかったのかもしれない。

独りぼっちで旅に出て、独りぼっちで魔物と戦うなんて精神レベルが一般的な強さしかないオレが耐えきれるわけがない。

多分3日で村に泣いて帰る自信がある。

でも、今は違う。独りじゃない。

レオン君が自分から一緒に来たいと言っている、オレもレオン君に一緒に来てもらいたい。なら、答えは一つじゃないか。


「あなたは私が護ります。だから一緒に来てください、一緒にいてください、私の大切な友レオン」


しっかりとレオン君の目を見て伝える。

覚悟を決めろ、伝説の魔物だろうとレオン君を護りながら倒してしまえ。

それぐらいできなくて、何が元日本男児(カンケーない)かっ!

ところで「あなたを護る」とかプロポーズっぽいセリフだね、オレが男の子でレオン君が女の子だったらだけど。

するとレオン君が何故か微妙な顔をしていた。


「うーん、キリらしいセリフけど。キリは女の子なんだから護るのはボクの役目なんじゃないかな?」


「性別なんて些細な問題です、重要なのは心の在り方ですよ。だからレオンは大人しく護られてください」


だってレオン君が戦っているところ見たことないし、多分あんまり戦闘は得意じゃないと思うんだよね。いいところのお坊ちゃんみたいな雰囲気だし。

女の子に護られるのは男の子の意地が黙ってないだろうけどね、分かるよレオン君。

するとレオン君は口に手を当ててブツブツと何かを思案しだした。


「……まあキリのレベルアップ修行を考えれば妥当かな、危ない時はいつもの通りボクの土魔法で影からフォローすればなんとかなる。父様からの追っ手は来るかもだけど、そこらへんもボクがうまく立ち回れば大丈夫か。二度と不覚を取るつもりはないし、ヘルドライブ号(キリ命名)もいるし」


「「ブフオォォォオ(その通りだぜレオン様)!!」」


レオン君の言葉に応えるように鼻息荒く爆進するお馬さん(?)、人語を理解しているように見えるのは何故だろうか。

レオン君が何やら不吉なことを呟いた気がしたけど、馬の受け答えが気になってよく聞こえなかった。

っていうか今さらだけど馬だよね、この二頭?

真っ黒な躯と(たてがみ)、頭の両脇には『角』の飾りが付けられている立派なお馬さん。あれこの角、(じか)に生えてね?


「『光』の単色魔法エナジーマップ! ……うん、ここから一番近いのは神託都市アストロギアだね」


手綱を片手で握りながら器用に地図を広げたレオン君、呪文を唱えた瞬間に紙製の地図に小さな点が光り輝いた。

どうやらオレたちの現在地のようだ。

『エナジーマップ』、便利そうな魔法なので後で覚えよう。


「ところで以前から気になっていたんですが、神託都市の『神託』とは宗教的な何かでしょうか?」


「『神託都市』はね、神様からもたらされる神託という名の予言を受け取ることを許された人間が住まう街、つまり『預言者の街』なんだよ。過去に何度も王国を救う予言をもたらしてる。強大な魔物の出現や伝染病の蔓延、隣国との戦争なんてものまでね。もちろん王国の重要拠点の一つだから守護騎士団も置かれているんだ」


それは凄すぎる!

本来ならどんなに備えても後手に回りがちな国家という巨大な組織が災害や闘争に対して先手を打てるということになる。


「あーでも万能じゃないんだ。いつ発生するとか何処で発生するとかは曖昧だからね、それでも確実に何らかの形で予言は当たるから重宝されてはいるけど。何にせよ期待し過ぎるとガッカリするかもよ?」


「でも守護騎士団があるということは団長たる『楯』の方もいるのですね? 是非会ってみたいですね、王国最強とは心が震える響きです」


四天王とか何人衆とか何番隊隊長とか、そういう最強な称号は大好きです。

いくつになっても少年の心が疼くよね。

王国に君臨する六人の守護者、格好いいじゃないか。


「うーん、会うのは難しいかも。神託都市の騎士団団長は滅多に人前に出てこないらしいから顔も知られていないんだ、男か女かすら謎の人物。噂によると醜い姿だから人前に出たくない、とか言われてるくらいだよ。別に戦うことが仕事なんだから顔なんて弾け飛んでいてもいいと思うけどね」

「レオン、そんなことを言うのは良くないです。きっと恥ずかしがり屋な守護者なんです」


こういう時はポジティブに考えるべきなのだよレオン君。

例えば恥ずかしがり屋の美少女で守護騎士団のトップだとかだったら最高だね、戦う美少女は女神だと思います。

フフフ、何だか楽しみになってきた。是非ともお近づきになりたいです。


「でも神託都市の団長って在位期間30年以上のベテランだよ? 30年も魔物と戦い続ける怪物が今更何を恥ずかしがるのさ?」


神託都市の守護者さんは単なる引きこもりのオヤジまたはオバサン(しかも怪物並の)だったようですね、チキショー。

この胸のドキドキを速やかに全額まとめて返して欲しいです。

完全に八つ当たりだけどムカムカしてきたよ。

ちょっとレオン君、オレにもヘルドライブ号の運転させて。


「ち、ちょっとキリ!?」


少し強引にレオン君の手から手綱を奪い取る、ごめんよ。

でもこのモヤモヤを吹き飛ばすにはドライブしかないと思うんだ。

ふふふ、前世で鍛えた(マリ○カートで)私のドライブテクニックを見るがいい!


「跳ばしますよ、全力で走りなさいヘルドライブ号!」

「いま全力って言った!? ま、待ってキリ! この二頭はただの馬じゃない……いや、もしかしてキリなら大丈夫かな?」


次の瞬間、ガクンと馬車が揺れたかと思えば景色が変わった。

いや正しく表現するなら移り変わる景色のスピードが速くなった。

例えるなら速度アップアイテムをボタン連打で使っているみたいに?


「「ブフオォォォオオオオ(これがオレの全力走行だぁぁぁ)!!」」

「きゃふぅっ!!?」


凄まじい加速に衝撃を受ける、なにコレ自動車並の速度なんですけど高速道路走っている時の。

馬車に保護魔法が掛かっているようで向かい風は感じないけど、精神的な衝撃がすごい。


「この二頭はね、二角獣(バイコーン)っていう名前の魔物なんだ。デリケートな馬よりも頑丈で速いから魔物に馬車を牽かせる人間は意外と多いんだよ、この二頭はその中でも特別だけど」


相変わらず冷静な受け答えをしてくれるレオン君、そんな彼を尻目に森を走る暴走馬車。

変な汗が出てきた、森林を時速100キロ近いスピードで走ることの恐怖が分かるだろうか。

レオン君があまりにも上手に扱うので馬車とか、車に比べたら感覚でいけると思ってすみませんでした。


「レオン、そろそろ変わってくだ……「え? 別に大丈夫だよ、キリの命令をこの二頭が聞くか心配だったけど大丈夫みたいだし問題ないと思うけど?」」

「言うこときいてないですっ!」

「だって『全力で走れ』がキリの命令でしょ?」

「…………あっ!」



その後お願いしたら二頭はしぶしぶスピード落としてくれました、ちょっと残念そうだったけど。

それから「できるだけゆっくり走って」というと、三輪車もびっくりなスローな速度で走ってーーー歩いてくれた。

何だか上手くやっていけそうです。


「それじゃあ、行こうか」

「ええ、まずは冒険者として登録するんですよね?」

「そうだね、ここから一番近い六大都市は『神託都市アストロギア』。そこの冒険者協会に登録して旅の本格スタートって感じかな、それにキリの父親の言っていた『予言』が何なのか分かるかもしれない」


一石二鳥ということですか、悪くないですね。

冒険者協会で以来をこなしてレベルをあげて、仲間を増やしてラスボスさんを倒す。おお、王道っぽいじゃないですか。

できれば吸血姫の方は父さんのボケで済まして欲しいけどね。


さあ、行こうか!



◇◇◇


神託都市アストロギア、小高い丘に真っ白な建物が軒を連ねる美しく神聖な雰囲気を宿す大都市。

預言者の街と呼ばれる街ではあるが、その予言は明日の天気から百年後の天災まで千差万別である。

そして極めて稀にであるが『別世界』からの技術や思想が気まぐれな神を通して伝わってくることもある。

故にこの都市は他の都市以上に異分子に対して寛容で、例え政治的に対立している国の移民であっても希少種族であるエルフであっても一般住民と同じように扱われることになる。


そして神託都市の中心、丘の上に建つ塔の名前は『夢見の塔』。

選ばれし預言者と守護騎士だけが住まう尖塔は、王族でさえも許可なくば立ち入ることはできない不可侵領域。

塔に一歩足を踏み入れた者はまずその異様な光景に息を飲むだろう。

塔の内部には巨大な螺旋階段が存在し、その側面には一面に巨大な本棚が備え付けられている。

無限にも思える保管場所の全ては予言を納めるためのもの。

何万冊、何万枚と詰め込まれた紙束は無秩序に、しかし一定の法則を持って整頓されている。

今日も預言者たちが走り回り、自らが受信した預言と受け取った様々な『品物』を後世に残すために昼夜問わず奮闘している。


その最上階、『別世界』から流れ着いた鉄道模型や壊れた電化製品の山に紛れて一人の少女が床にちょこんと座り込んでいた。

修道服を可愛らしく着こんだ少女はペラペラと分厚い本のページを捲っていく。

上質な金色の糸で丁寧に、丁寧に刺繍を施された修道服は一目で少女が高い身分に属する人物であることを証明している。

何気ない表情で少女に流し読みされている書物の重厚な背表紙には別世界の言語で『ロッポウゼンショ』と刻まれているのだが、そんなことは少女には関係ない。

「ふぅ」と小さな溜め息を吐きながら少女は本を抱えて立ち上がる。


「科学書じゃない、法律書みたいですね。なら以前に見つけたあの本と一緒に保管しておきましょう」


少女は別世界の文字が読めるわけではない、ただ文字の羅列から本の種類におおよその当たりをつけて分類していくだけだ。

この30年、ひたすら繰り返してきた単調な作業に少しだけ辟易としながらも次なる書物に華奢な手を掛ける。

手を掛けようとして、その手が止まる。


「そうですか、遂に貴女たちの旅が始まったのですね」


ポツリと少女は呟く。

この最上階にいるのは少女ただ一人、その声に反応を返す者はいない。


「貴女たちの行く末に幸多からんことを、神託都市の守護者として祈りましょう」


真摯な瞳で神に祈りを捧げる蒼い髪の少女、その可愛らしい修道服には『楯』の紋章が刻まれていた。

キリよりも小さな体躯に柔らかな物腰、この幼い少女こそ王国の誇る六人の守護者の一人。

『聖なる呪術師』と崇められる偉大な魔法使いでもあり、実力と地位を兼ね備えた少女はある意味でキリの目指す理想の姿の一つでもあるだろう。

そんな少女は憂鬱そうにペタペタと大理石で造られたフロアを歩く。

きっと彼女、キリエルは自分を責めるだろう。身勝手な予言を彼女の父親に伝えた自分を、魔物一人倒せなかった無力な守護者を。

彼女、キリエルと会う機会があれば全てを話そう。そして彼女を無謀な旅に追いやってしまった罪を償おう、そう蒼髪の少女は決意した。

未知の工芸品に囲まれながら、潤んだ瞳で悲しげにたたずむ美しい少女の姿はとても絵になる光景だった。

しかしそんな幻想的な時は長くは続かなかった。

最上階に続く螺旋階段から、預言者の一人が上がってきた。


「団長、ちょっといいスか?」

「きゃあっ!?」


悲鳴を上げて脱兎のごとく走り去る少女、階段を上がってきた少女の部下である青年は「やっちまった」と頬を掻いた。

彼の上司、騎士団の団長は最上階フロアに山積みにされた工芸品(別世界ではほとんど廃棄物)の影に隠れてしまった。

いきなり声を掛けたのが不味かった、あらかじめアポを取らなかったのも少女の問題に拍車をかけた。


「よ、用があるなら5分くらい待ってください。あ、貴方と会う心の準備をしますから!」

「いやマジで緊急の報告なんですって! 螺旋階段上がるだけでも10分以上掛かってんです、これ以上時間は掛けらんねえっスよ!」


念のために言っておくと、少女と青年に仕事以上の関係はない。少女が青年に淡い想いを抱いているようなこともない。ただ他人と会うために準備期間を必要とする。


そう、守護者は恥ずかしがり屋の少女だった。





女の勘は男より当たるそうですよ、男性諸君は気をつけていきましょう。

ちなみにナマハゲのモデルは神様とも鬼とも言われているそうです、民間伝承の世界とは奥深いものですね(12/17追加)。


というわけでこれからも少しずつ更新していけたらな、と思います。

また気ままに覗いてもらえるなら嬉しいです。



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