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第一話:ロゼット・フランベルジェ、冒険者です。

 太陽が世界を照らしている。


 それは正に『祝福』。生きとし生ける物へ万遍なくその『力』を与えている。そして、その『祝福』の中、私は……


「う”~ あ”つ”い”~ 溶ける~」


 溶け掛かっていました。


 私は堪らなくなり、道端の木陰に逃げ込む。背負っていたリュックを下ろし、その脇に腰を降ろしようやく一息。


「ハァ~ 涼しい~」


 指先で『魔力』により空中に『陣』を書く。そして書き終わった『陣』を発動させる。すると、『陣』の中心から水が溢れ、地面に向かい零れ落ちる。私はリュックから鍋を取り出し、水を溜める。一杯になった所で『陣』を消し、水を止める。そして、これまたリュックから取り出したカップに水を汲み喉を潤す。しかし、


「う”~ ぬるい~ 不味い~」


 暑い時に飲む温い飲み物程、不味い物は無いと私は断言する。しかし、水分を取らねば命に関わると思い、顔を顰めながらも私はカップの水を飲み干した。


「可笑しいな~ 何で何時も『熱い』か『温い』水しか出ないんだろ?」


 私は、空中に同じ『陣』を書きながら、リュックから一冊の本を取り出します。題名は、


 『生活魔術・下級編』


 そう、水を出す『魔術』は一般的な物。それも、『魔力』が強ければ温度の調節など簡単な事なのです。それも、私の『魔力量』ならそれこそ自由自在の筈なのに……


「なんで~? ちゃんと本の通りに書いてるのに~」


 私は癇癪を起こし本をほおり投げながら私は木に寄りかかる。


 本当は、理由なんて分かっている……


 それは、私が『炎龍』だから……

 

 私の『属性』()が全ての『魔術』に干渉してしまう。だから、私は『炎系統の魔術』しか上手く使えない。でも、


「『炎龍』なのに、『暑さ』に弱いって……」


 その事に、私は更に落ち込む。他の『炎龍』みたいに火山の近くに住む……考えただけで汗が吹き出す。


 深くため息をしながら、水で濡らしたタオルで汗を拭いていく。正直、温い水で濡らしたタオルで身体を拭いても気持ちよくない。しかし、


「汗臭い女の子って、拙いよね……」


 一通り身体を拭き終わったが、私は先に進まず木陰に座っている。暑い日向に出たくなくて……そして、何気なく空を見上げる。視界に入るのは自分の深紅の髪と蒼い空、


()の姿になって、空を飛んでいけば目的地まで直ぐなんだけど……)


 それでも私は、歩いて行くことを選んだ。大した理由は特に無く。敢えて言えば、私は『歩く』事が好きだったから。一歩一歩『目的』に近づく事、その事が堪らなく『楽しい』。


 そんな『感情』も、昔の『お人形』(道具)だった私には、解らなかった事。あの時、『彼』に出会えて生まれた『心』。その御蔭で、私は今を『生きている』と実感出来る。


 でも、それでも……


 傍に誰も居ない事はとても『寂しい』。


 良き『友』だった『龍』の『龍玉』も、そして『彼』も……


 『里』の老害達は……うん、居なくなって清々した。


 私が傍に居て欲しいと願う者達は今はこの世界に居ないけど、何時か必ず巡り会えると『信じる』事が出来る。その『心』を呉れた『彼』に私は日々『感謝』している。


「さて、そろそろ出発するかな」


 一つ頷き、いつの間にか流れていた涙を拭いながら私は立ち上がる。ギルドで受けた依頼の目的の村までもう少しのはず。うん、頑張ろう。


 私は広げた荷物を仕舞ったリュックを背負い歩き出す。そして、


「う”~ 汗で濡れた服が背中に張り付いて気持ち悪い~」


 拭き方が甘かった事を後悔しました。




 その日の夕方間近、依頼された村、『ヒュール村』に到着した。良かった、今日は宿に泊まれる。その安堵感は凄まじい。しかし先ずはギルドだと、近くを通った人に場所を聴き向かう。別に今日が期限日では無いけれど、先に納品報告を済ました方が気分的に楽だと思う。


 暫く歩き、無事ギルドに着いた私は、その入口で立ち止まる。そして、深呼吸。よし、覚悟した。もう、大丈夫。のはず……


 そして入ったギルドでの第一声は……


「……やっぱり、臭い」


 猛烈な『汗臭さ』と、ギルド内にある酒場からの『酒臭さ』。私はどちらも苦手。ギルドの仕事は主に体仕事。当然汗も掻く。そして依頼完了し、そのまま酒場に直行。いちいちお風呂に入る人などそうそう居ません。よって、ギルドは大体夕方ぐらいから『臭い』。まあ、それもしょうがない。お酒を飲んで騒ぐことは、数少ない『楽しみ』なのだから。


 私は気を取り直し、私に集まる視線の中、ギルドの受付カウンターに向かう。


「いらっしゃいませ、ご依頼ですか?」


 私を見た女性は、そう言った。私は余り、『冒険者』に見えないらしい。ため息一つ吐き、


「Bランク冒険者のロゼット・フランベルジェです。依頼の荷物を届けに来ました」


 ギルドカードと依頼書を提出する。直様カードを確認して驚く女性。そんなにジロジロ見ないで欲しい。


「も、申し訳ありません。ロゼット様が余りに……その……」


「『冒険者なんて似合わない』ですか?」


「その……はい……」


 よく言われる言葉。そんなに私は幼く見えるのだろうか……これでもつい先日、一六七歳になったのだけど。


 まあ、いいや。早く納品してしまおう。


「すいません、依頼の荷物の確認をお願いします」


 私は腰に下げている『マジック・バック』から、荷物を取り出す。カウンターの上に並べていくそれらを受付の女性は確認していった。


 『マジック・バック』。それはギルドが一部の『冒険者』に支給する便利なバック。容量が大きく、生ものの鮮度が落ちないという『魔術』の結晶とも言える。ちなみに買おうとするとものすごく高い。


 そんな事を考え、時間を潰していた私の視界に、『依頼掲示板』や『魔石買取表』などが入ってくる。


 『魔石』


 それは、『アルカディア』に生きる全ての生き物が持つ物。大気に満ちる『マナ』を吸収し『魔力』を生成する器官。種別、個体差により純度、大きさは様々で、強力な生き物程、純度の高い『魔石』を持っている。そして『魔石』は、武器、防具、日用品等色々な物に使われる。だが、そんな『魔石』もある種族が持つ物だけ、別扱いされる。


 私は視線を更に動かし、『魔石買取表』の横に向ける。そこには、


 『龍玉買取表』


 と書かれた紙が貼って有った。


 『龍玉』


 それは、ドラゴン種が持つ『魔力生成器官』。だが、『魔石』とは似て非なる物。生成する『魔力』は桁違いに高く、龍族が『最強』と言われる所以。『龍玉』使った武器や防具は、『魔石』を使った物に比べ、桁違いな性能を発揮する。


 そして、『龍玉』が有る部位も違う。『魔石』が有るのは生物の『心臓』に対して、『龍玉』はドラゴン種の額……『第三の目』とも言われる『瞳の無い目』がそうなのだ。それを取るのは正に命懸け。だが、賭けられている金額は『一生遊んで暮らせる』と言う程の金額なのだ。その為、ドラゴンに挑む『冒険者』は後を絶たないらしい。まあ、殆ど返り討ちらしいけど……


 私が自分の額をポリポリと掻きながら(私の『龍玉』って幾らぐらいなんだろ?)と考え始めた時、


「確認終わりました。依頼達成なので、此方が報酬です」


 受付の女性はと言われ、カウンターの上を見た。金貨一枚と銀貨数枚が届けた荷物の代わりに置かれていた。私はお礼を言い、自分の目的地について聞こうと更に声を掛ける。


「あの、ヒュール山に入りたいのですが……何か注意ってありますか?」


 私の言葉に女性は、


「申し訳ありません。現在ヒュール山の入山は禁止しておりまして」


「……え”」


 女性の言葉に、私は驚きの声を上げる。冗談じゃない。


「な、なんで入山出来ないのですか?! 私、あの山に住む魔術師に聞きたい事があるんですっ!!」


 そう、それが私が此処に来た理由。何も依頼の為に暑さを我慢して来た訳では無いのだ。


「それがですね……ここしばらくの間、ヒュール山から多数の魔物が頻繁に村へ押し寄せて来まして、ギルドとしてヒュール山を危険と判断して入口と中腹付近に防壁を展開しております。その為、現在『討伐依頼』を受けた『冒険者』を除き入山を拒否しております」


 そう言われれば無理やり入山する訳にもいかない。『人』の社会で生きている以上、その枠組みを壊すのは最後の手段にしたい。


 チラリと『依頼掲示板』を見れば、『討伐依頼書』の山が見えた。しょうがない、私も依頼を受け『魔物』を狩るしかないか。


 ハァ~とため息を吐き、「分かりました。また明日依頼を受けに来ます」と言って出口に向かおうとした私は、


「よう!キレイな姉ちゃん! 俺達と一緒に飲もぜぇ!」


 ……汚いオジサンに声を掛けられました。

 

 別にお酒を飲むのは構わないけど、私を巻き込まないで欲しい。あと、酔ったオジサンに『キレイ』と言われても嬉しくない。


 渋い顔をしている私にオジサンは、


「よぉ~ 無視するなよ~」


 手を伸ばしてきた。山に入れずイライラしていた私はその手を掴み無造作に投げ飛ばす。オジサンはそのまま座っていたテーブルに大きな音を立て落下、目を回しています。私は手を払い、


「ハァ~~今日は散々です……」


 ギルドを後にしました。



 翌日、宿にて朝食を食べ終えた私は装備を身につけていた。先ずは防具、しかしそれはゴテゴテした『鎧』では無く、『炎龍』(わたし)の素材を使った特別製の服。大部分に翼膜を使い、急所の部分を鱗で補強してある。色合いは基本『紅』、所々に『白』と『金』。そして服を着たら武器としての『ガントレット』と『レッグガード』を付ける。私の戦い方は正に殴る蹴るだ。『剣』や『弓』などの武器は使いにくい。敵を己の牙や爪で屠りたいと思うのだ。これはドラゴンとしての性だろう。それに、これら装備は私の『切り札』を使うためにも必要な物。最後に腰に『マジック・バック』と剥ぎ取り用のナイフを下げれば準備完了。私はその場で跳ね、装備を身体に馴染ませる。


「よしっと」


 一つ頷くと部屋を後にする。まずギルドに行き、『討伐依頼』を受けよう。そしたら……



 ーーーー殺戮を、始めよう。


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