夢見の塔、二人のハーフエルフ+1
さて皆さん、おはようございます。オレことキリです。
ラスボスの城に拉致されて「人生しゅーりょー、ふぇぇっ」みたいに情けないことを考えていたところ、ここは以前にレオン君が話してくれた最強の味方の拠点だったらしい。
短い間に寿命ががっつり30年分は縮んだような気がするけど、わりと元気です。極力無表情を装っているけど背中とかすごい汗だよ。例の人物から放たれる圧迫感がヤバいヤバい、とにかく桁外れだ。ストーリーを全クリして始まりの町に帰る途中の勇者に出会ってしまった雑魚キャラはこんな気持ちだったのかと。
その人物は今、テーブルを挟んだ向かい側にちょこんと座って砂糖たっぷりのコーヒーを可愛らしい喉をコクコクと鳴らして飲んでいた。きれいな青髪に涼やかな空色の瞳、抱きしめたら折れてしまいそうな華奢な身体に純白のシスター服を着た女の子、正確にいうなら幼女。それはこのまま成長したなら間違いなく相当な美少女になると確信せざるを得ないほど人形染みた精巧な美しさを持つ女の子だった。
普段ならそんな子を一目見れただけでオレはきっと「ラッキー」とか「今日はいいことあったな」なんてお気楽なことを思えただろう。でも違う、この子は敵に回してはいけない存在だ。
オレは前々から『魔力』というものに対してそれなりに敏感だった。だから強力な魔物と戦いたくないと思ったときは大きな魔力が接近してきたら逃げる、という戦法で戦いを避けていた。ここ数年、ゴブリンばかりと戦うことができたのもそのおかげだ。多分こんなことができたのもハーフエルフだからだろう。何が言いたいかというと、このマリベルって子はヤバいくらい魔力が強いです。近づいただけでゴブリンくらいだったら蒸発するんじゃないだろうか。
テーブルに座りながら念のために魔導書は開いているけど、何らかの攻撃をされたらオレは死ねるだろう。そこまでの戦力差がある以上、「敵ではない」なんて一言では安心できるはずがない。相手の思惑一つでこっちの命が消し飛ぶ状況では流石のオレでも「はい、そうですか」とは言えない。
そんなことを考えて警戒しているオレに、しかしマリベルちゃんはとんでもない提案をする。
「警戒するのは当然でしょう、魔導書を開いたままで結構です。それでも不足だと感じるなら風魔法で私を拘束してもらっても、武器を隠し持っていないか確かめるために私の服を剥いでも構いません………ですから少しだけお話をしませんか?」
へっ? 美幼女を拘束した上で下着姿、あわよくば裸にしても構わない?
人形のような愛らしい容姿、懇願するかのような表情、後ろから抱きしめたらスッポリと両腕に収まりそうな華奢な身体、そしてシスター服の隙間から見える白い肌に思わずオレはーーーーー。
「なにそれエロい……じゃなくって! そこまでしなくていいですっ、そこまで女の子にさせられませんから! 話をするんですよね、しましょう是非!!」
思わず頷きそうになったオレはアホですか!?
マリベルちゃん、いくら同性でもそんなことは駄目だよ。つーかオレは中身男の子だから尚更駄目だよ!
そして自分で断っておいて、ちょっと勿体ない気持ちになっているオレはもうダメかもしれないね。落ち着くんだ、急いで焼き菓子でも食べて忘れよう。あ、美味しいなコレ。
はっ、マリベルちゃんがこっちを見ながら真剣な顔をしている。いやらしいことをオレが考えていたことを見抜かれた!?
不味い、それっぽい真面目なことを言ってとりあえず誤魔化そう。
「このクッキー、焼きたて……ということは私が街に設置されたコネクトワープの魔法陣を踏むタイミングまで折り込み済みだったということ? なるほどあなたが予言者の街の守護者なのは本当のことのようですね、マリベル 」
「えっ……………そうですね、確かにそういう推理も成り立つのかもしれません。先程の魔導書や杖に対する対応といい、貴女の行動は私の予想の外にあるのかもしれません」
何とか上手く誤魔化せたらしい、いやこの子は優しそうだから元々オレの危惧していたことは考えていなかったかもだけど。
しかしオレの対応はそんなに変わっていたのだろうか、膝の上の魔導書にしても杖にしても当然の対応だと思う。
マンガとかゲームの知識の中ではだけど。
特に魔法の杖が独りでに攻撃してくるなんて、ちょっと凝ったファンタジーだと珍しくもないじゃんさ。だから飛び退いただけなのに何だろう、過大評価をされているような気がする。嫌な予感がピリピリするぜ。
そんなオレの目の前にはホカホカと湯気を立てる陶器製のティーカップ、前世で嗅いだことのないような芳醇なコーヒーの香りがしてくる。
高そうな銘柄を使ってそうだなぁ、元の世界にもブルーマウンテンとかあったよね。オレはその道の玄人じゃないから詳しくないけど。ひょいっと、クッキーを摘まみながらゴクリと一口。
「……美味しい、私はコーヒーに詳しくないけどコレは上質な味わいがします。何という銘柄なんですか?」
「銘柄、ですか? そうですね、特に名前があるわけではないのですが………ラファ地方産の豆を使っているという説明でどうでしょう? あの地方を治めるラファ侯爵は自領で育てる作物の改良にも積極的に乗り出して領民の収入向上、ひいては税収入の向上を実現している優秀な領主ですから」
「……そういえばコーヒーの銘柄は産地の名称だったっけ? …………なるほど貴重な話をありがとうございます、マリベル。有能な貴族もいるんですね、この間の男とは大違いですよ」
オレが貴族って耳にすると嫌な感じがするのは、やっぱり偏見なんだろうな。うん、こういうのは良くないから気を付けたほうがいいか。レオン君に手を出したこの間の顎ひげ貴族は許さないけどね。
「それにしても『マリベル』、ですか。下の名前で呼ばれたのは久しぶりです。私に会うことのできる騎士団メンバーは数少ない上に皆さん、団長と呼ぶので………王都に行けばそうでもないのですが」
「……不快に感じたのなら訂正しますよ?」
「い、いえそんなことはありません! ただ、懐かしいと思っただけで…………そ、そろそろ時間もないので3人目の参加者が来る前に話を進めましょう!」
お、おおう。よかった、嫌だとは思われていないらしい。いつもの癖で初対面の、しかもお偉いさんを呼び捨てだからね。後から気づいて焦ったよ。
しかも、オレみたいなレベル3の雑魚にまで呼び捨て許可なんてマリベルちゃんは優しいなぁ。さっきまで警戒しまくっていた自分が恥ずかしいぜ。
ところで3人目って誰だろ、テーブルにティーカップが3つ用意してあるから追加で誰か来るのかなとは思っていたけどさ。あと、思いっきり置いてきちゃったけどレオン君どうしてるだろ?
心配させちゃっただろうから、お詫びにこのクッキーを持って帰ってあげよう。喜んでくれるかな?
おっと、マリベルちゃんが大事な話を始めるんだ、集中しないとね。
「コホン、キリさんはご存知ですか? 何故この王国には六つの都市が存在していて、その六つが他とは隔絶された繁栄を誇っているのかを」
…………ん?
それは今この場で話すべきことなんだろうか?
社会の授業じゃないんだし………でもマリベルちゃんが問いかけるなら答えたほうがいいよね。
「都市が発展する理由など様々でしょう? 河川や陸路の利便性、鉱山や耕作地などに代表される土地の豊かさ、はたまた侵略者を防ぎやすい地形、そういったものに左右されて人々の暮らしは上下するんですから」
「そうですね、キリさんの見識は間違っていません。ですが私が言いたいのはもっと根底にあるもののことです。…………少しばかり守護者の機密に触るのですがお話します。六大都市の地下には膨大な『マナ』の通り道である霊脈が存在するのです」
えーと確か『マナ』は、この世界の生命の源であり魔力の原料でもあるエネルギーだったかな?
ゴブリンを倒した後に発生する経験値もコレだった、途中からはゴブリンからじゃ少なすぎてレベルが3から上がらなくなったけど。そうか生物だけじゃなくて自然にもマナは存在するのか。それが霊脈っていう所に通っていると。
「そして、その霊脈から汲み取ったマナによって六大都市とその周辺は他の土地よりも遥かに豊かな大地となっているのです。作物や家畜、魔法技術に至るまでその恩恵は計りしれません。ですが一方で豊かなマナは強大な魔物を引き寄せる、つまり私たち守護騎士団の責務は六つの霊脈を守り管理することにあるのです…………こごでは大丈夫ですか?」
「…………まあ、言いたいことは分かりました。つまりはマナにより王国は保たれていて、騎士団の本分は都市ではなく霊脈を守護する組織であるということですか?」
「誤解して欲しくないのは人々を護ることも我々の大切な仕事であることには違いはありません。しかし極端な話をするならば、例え世界が滅亡の危機に直面していようとも六つの霊脈が襲われていないなら守護騎士団は動かない可能性はあります。そしてここからが本題なのですが、『吸血姫』は霊脈を欲しない魔物なのです」
厄介な話になってきたが、前々からおかしいとは思っていたことだ。この世界はよくある魔物に滅ぼされかけの異世界とは違って、腕利きの騎士団や守護者やらの戦力が整っている。だったらオレのような戦闘の素人に伝説級の魔物の退治をしてくれなんて予言が下るのは不自然だ。
人々を護る騎士様がいるのなら、その人達が伝説の魔物を倒せばいいのだから。ましてプロの戦闘職が敵わないような怪物なら、そもそもオレの手に負える相手ではないだろう。どのみちオレの出る幕はない。
でもーーーー。
「霊脈を護る騎士団はわざわざ魔物を倒すために六大都市から離れた辺境には赴かない。だから吸血姫は野放しにされ、そのままでは多大な犠牲が出る。正規戦力ではない誰かが吸血姫を倒さなければならないと?」
「キリさんは理解が早くて助かります。おまけに守護騎士団は各都市の議会によって運用される組織で、その財政基盤は各都市の税金で賄われています。そのため市民の代表たる議会の意見には従う必要があります…………騎士団の長である私にも指揮権の半分はあるのですが、高位の魔物を捜索及び討伐する程の大部隊を用意することは難しいのが現実です。私なら単独行動でも平気なんですけど、その場合は国王様の許可が必要で……」
単独で伝説的な魔物を討伐可能って、マリベルちゃんは強いなぁ。どんな魔法を使うのかも知らないけど、きっと光魔法とかキラキラしたやつに違いないよね。可愛いし、シスターさんだし。
うん、思考は逸れたけどマリベルちゃんの話はわかった。
「事情は理解できましたけど、吸血姫と戦うのは別に私じゃなくてもいいでしょう? もっと戦い慣れた冒険者に依頼した方がいいのでは?」
異世界で困った時の強い味方、冒険者さんに頼ろうよ。きっと探せば元勇者とか引退した最強の戦士とかがいるはず、いてほしい。
しかしオレの言葉にマリベルちゃんは暗い顔をする。
「………そうですか、やはりそう思いますよね。でもそれだけではダメなんです、純血の人間だけでは彼女は倒せない」
マリベルちゃんは何事かを考える素振りを見せた後、静かに語りだす。
「『エリアル・ドレイン』、それが吸血姫の持つ固有スキルで最もやっかいな能力です。人間限定で行われる魔力ドレイン、その範囲は町一つを易々とカバーする広さを誇ります…………これを封じない限り勝ち目はありません」
「魔力を吸いとるだけですか? 思ったよりは大したことはないような気がします。伝説の魔物なのだから向こうから視られただけで石にされるとか、近づいただけで魂を抜かれるとかを想像してたんですが」
ボスキャラがMP制限無しなんてゲームではよくあることだと思うけどね、それはそんなに強敵なのだろうか?
すると、思い出したくないものを思い出す時の嫌そうな顔でマリベルちゃんが説明してくれた。
「………吸血姫は魔力が尽きるまで無限に再生します。その間も彼女の攻撃は止みません、彼女の魔力によって作成される手下は無制限に数が増え続けます。一方でドレインを止めなければこちらの魔力は数分で尽き、体力も根こそぎ奪われて指一つ動かせなくなります。………うう、あんまり思い出したくないんですが……」
「お、おおう……」
無限MP吸収、無限再生+攻撃、雑魚無限沸き、最終的にはこちらのHPも没収、ですか。これは酷いマゾゲーだ。
マジで舐めてました、ごめんなさい。吸血姫さま、あなた大概な化け物じゃないですか。
あれ、でもマリベルちゃんはそんな怪物に勝ったんだよね?
いや、そもそも何でオレが次の討伐者に指名されたんだろう?
オレとマリベルちゃんの共通点って何だ?
考え込んだオレにさっきのマリベルちゃんの言葉がよみがえってくる。そういえば「純血の人間」って言ってたような………待てよ?
「………って、吸血姫の弱点はまさか!?」
オレの脳裏に浮かんだのは確信めいた一つの答え、人間限定のドレインならもしかしてーーー。
「私やマリベルのようなハーフエルフには効果が、ない?」
「ご明察です。この『エリアル・ドレイン』は私たち、ハーフエルフには著しく効果が低下します。しかもエルフとの混血者が近くにいるだけで他の人間へのドレインすら妨害することができる、まさに私たちは生まれながらに彼女の天敵というわけです」
すごい、ハーフエルフさん凄いよ。ドレインが効かないだけじゃなくて、いるだけで周りへのドレインも防ぐなんて。吸血姫と戦う時のパーティーには必須だね!
でもよく考えると、それって補助キャラの役割じゃね、ぶっちゃけるとドレイン避けの置物じゃね?
いや前向きに考えるなら、もしパーティーを結成したとしたらオレは後方支援担当、しかも死んだらパーティー全滅確定だから回避か防御コマンドのみで戦闘参加しなくていいかもしれない。いやいやいや、これは前向きな考えじゃない、ごっつい後ろ向きだよ。
でも真面目な話、「怪物退治とかハードモード過ぎる」と考えていたオレだけど、強力なパーティーを結成できるならオレの生存率はかなり高いのかもしれない。
少しばかり希望が湧いてきた、もしこんなオレと一緒に怪物退治に付き合ってくれる仲間が見つかったのならきっと勝てる………まずは仲間を集めよう。
今は非戦闘要員のレオン君しかいないからね、まてよレオン君って魔法使えるんだっけ?
「ではキリさん、このお話はここまでにしておきましょう。彼も、3人目の参加者も到着したようなので」
「よし、仲間集め頑張ろう」と決意を固めた瞬間にマリベルちゃんが告げた言葉にオレは首を傾げた。
3人目って誰だろう?
振り向いた先で光を放っていたのはコネクトワープの魔法陣、その中心にいたのはーーーー。
ガシャンガシャン、と金属製の鎧同士がぶつかる音が聴こえた。
その身の風格を漂わせる重々しい闘気はこれから戦闘に入るかのように物騒で。
そして190センチを超える長身から発せられるのは黒く光る金属質な輝き。
そこに立っていたのは四人の黒騎士だった、全身にフルプレートの騎士鎧を着込んでいる。そのため表情は一切うかがえない。主からの指令を待っているかのごとくに微動だにしない四人の様子は、一言で表すなら地面に突き刺さった剣のよう。
その無生物のような直立不動の姿にオレは不気味さを覚える、また変な汗が出てきたよ。
メチャクチャ強そう、というより怖いんですけど、どなたですかこの四人は?
つーかマリベルちゃんは「3人目」が来るって言ってたじゃないですか、まさかの四人セットの団体が来たよ?
ちらりとマリベルちゃんの方を見ると、ニコニコとお無邪気な笑みを浮かべていた。………可愛いな、いや重要なのはそこじゃないぞオレ。
こちらを伺うように微動だにしない黒騎士団、マリベルちゃんはそんな四体の黒騎士から目を反らさずに呼び掛ける。
「こちらに敵対の意思はありません、彼女と貴方を引き離したことについては謝罪します。ですから構えを解いてはもらえませんか………貴方の姉上から貴方のことは伺っています、非常に優秀な弟君のようですね」
………マリベルちゃんの話し方はまるで個人に対するものだ、それも目の前にいる四人じゃなくて別の誰かに話しかけているような?
何だか妙だと思った、その時だった。
聞き慣れた声がオレの耳に届いたのは。
「やれやれだね、まさか跳ばされた先がアストロギア騎士団の本拠地である夢見の塔だなんて想像だにしなかったよ。しかも限られた騎士しか入れない最上階フロアにだなんて………本当に君と一緒にいると退屈しないよ。あ、勿論いい意味でね」
ガシャリ、と黒騎士たちがひざまづく。
誰もいなかったはずの空間から、まるでカーテンを捲るように彼らの背後から一人の少年が現れる。ふわふわした茶髪にいつも自信に彩られた表情、その手には以前の顎ひげ貴族の館でみた魔法杖。
それは、オレがこの世界で一番信頼している友人だった。
「れ、レオン!?」
「お待たせ、キリ。遅れてゴメンね、キリが跳ばされたコネクトワープの魔法陣の解析に時間がかかったんだ。でもこうして無事に会えたから許してね」
いや、怪我したわけでもないから構わないけど。いや、それよりもなんでーーー。
レオン君が独りで魔法陣を解析した?
この黒騎士たちは誰?
3人目ってレオン君が?
「え、えっとあれ…………ぷしゅぅ」
何から質問すればいいのか分からない、オレは絶賛混乱中です。そんなオレにレオン君は困ったように話しかける。どこか残念そうに。
「うーん、こういう時のセリフは助けに来たよって言うのが正しいんだよね? ボクもそうしようと思っていたんだけど、どうみても戦闘中じゃないし…………また今度、このセリフに挑戦するからキリも協力してね?」
失敗しちゃった、と舌をちょろりと出すレオン君。そのセリフは以前、オレがレオン君に「憧れている言葉なんです」って話したものだった。
いやいやいや、言われたいわけじゃないからね!?
オレが言いたかったのは言葉をかける側であって、ヒーロー側に憧れているんですよ、男の子たるオレは!
そうかそうか、レオン君も男の子だったよ。つーかオレに協力してくれというのは、囚われのお姫様になれということだろうか。全力でご遠慮しますよ?
「『土』の複合魔法『アイアンゴーレム』と『光』の複合魔法『フラウドレイ』、その年齢でこれほどとは見事な技量ですね。レオンバルト・ラファ君。さあ、貴方の席も用意してありますのでお座りください」
「………姉上にも褒められたボクのとっておきだったんだけどなぁ。まさか一目で見抜かれるなんて思わなかったよ、何者なの君は? まあ話せばわかるか、いいよキリと並ぶ位置なら喜んで」
そう言ってオレの隣に座るレオン君。仲間が横にいると、やっぱり安心できるね。オレはかなり落ち着きを取り戻せたようだ。そして3人目のレオン君を交えて、マリベルちゃんからのお話はもう少しだけ続くようだ。
もしかしてマリベルちゃんがレオン君を時間差で招いたのは、オレがハーフエルフであることをレオン君にまだ打ち明けていないことに気を使ってくれたのだろうか?
いつか話すにしても今じゃない、そのタイミングを選ばせてくれたのかもしれない。
そして魔法陣を解析して、オレのために跳んできてくれたレオン君。『コネクトワープ』を使用している相手は少なくとも複合魔法を使う高位の魔法使い、万全の準備をしようと無事に帰って来れる確証はレオン君にもなかったはずだ。
それなのに友達であるオレを助けるために来てくれたのだ。
この二人の想いに何だか、心が暖かくなったような気がした。
この時、調子のいいオレは空想していた。多分ありえない夢を。この3人で旅ができたならそれは一生の思い出に残る最高に楽しいものになるかもしれない、
そんな都合の良い物語を。
少なくともこの時はまだこれはオレだけの絵空事だった。ただし、だいぶ後にオレは懐かしくこの時を振り返ることになるのだが、それはまだ今のオレには知る由もないことだった。
以下はオマケとなります。
『アイアンゴーレム』
『土』と『土』の複合魔法。鋼鉄製のゴーレムを召喚し操作することができる。非常に頑強で攻防どちらにも対応可能な使い魔であり、誤解されがちであるが表面だけではなく中身も全て鋼鉄が詰まっているため超重量。まさに歩く鈍器どころか凶器といえる。
尚、『土』属性は物理面において最強の属性とされているが、当たり前のことだろう。
ーーー『シベリウス魔法大全より』
『コネクトワープ』
『光』と『光』の複合魔法。2つの空間を繋げて移動することができる。設置に手間がかかるため戦闘中に仕様することはできないが、移動にはとても便利。魔法自体は複合魔法の中ではかなり簡単な部類で、属性の適性と時間さえあれば半人前にも使用可能。逆にいえば、どれだけこの魔法を素早く使用できるのかで魔法使いのランクと光属性への適性度合いが分かる。
ちなみに魔法陣の平均設置時間は三日間、発動時間は五分程度とされている。
ーーー『シベリウス魔法大全より』
『フラウドレイ』
『光』と『光』の複合魔法。術者の周囲の光をねじ曲げて、ありもしない幻影を見せることができる。転じて自分の姿を隠すこともできる応用性の高い呪文。長時間や広範囲に渡って発動することは難しいが、奇襲や逃走の場面においては非常に有益。ただし嗅覚の敏感な魔物には効果が薄いので注意すること。
尚、『光』属性の魔法には直接的な攻防性能は備わっていないことが多く、いわゆる補助魔法が大半となるのが特徴である。
ーーー『シベリウス魔法大全より』




