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ラスボスが判明しました、そして父親一号の独走

カエルの親はカエル、そんなお話が始まります。

「私は旅に出ようと思っています」



オレは今、この世界の家族と向き合って夢(というより野望)について話していた。

深刻そうな顔をした父さん、今までオレを育て上げてくれた大切な人だ。


父さんにとってオレの決意は身勝手な話に違いない、でもオレにも譲れないものがある。

それに、いつまでもハーフエルフのオレがここにいたら不味いことになりそうだという危惧もある。

ちなみに父さんは普通の人間だ、多分オレは養子だったんだろう。

数秒間の沈黙の後、父さんがゆっくりと口を開いた。


「レオンバルト…いや、レオンくんも随分前にここを訪れてね。キリに自由を与えてやりなさいと、おっしゃったんだ」


「ーーそうなんですか、レオン君が」


「ああ、私たちのことは気にしなくていい。お前を手放す代償としてこの村を復興するだけの支援をお約束してくださったんだ。キリ、お前を利用した形になってしまってすまない」


旅立ちをあっさり認めてくれました、意外です。

ていうかレオン君の実家ってすごいね。

村一つ立て直す支援とか、どんだけ金持ちな商人なんだろう。

ブラックな商売してないよね?


「気にしないでください、これは私の問題です。だから貴方たちが気に病む必要なんてないんです。今までありがとうございました、お父さん」


「キリ!!」


感極まって抱きついてきた父さん、その腕の中は温かいです。

いかん、涙腺が緩んできました。


「すまないな、お前にはずっと秘密にしてきた。できることならお前には自らの運命に縛られず生きていて欲しかった、だから私はお前がハーフエルフであることに気づかぬように細心の注意を払っていた」


そういえば、この世界に生まれ変わってから水面に自分の顔が映るところを見たことがない。

それにいくら鈍いオレでも、自分の耳が尖っていることくらい気づいてもいいはずだし。

父さんが魔法でも使って誤魔化していたのだろうか。

すべてはオレのため、ですか……優しい人だ。


「そういうことだったんですか、道理でこんな分かりやすい特徴に気づかなかったわけです……ん? 運命とは何のことですか?」


頭の片隅に引っかかった言葉、"運命"って?

何だろう、物凄く不吉な予感がする。


ちんまりとした希望すら存在しないパンドラの箱をブチ撒ける寸前のような雰囲気、を漂わせて父さんは口を開いた。


「私は元々エルフの国で騎士をしていたのだが、ある任務のために国を離れてこの村に潜伏していたのだ……お前の真名はキリエル=クラリオン、エルフと人間の子供だ。とある方から赤ん坊のお前を託されて今まで育ててきたのだ、その方は言った『この赤ん坊はかの悪逆非道の魔物、吸血姫を倒す運命なのだ』と」


吸血姫、それはオレの前世でいうところのナマハゲ的存在。

主にイタズラ好きな子供を叱る時に使用されるレディの名前だ。

「悪い子は吸血姫に(さら)われて身体の血を吸い尽くされるんだぞ」という、やたら具体的に恐ろしい脅し文句が親たちには定番らしい。

オレは言われたことないけど、他の子供たちが両親に泣かされてたのを覚えている。


そんなモンスター(?)さんが実在しているとは知らなかったです、というか誰がそのお方を倒すって?

あ、オレか。


「何を言っているのか分かりません。いえ、意味は分かりますけど何ですかその王道パターン。笑えないジョークにも限度が……?」


しかし父さんは熱い眼差しでオレを捕らえて放しません。

え? これ、真面目なお話なのですかお父様?


「……吸血姫の下僕たちが襲いかかるであろう旅は過酷な道筋となるだろう。中でもユンカーウルフやアトラスの巨人などの上級モンスターは特に危険だ。だがお前なら必ず乗り越えられると信じているぞ」


そいつらってアレですよね。

30年前にモンスターと人類の総力戦があった時に、防衛線を突破して王都を陥落させた怪物さん達だよね。


何で知ってるかって?

レオン君が話してくれました。彼によると出会ったら人生諦めないといけない、ジ・エンドな魔物だそうです。

そんな奴らと戦えと?

オヤジさん、ちょっと話し合おうか。


「いやいや、無理です。現実を直視してください、私はただの小娘ですよ!?」


「元気でな、選別の品を持って行け。まずは『星屑の髪飾り』だ」


「あ、ありがとうございます」


パチンと金色の髪留めを付けられました。

わあ、ほんのりと温かい力を感じます。

これは魔力系の補助アイテムかな?


それはそれとして父さんって、他人の話を聴かない人だったんだね。

誰に似たんだろう。


「続けて『風精霊(シルフ)のローブ』だ。私が以前使っていたものをお前サイズに裁断した。どうかお前に風の祝福があらんことを」


深緑色のローブでした、ふんわり高そうな雰囲気です。

試しに着てみると、精霊の魔力を編み込まれたであろう生地は吸い込まれそうな優しさと包容力を持ってオレを包み込みます。

うん、嬉しいんだけど本気でちょっとだけ待ってください。


「タイムを要求しますっ、何を1人で先走っているんですか!?」


「ああ、何も言わないでおくれ。私の愛する娘キリエル、例え血が繋がってなくてもお前は私たちの家族だよ」


「…………ぷしゅぅ」



オレは撃沈した。

この人、娘の話すらぜんぜん聞いてくれません。





一生分くらいの驚きがブレンドされた衝撃的な暴露話をされました。

胸焼けを起こしそうです。


オレはふらふらと村の外れに向かって歩行中。

チラリとローブのポケット突っ込んであるガラスのビンを見ると、青緑色の液体が並々と入っています。

これは体力回復&増強効果のある薬草を煮溶かした魔法薬だそうです、父さんが持たせてくれました。

オレが普段食べさせられてたアレ、雑草じゃなかったんだね…低めな体力を補わせようとした父さんの優しさだったのか。

舌が軽く痺れるくらいの、驚きの不味さだったけど。


となると、水くみも冒険の旅に出させるための体力作りの一環だったのかな。

体育会系男子さんだね、コンチクショウ!


「……命懸けの旅(父親談)にレオンを巻き込んだら悪いですよね。でも、せめて最後にお別れをしてから旅立ちましょうか」


オレは独りで冒険に出る覚悟を決めていた、もちろん本当は嫌だよ。

けれど危険な旅なら友達を連れて行けないね。

できるならレオン君に一緒に来て欲しい、でもそれは自分勝手に過ぎる願いだろう。


これが最後になるかもしれない。

だけどレオン君と早く会いたいな。

その無邪気な笑顔でオレのブロークンハートを慰めて欲しい。

チョコレート色の髪と眩しい笑顔のレオン君、マジ癒し系です。

例えるならレオン君は人懐っこい子犬なイメージだね、うん。

でも、たまにライオンみたいな気配がするのはなんでだろうね?


「そういえば、レオンはどうやって村まで来ているんですかね?」


レオン印の馬車はオレを修行という名の強制イベントに参加させる時しか見たことないから、村に馬車で来ているわけではないと思う。

ちなみにあの馬車には『ヘルドライブ号』と名付けました、最初は地獄への送迎車にしか見えなかったからね。


まあ、レオン君なら空を飛んで村に来ても可笑しくないよね。

レオン君って何でもアリな感じがするし、いつも気がついたら村にいるわけだし。


「あれ、何でしょうコレは?」


ぶつぶつとレオン君の摩訶不思議っぷりについて考えていたオレはいつの間にか村の外れに着いていた。

ここ何年かは忙しくて、村をゆっくり見て回ったことはなかった。


そこにポツリとおかれていたのは枯れた井戸。

植物の(つた)が巻きつき、ひび割れた古い井戸だった。

枯れているため手入れはされておらず、特に要もない村人は近づかないだろう。


「1人になって今後のことを色々と考え込むには丁度いいですね」


オレはヨイショと井戸に登って、そのまま穴に飛び込んだ。


暗い底に向けて落下していくオレの身体。

当然だが、思い悩んだ末の身投げとかではない。

二度も死ぬとかお断りなのです、念のため。


「『風』の単色魔法、エアバルーン」


オレが落ちていく場所に収束する空気の塊、衝撃吸収魔法が発動した。


ポスンとクッションに尻餅を着いたように着地するオレ、随分と可愛らしいポーズでの着地になってしまった。

いつも事あるごとに「可愛いよ、キリ」と言ってくるレオン君がいなくてよかったです。


「…ちょっと衝撃が強いかったかな、お尻が若干痛いです」


さて、誰もいない狭い空間だ。

「王様の耳はパンの耳!」の話ではないが、胸につかえていたモノを吐き出すには最適な場所だろう。

……パンだったっけあの話?

まあいいや。

肺一杯に空気を吸い込んで、いざ始めましょうか。


「父さんのバカァ!」


「アホですかっ、私に凶暴無比なモンスター退治を押し付けるなんて!」


「つーか、私は強いモンスターは嫌なんですっ。リアル世界にはコンティニューなんてないんですよ!!」


何もない空間に響き渡るオレの怒り、そのはずなのに鈴を転がしたような可愛らしい声が木霊した。


まあ、父さんに関してはオレも悪いからお互い様なんだけどね。

オレは村を出るつもりだった、それは父さんをほったらかしにして自分の野望を追いかけることと同義だ。

だから旅立つオレに色々な厄介事を押し付けた父さんのことを悪く言うのはこれくらいにしておこう、そう思った。


「ふう、すっきりしました。さてレオンが来るのを上で待ちましょうか………ん? 何だろう、何か光ってる?」


井戸の底はかつての水脈に繋がっており、左右に道のような空間がある。

オレは何やら光を放つモノがその奥にあることに気づいた。

少し警戒しながらその方向に歩いていく。


「これは、魔法陣?」


そこにあったのは魔法陣だった、複雑な術式が駆使された設置型の高等魔法。

緻密に描かれた模様は細かすぎて目に痛いです。


「確かこの模様は"転移魔法陣"? 何でこんなところに……うーん、気になります」


さっきまでの怒りは何処へやら、うずうずとオレの好奇心が疼き出した。

仕方ないよね、転移魔法とか全男の子の憧れじゃないですか?

オレは立ち直りの速さが自慢なんです。


このタイプの魔法陣は転移した先にも同じものを描いて、入り口と出口を作るのが一般的らしい。

そしてその2つの魔法陣は入り口としても出口としても使える。

つまりワープした先で再び魔法陣を起動させれば、すぐに帰ってくることが可能なのだ。

一応危険性は低い。


「隠しステージへの入り口を発見したみたいでワクワクして来ました……ちょっとくらいならいいですよね?」


レオン君はまだ来ないと思うし、試しに起動させてみたいな。

今のオレじゃあ、こんな複雑なヤツは作れないから余計に気になる。

よし、さっきまでのネガティブを吹き飛ばして、笑顔でレオン君を迎えるためにも一つやってみますか。

えーと、確か起動方法は魔導書に載ってあったよね……あった、これだ!


「『光』の純魔力を陣に注入、同時に転移先とのリンクを開始せよ」


オレが上に乗って魔力を注ぎ込むと、途端に輝き出した魔法陣。

おそらくは発動準備に入ったのだろう。

うーむ、まったく術式に(ほころ)びがないな。

まるでつい最近、というより今日まで使用されていたレベルの手入れっぷりだ。

まあ、発動する時に安全ならそれでいいや。


「魔力の充填を確認、リンク構築を完了、魔法陣の起動を開始。いきますよ! 『光』と『光』の複合魔法、コネクトワープ!!」




魔法陣の助けを大きく借りて、発動させた『光』の複合魔法。


瞬間、世界が反転した。

続けてオレが感じたのはフワフワした浮遊感が一瞬だけ、オレは気がつくと太陽の明るい日差しの下に座り込んでいた。

暗い井戸の底からの移動だったので、突然の明るさに目がショボショボする。


「ん、む?」


明るさに慣れたオレの目に飛び込んで来たのは、前世を含めて一度たりとも見たことがない豪華絢爛な建物だった。


何百坪あるんだよってくらい広い敷地内にそびえ立った大きなお屋敷。

西洋式の真っ白な壁と金細工が施された装飾。

お庭には手入れされた色とりどりの花畑が広がり、噴水の泉が優雅に輝いている。


いくらオレでも分かります、ここは貴族の館ですよね。

そして、館には何度もオレをイルクウ山まで送ってくれたレオン君の馬車が停めてあった。

オレはそれを見て血の気が引いた。


「ま、まさかレオン君」


ここから導き出せる解答は一つだけ。

そ、そんなレオン君が、まさか……。


「貴族に攫われたんですか!?」


オレの推理は冴え渡っていた。

オレがエルフだって知られ、捕まえて売り飛ばそうとした悪徳貴族さんがオレの友達のレオン君を人質にした。

あの魔法陣はまだ村にいたレオン君を攫った奴らが逃げる際に使用したモノ。

パターン的にそういうことだよね、これは!


「絶対に許しませんよ」


天使のようなレオン君をよくも人質なんてヒドい目に!

オレは先ほどまでの自分の未来に関する悲壮感が怒りに変わるのを感じた。


「待っててくださいよ、レオン。必ず助けます、貴方は私の大切な人ですから」


オレは魔導書をギュッと抱きしめて貴族のお屋敷へと駆け出した。


エルフ娘が親友の実家に殴り込みを開始しました。

大方の読者さんはお分かりかと思いますが、魔法陣はレオン君が村に来る時に使用していたものです。

「貴族は悪いヤツ!」みたいな先入観はよくないですね、偏見ダメ絶対。


少し擁護するならキリの行動は父親の暴露話のせいで、少し混乱状態になっているためでもあります。



さて皆さんに質問です。

もし女の子が息子を迎えに実家まで乗り込んで来たら、その父親はどう思うでしょう?

答えは次回をお待ちくださいね。

『父親二号の暴走』へ続きます。



日刊ランキング三位に入ってしまいました。

身に余りすぎる光栄です。

というかガクブルものでした、皆さんの優しさに震えが止まりません。

((((゜д゜;)))))


ポイント評価とかお気に入り登録とか、とても励みになっています。

本当にありがとうございます。

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