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長期的目標が決定&プチハードモード突入しました



たどり着いたのは湖の(ほとり)


それはちょっぴり贅沢なひと時、吹き抜ける風が気持ちいい。

ピクニックシート要らずのふかふかした芝生の上でレッツお昼ご飯です。


メニューは、黄金の卵焼きとシャキシャキ野菜、そして前世ぶりの再会を果たしたハムが挟まれたサンドイッチです。


出発前にお弁当を作って来て欲しいってレオン君にお願いしてみたら、本当に持ってきてくれました。

友情ってステキだね。


「あぐあぐ、ごくん……とても美味しいです」


「それは良かった、こっちに紅茶もあるから一緒に飲もう。茶葉はウチの名産品なんだよ?」


「是非いただきます。レオンの父は茶葉を扱う商人なんですね、仕事場からいい匂いがしそうです」


「あー、うん。何度か説明したんだけど聴いてなかったんだね。もうそれでいいや。ところでキリは守護騎士団って知ってる?」


「? いえ、知りません。名前からして何かを守るナイト、なんですよね?」


「キリが魔法使いを目指すなら将来的な候補にするのもありかな、と思ったんだ」


それは詳しく聞かせて貰いたいな、オレは村の外のことなんて殆ど知らないし。多分、村の大人たちも知らないだろう。

だからこそ外の世界の情報は欲しい。



「守護騎士っていうのはこの王国の主要都市を守る防衛戦力なんだ。王国お抱えのエリート戦闘職なんだけど、身分は関係なく入団のチャンスがある。あんな村の出身のキリだって大丈夫なんだよ」


つまりは公務員(武闘派)さんですね、王国お抱えとは素敵な響きです。

ガッポガッポは稼げないけど安定したお仕事、のんびり低空飛行なお給料が魅力的です。


それとレオン君、あんな村とは失礼ですよ。

つーか、レオン君が村の名前を覚えているかも怪しいよね。

それはさておき、問題があります。



「私は剣なんて扱えません。これからも特訓しないと思いますよ……この身体、非力だし」



そうなのだ。

ゴブリンの一撃をガードした時もそうだったのだが、今のオレは身体能力が低い。

たぶんHPや防御力あたりは底辺だと思う。

今考えると、水くみがやたらキツかったのもその影響かもしれない。


何でだろう?

やっぱり女の子だから、だけじゃないと思う。


分からないが、ともかく剣やら盾を振り回すのは難しいだろうな。


「大丈夫、"騎士"なんて銘打ってはいるけど魔法使いも沢山所属してるんだよ。モンスターを倒して都市を守れるなら剣術じゃなくてもいいんだってさ」


「魔法だけでもいいんですか、なら私にもチャンスはありますね」



ただ、アレだね。

公務員さんって世間的には色々言われてるけど、意外と給料安いんだよね。

その代わりに退職金はなかなからしいけど、この世界に退職金ってないだろうし。

オレの野望的にも稼げないのはちょっとね。



「キリならもしかしたら、王国の『楯』だって夢じゃないかもね。うん、きっとなれるよ」


「何ですか、楯とは?」


「守護騎士団の団長だよ、通称『楯』って呼ばれてる人たち。王国の最高戦力であり、任命された瞬間に"伯爵位"が与えられる貴族階級でもあるんだ。あ、伯爵は最低でもっていう意味だよ」


「み、身分に関係なく貴族になれるんですか!?」


えっ?

なにそれ凄い。

どんだけ成り上がれるんだよ。


「まあ、王都守護の人は今年で30年くらいのバカ長い在位期間だったりするし」


ふふふ、ちょっと燃えてきたぜ。

元男の子として、ファンタジー世界でどこまで行けるか試してみるのも悪くないじゃないか!


「この人たち、生まれる種族を間違えたのかなって思っちゃうくらい強かったりするんだよね。ああいうのを、頭おかしいっていうんだろうね………ねえ、キリ、ちゃんと聴いてる?」


「私、それを目指すことに決めました」


「ねえボクの話、ちゃんと聴いてた? まあいいや、なら冒険者として腕を磨くか、魔法都市の学園に入るのが最短距離だと思う。強い人たちと人脈を築くのも大事だからね」


なるほど、男に戻るための魔法を探すにも人脈は大事だね。

しかし、魔法学園か冒険者から選ぶならやっぱり……。



「それなら冒険者です。何も見えなくなるくらい広い世界を旅するんです、風と一緒にどこまでも。そうすれば、この世界に生まれてきた意味を見つけられるかもしれません」


学園ってタダじゃないだろうから学費を稼ぐ必要もありそうだしね。

レオン君がにっこりと笑った、待ってましたと言わんばかりに。


「キリならそういうと思ったよ。なら、まずは主要都市のどれかを訪れて冒険者登録からだね。多分何らかの試験はあるけど、今のキリなら問題ないよ。食料にすら困った貧民共が最後の希望として(すが)りついたりもする簡単な試験だしね」


「そ、そうですか」


レオン君、色々な方面に容赦ないです。

将来的に恨みを買う大人になりそうで心配が込み上げてきました。


「『楯』に任命されるのは主要六都市の6人だけ。

王都、魔法都市、錬鉄都市、商業都市、神託都市、そして流刑都市。このいずれかの頂点に君臨する、王国の覇者たち。いくらキリでも厳しい道のりだよ?」


「望むところです、どうせなら頂点を取りに行かせてもらいます」


そのためにもまずは2色魔法くらいはさっさと使い分けられるようにならないとね。

オレはギュッと魔導書を抱きしめた。

気合いは十分だ。


「そうそう、すっかり忘れてたけど鏡を持って来たんだ。はい、どうぞ」


「ありがとうレオン。自分の顔を見るのは初めてです………え゛?」



鏡に映る自分の姿に、オレは絶句した。


これヤバいんじゃね?





あの決意の日から6年が経った。

キリは農作業を手伝いながら魔法の練習を欠かさなかった。

とは言っても、レオンが彼女の親へ裏から糸を引いてキリの修行時間を確保させたわけである。


正直なところ、レオンにとって興味があるのは友人のキリだけであって、彼女の家族には何一つ関心がない。

自分の申し出を断るなら、家庭教師から教え込まれたアメとムチ作戦を使って、首を縦に振らせてやろうかと思っていた。


鈍いキリはかけらも気づいていないが、この少年は根っからの支配者タイプである。

しかも潜在的には暴君カテゴリーの。



キリが留守にしていた時を狙って準備万端で訪れたレオン。

しかし、どういうわけだかキリの父親は「あの子が魔法を……ついに旅立つ準備を始めたのですか」とよく分からないことを呟やいた後、レオンに「あの子を頼みます」と言ってきた。


イヤに素直で不気味だったが、当初の目的を果たしたレオンは「まあ、いいや」とスルーすることにした。

そしてムチは不要だったがアメは与えることにしたのだ。

レオンの父親に荒れ果てた村の復興を進めるように頼んでおいた、これであの荒れ地(レオン視点)も少しはマシな村に生まれ変わるはずだ。




そして障害を排除した上で始まったキリの魔法修行。

月に一度はイルクウ山に連れてきてゴブリン相手に魔法の実戦練習をこなす日々。


一番の懸念だった才能は問題ないようだったので魔法の腕はメキメキと上達していった、あとは経験とレベルアップだけだろう。


加えてMP(魔力量)もかなり高い。

単色魔法とはいえ、レベル3の人間ならせいぜいが4、5発放てれば良い方なのに、それ以上を放ってもキリは息一つ乱していないのだ。


身体的な脆弱性は心配だが、ものが魔法使いなので戦い方次第でカバーは可能だろう。


つまり修行期間の終わりが近づいていた。

レオンはそれにどうしようもない寂しさを感じていた。



「それなら冒険者です。何も見えなくなるくらい広い世界を旅するんです、風と一緒にどこまでも。そうすれば、この世界に生まれてきた意味を見つけられるかもしれません」



何となく、この女の子ならそう言う気がした。

爽やかな甘酸っぱい風がレオンは胸のうちに流れたのを感じた。

やっぱり君は自由気ままな風になるんだね、と心の中でつぶやいた。


そして、修行期間の終わりはレオンとキリの別れの時でもある。

レオンとて、いつまでも平民であるキリと一緒にはいられない。



今日、レオンはキリが喜ぶと思って鏡を持ってきた。

キリが自分の姿を自覚して"女の子"らしく振る舞えば、きっとキリを嫁にしたがる男がたくさん現れる。

それが悔しいような気がして先延ばしにして来たのだが、レオンは別離の(あかし)として鏡を持って来た。


しかしキリの反応はレオンの予想とは違っていた、誠に残念ながら。



「………え゛っ?」


レオンから渡された鏡を見たキリは、カエルが潰されたような声を上げた。


「キリ、どうしたの?」



自分の顔が気に入らなかったのだろうか、とも思ったがレオンは即座に「それはないな」と否定した。


キリのぷにっとした桜色の唇も、くりくりしたルビーのように赤い瞳も、黒真珠の輝きを秘めた黒髪も、そして黒髪からチラリと見える真っ白な長い耳も、とても魅力的だと思う。


手足はスラリと伸びて、胸も膨らみかけている(レオンが指摘すると「セクハラです!」と怒鳴られた)。


ちゃんとした服を着て身なりを整えれば、自分のお見合い相手の令嬢たちより可愛くなるのではないか、とすらレオンは考えている。

だからずっと惜しいと思っていた、この感情が"友情"なのだろうか。

まだ、レオンには分からない。



「ね? キリは可愛い女の子でしょ、これからは女の子らしくしないと勿体無いよ」


「そうですね、すごく興奮します、自分でなければ……他人として出会いたかった」


何に興奮したのかは置いておこう、レオンは無意識にそう判断した。


「よりにもよってエルフですか、これは絶対にヤバい……ひゃうっ!?」


「うーん、耳の形がやっぱり違うなぁ」


「へ、変な声が出たじゃないですかっ、レオン、耳に触るのは止めてください!」


真っ赤になってレオンの手を振り払うキリ、名残惜しかったがレオンは手を引っ込めた。


「はあ、はあ……と、ところでレオンは"エルフ"という種族を知っていますか? いえ、知らなければいいんです。むしろ、耳自体が気のせいであって欲しい」


「うーん、詳しくは知らないなぁ。排他主義らしいから情報が少ないんだよね、エルフは」


「はいたしゅぎ、ですか。スゴく嫌な響きです。ぶっちゃけエルフはどんな生物ですか?」


「魔力が強くて身体能力が低いのがエルフの特徴だよ。髪はだいたい若草色か深緑色らしくて、それ以外の色だと人間との"ハーフ"の証でキツく差別されるらしいよ」


「なるほどハードモード突入ですか、そうですか。レオン、私は近いうちに旅立つことにします」


「い、いきなりだね」


「人生は思い立ったが吉日、やるなら即行動です……だいたいパターン的に、こういう時はサッサと旅立った方がいいはず。うん、逝きますよレオン!!」


「ボクも旅立つの!? それは予想だにしてなかったよ……本気なのかな、きっと迷惑かけるよ?」


「迷惑なんて思いません。むしろ私の方が激マズ……いや私たちは友達でしょう、私はレオンが好きです! その想いを深め合いながら、苦難に満ちた冒険を繰り広げる。これこそが古来から伝わる友情深化の王道ルートです!」


もし、ここに第三者がいるならば"死ねば諸共(もろとも)"、と言うに違いない。

キリにとってはテンパった末の行動である。

何気に告白まがいのセリフまで混入させてしまっている。

そしてその言葉が無意識に、無自覚にレオンのどこか冷めた心に決定的な変化を芽吹かせた。


「キリがボクを好き、それが友達ってことならボクもキリのことが好き? えへへ、何だかとっても温かいや……友達って奥が深いんだね。分かった、お父様を説得するから村で待ってて、必ず迎えに行くよ!」


「約束ですよ、レオン!」


「うん、2人で冒険しようね、キリ!」


こうして、お互いへの勘違いをほどほどに世間知らず×2の冒険は始まる。


こちらの物語はほのぼの路線となっております、念のため。


ポイント評価とかしていただけると若干、更新速度が上がったりも……いえ、なんでもないですよ(チラッ)

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