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第二話:弱くて強い少年と強くて弱い私

 『ヒュール山』の中腹の森まで、その限定された場所を私は駆け回る。感じ取った魔物の『気配』に向かい強襲し、目に入った魔物……コボルト、ゴブリン、オーク、ウルフを殴る、蹴る。技術なんて無い。力任せに敵を殺す。


「ガアアアア!」


 一匹のウルフが私の腕に噛み付く。だが文字通り歯が立たなかったようだ。私はウルフの首を掴み、そのまま握り潰す。死んだ事を確認して討伐証明である『牙』を素手で引き千切る。


「あっ! また……ま、いいや」


 本来ならばナイフで剥ぎ取ったりする討伐証明。だが私は素手で引き千切る事が多い。どうもナイフを使うのがメンドくさい。その為、袋に入れてある討伐部位は……歪の形をしている。まあ、換金拒否された事は無いのでヨシとしよう。


「しかし、『変』ですね……」


 朝から走り回り、討伐した数はかなりの物。だが、魔物の『気配』はまだまだ無数にある。これだけの限定された場所にしては多すぎる。そして、『ヒュール山』の食料も豊富だ。村を襲う必要性は無いのだが……


 考え事に浸っていた私は、一際大きな『気配』に気づく。思考を放棄し、これを狩ったらお昼を食べに帰ろうと考え走り始める。


「……何か、別の気配が……なにコレ?」


 大きな『気配』に近づいた私は、その近くに小さい『気配』がある事に気づいた。魔物、獣にしては小さすぎる。首を捻りながらも私は進み続ける。


「嘘でしょ?!」


 走り続けた私が見たものは、人間の子供達と、今にも拳を振り下ろそうとするオーガの姿。直様助けようと動き出すが、このままでは間に合わない。魔術も唱える時間もない。普通の人間なら届かない。


 ーーーーでも、私は普通(人間)じゃ無い!


 私は、身体を循環する『魔力』の量と速度を上げる。『人化』している私が扱える『炎龍の力』は、『炎龍』の状態の五割。『切り札』を使っても八割。それでも、五割でも『普通の人間』に比べれば驚異的な力だ。


 今まで以上の魔力を得て、活性化し強化されていく肉体と思考。


 ーー絶望的だった距離が、手が届く距離に。


 ーー早すぎる現実が、遅すぎる現実に。


 さあ、蹂躙しよう。今の私を止められるモノなど、この場には居ないのだから。


 足が大地を蹴る音さえも置き去りに、私はオーガとの距離を詰める。子供達とオーガの拳の間に滑り込んだ私は、その拳を片腕で受け止め踏ん張る。足が地に減り込み、衝撃が身体を走るが、ダメージは無い。受け止めた拳を振り払い、跳躍。拳を振り払われた事によりバランスが崩れていたオーガの頭まで跳ねた私は、身体を捻り蹴りを放つ。首をへし折るつもりで放った蹴りは、予想より強かったらしく頭を吹き飛ばしてしまった。頭を無くしたオーガはそのまま後ずさり倒れる。着地した私は、周りを見回しながら子供達に声を掛ける。


「動けるなら下がりなさい。動けないなら、騒がず、座ってなさい」


 振り返らず告げた言葉に、子供達は静かになった。本当は私からも遠ざかって欲しかったけど、仕方ない。要は、私から後ろに敵を通さなければいい。


 私は近くに感じるもう一つの『気配』に片腕を伸ばし魔力を放つ。『陣』も『詠唱』も要らない『ブリット』と呼ばれる『下級魔術』。『魔力』を飛ばし、衝撃を与えるものだ。


 鈍い音と共に着弾し、吹き飛ばされたかのように隠れていたオーガが出てくる。私と子供達を視認したオーガは体制を立て直し、唸りを上げる。


 オーガの『殺意』を受けた私の闘争本能が蠢く、敵を屠れと騒ぎ出す。それを理性によって封じる。今すべき事は子供達を護る事。その為に、私はこの場所で『盾』になる。オーガの『視線』も『殺意』も私の後ろに通さない。


 その為、この場から動けない私が敵を倒す術は一つ。『魔術』によって焼き払う、だ。


 私は、数多有る『魔術』より一つを選択。身体に蓄えていた魔力を放出しながら『陣』の構成を開始する。更に、術式詠唱開始。


「〝我が意志の元、破壊の理を司るモノよ〟」


 詠唱と共に、片手づつ『陣』を書く。一つは詠唱中の『攻撃術式陣』。もう一つは、威力を上げる『増幅陣』。


「〝汝を形作るは炎、大気を焼き、大地を焦がし、我に仇名す者に破壊を齎す深紅の炎〟」


 完成した『陣』を両手に持ち、胸の前で合わせる。構成した術式が違うため反発する『陣』を、強引に『融合』させる。


「〝我が魔力を糧に、顕現せよ〟」


 『融合』した『陣』を眼前に展開する。発動待機状態になり光輝く『陣』に必要以上(・・・・)の『魔力』を送る。


「〝フレイム・カノン〟!!」


 『術式名』を叫ぶと共に激しく発光した後、爆音と共に空を駆ける『深紅の炎』。それは、狙い違わずオーガに直撃し、破壊を表した。叫び声を上げる事も無く、その強靭な身体を炎に噛み砕かれ消え去っていくオーガ。跡に残ったのは、焼き焦げた大地だけだった。


「ちょっと……強すぎた……かな?」


 どうやら溜まっていた不満が爆発したらしい。オーガの『素材』や『魔石』は高額な為、ある程度形が残るよう焼き払う積りだったが……影も形も無い。仕方ない、諦めよう。


 オーガを焼き払った私は、子供達に怪我が無いか確かめようと振り返ろうとしたが、


「……ヒッ!!」


 子供達の声により、動きを止める。


 ……当然だろう。ドラゴンの力を一部とはいえ開放した今の私は、あのオーガより凶暴な生き物なのだから。


 それでも、私は子供達を見捨る事は出来ない。


 深呼吸しながら、身体を循環している『魔力』の量と速度を制限していく。もう、周りに脅威になる『魔物』は居ない。身体を維持する最低限に調整し、改めて子供達に向き直る。


「ゴメンね、怖がらせちゃったね。怪我は無い?」


 努めて優しく私は声を掛け、私は敵では無いよ、貴方達を護るよ、そう思いつつ頭を撫でていく。


 暫く子供達の頭を撫でていたら一人の少年がコクンと頷く。私はその少年に微笑み返しながら他の子供達に視線を走らせる。うん、私が見ても全員外傷は無さそう。しかし……


「その……小さい子達が……」


「大丈夫だよ。近くに川が有るみたいだから、そこまで移動しようか?」


 余りの怖さの為、数名の子供が漏らしてしまったみたい。まあ、このぐらい仕方ない。


 子供達に少しの間目と耳を塞いでもらい、私は最初のオーガの『魔石』だけを回収する。解体するのには時間が掛かるし、血の匂いに他の魔物が集まってきたら大変だ。


 その後、子供達を連れ川辺まで移動。途中、枯れ木などを回収して行く。


 川辺に着いたら、まず火を起こし、それから子供達の下着やズボンなどを手早く洗っていく。今日の日差しと火に当てればすぐ乾くだろう。


 グウウウゥゥゥ


 その音が聞こえたのは、私が洗い物を終えた直後だった。視線を向ければ音を鳴らした子供が顔を赤くしている。上を見れば太陽は中天、お昼時だ。お腹も空くだろう。


 ーーーーそれに、この子達は少し痩せ過ぎている。


 しかしどうしよう。本来、私は村で昼食を食べる積りだった。その為、食料らしい物を何も持っていない。子供達は村まで我慢出来ないだろう。


 チラっと川を見れば魚影が見えた。仕方ない、コレ(川魚)で我慢して貰おう。


 先程お腹を鳴らした子に近づき、


「ゴメンね、お腹空いたよね。すぐ用意するから待っててね」


 と頭を軽く撫でた後、私はそのまま川に入っていく。そして、目に付く端から素手で川魚を捕まえていく。それを見た子供達はオオ~と拍手していた。……少し、気恥ずかしい。


 十分な量を取れたと思った私は岸に引き返し、調理を始める。と言っても、洗った枯れ木に刺し、耐えず持っていた岩塩を砕いて塗し、火で焼くだけの簡単な物だ。


 そもそも……私は料理なんて、出来ない。


 焼けた物から、小さい子供順に食べさせる。しかし、私は子供の食欲を甘く見ていた。一人二匹では足りないようで、食べ終わった子供が私をジッと見ている。その目は……


「もっと食べたい」


 そう言っていた。私は自分の食事を後回しにし、再び川に入っていった。



 お腹が一杯になり一息ついた後、私は子供達に聞くべき事を聞く事にした。


「さてっと。どうして子供だけで此処に来たの? 教えてくれる?」


 私の質問に揃って下を向く子供達。やがて、先程頷いた子供がゆっくりと話し始めた。要約すると、


 村の周りに『魔物』が大量に発生し、狩りや採取に行けなくなった。その為、食料が乏しくなった。それでも『冒険者』が獲物を採ってきてくれるが、微々たる物。しかも少ない獲物を村の偉い人やお金を持っている人が買っていく為、全てに回らない。そして、少ない食料を子供達に食べさせていた親が遂に倒れた。なので子供だけで森に入り、食料を探していた時にオーガに遭遇。もう駄目だと思った時に、私が助けに来た。との事。


 私はそこまで聞いて頭を抱えた。


 ーーーー村長達は馬鹿ですか。


 それが私の感想。子供を飢えさせて平気なんて碌な大人じゃない。


 しかしどうしよう。私の『討伐依頼』は終わっているが、このまま子供達を手伝い村に帰ってもその場凌ぎにしか成らない。明日以降も手伝うか? いや、駄目だ。私にも目的が有る。しかしこのまま見捨てる事も出来ない。だが、


 『冒険者は報酬なくして依頼を受けてはならない』


 その決まりも有る。当然だ、対価なくして得る物など無い。でも……


 私が悩み始めた時、先程から事情を話してくれた子供、レオン君が私の目の前に立った。何事かと彼を見ると、


「お姉ちゃん、〝冒険者〟なんだよね」


 そう何か決意に満ちた目で私を見ていた。私は頷き、先を促す。


「お姉ちゃんに〝依頼〟する。今日だけ、〝僕達を手伝って〟」


 それは直接の『依頼』。でも、それだけでは駄目だ。


「〝冒険者〟は〝報酬〟が無くては〝依頼〟を受け無いよ……」


「うん、知ってる。だから……」


 そう言って、レオン君はポケットから何かを取り出し、私に見せる。


 それは、小さい『魔石』。売ってもお金になるか分からない程小さい物。


「僕の〝宝物〟。これを上げる。だから……」


 見れば他の子も同じように小さな『魔石』を持ち私を見ている。そして、レオン君は泣きながらも言葉を続ける。


「だから、お父さんと、お母さんを……助けて……」


 最後はもう言葉に成らない程彼は泣いていた。でも、私には確りと聞こえた彼の願い。


 ーーーーああ、この子はこんなにも『強い』


 彼はまだ幼い。でも、もう何を護り、何を諦めるかを知っている。村の大人よりも。


 ーーーーなら私も、誠意を持って答えよう


「泣かないで、レオン君。顔を上げて」


 涙を指で拭い、頭を撫でた後、私は顔を上げさせる。『依頼』の答えを告げるために。


 だが、私は答える前に右手を自分の左胸に置く。心臓の上に。


 これは、一部の『冒険者』が対等と認めた『依頼者』にする作法。


 意味するのは、


 『貴方の〝依頼〟(願い)を心に刻みました』


「Bランク冒険者、ロゼット・フランベルジェ。貴方の〝依頼〟、お受けします」


 私の答えを聞き、笑顔に成っていく子供達。でもその前に、


「ただ一つ、〝契約期間〟の変更を提案します」


 指を一本立て、私は子供達を見回す。まあ、これくらいの悪戯なら良いだろう。


「……なに?」


 おっかなびっくり、私に声を掛けるレオン君。こら、私を村の大人と一緒にしないで!


「〝契約期間〟を〝今日〟だけでは無く、〝私が村に居るまで〟に変更して下さい」


 ニッコリ笑いながらそう告げる。言葉の意味を段々と理解した子供達は、今度こそ喜びを顕に飛び跳ねる。その後、泣き笑いのような顔で私に感謝を告げ、抱き着いてきた。


「う”う”~ 感謝は良いけど、鼻水を着けないで~」


 いまいち締まらない私だった。



 落ち着いた子供達を連れ、私は再び森に入る。また川魚を取るかとも考えたが、かなりの量を取る事になるので止める。それなら獣を狩った方が早い。


 子供達をその場に残すかとも考えたが、魔物の『気配』も多数有る為断念。ならば私の近くに居た方が安全だ。


 一応村の方角に進み、目に入った木の実、山菜などを採らせていく。高い場所の物は私が上り、『バック』に入れる。『魔物』や獣を見つけたらその場を動かない様に告げ、私一人で狩る。息の根を止め、魔物なら『魔石』を抉りとり捨てる。獣なら、頭を切り落とし軽く血抜きする。そして『バック』に入れ、子供達の元に戻る。村に着くまでコレを繰り返した。


 村にたどり着いたのは夕方近くになった。私の『バック』も、子供達の両手も食料で一杯。それでも、子供達が家族と食べれば、すぐ無くなってしまう量だ。やはり、しばらくは『食料調達』を手伝うべきだろう。


 村の入口には、子供達の親が何人か立っていた。私と一緒に森から帰った事に驚き、怪我が無い事に喜び、そして危険な森に行った事を怒った。その後、私に無事に連れ帰った事と食料を採ってきた事に感謝を言った。私も事情を話し、『バック』から獲物を取り出し渡す。そして、翌日から狩りを行う為手を貸して欲しい事を話す。話しを聞き、親達は難色を示すが、怪我をさせない事と、体調が治ったら子供の代わりに親が手伝うことで同意した。


 親が迎えに来ていない子供数人をどうするかと悩み、村の中を見回し、送っていく事にした。


 物陰から、子供の食料に向けられる視線に気づいたからだ。


 幼い子供順に、家を回る。子供を連れ中には入り、出てきた親に先ほどの事を話す。中にはお金を払おうとする親もいたが、「報酬は既に貰っています」と断った。


 全ての子供を送り、伸びを一つ。さて、これから大変だ。


 先ずはギルドに行き、『討伐依頼』の完了と明日から『食料調達』をする事を報告しよう。子供達に関しては、『現地協力員』という事で報告すれば良いだろう。


 先程の視線に関しては……明日も感じたら少し話をすれば良いだろう。


 私は今日の残りの予定を決め歩き出そうとするが、何気なく空を見上げる。


 夕焼けに染まる空、私の好きな空。その空に、私はそっと祈る。祈る相手は『神』では無く、『異世界』に生きる『彼』。


「貴方の為ではなく、あの子達の為に少し寄り道する私を許して下さい」


 少しの間、その場で祈りを捧げた後、私はギルドに向かって歩き出した。

書き溜め終了です。この後不定期更新です。


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