第7話【買い物2】
「…ぷっ。あははは!」
呆然と立ち尽くしてるあたしの横で灯呂が弾けるように笑い出した。
いつの間にかつないでいた手は離れている。
「何よ…」
じろりと小さい頭をにらむと、灯呂は肩をすくめた。口元にはまだ笑いが残っている。
「ほらっ!早く買い物するわよ」
私は買い物かごを手に取り、もう片方の手で灯呂の手を握った。
小さな手がピクリと強張る。
嫌そうな表情を浮かべているのを、あたしは見なかったことにした。
だって1万円持ったまま逃げられたら困るもの。
それにしてもスーパーは面白いところだった。
いろんな食材がおいてある。(当たり前だけど)
「〇〇の素」とか見たら、え?この料理がこんなに簡単に作れちゃうの?とか思って不覚にもあたしは何度も驚いてしまった。
興味のあるものは手当たり次第カゴに入れていくあたしを見て、いままで黙っていた灯呂はたまりかねたように口を開いた。
「…ねぇ、一体何をつくる気なの?」
……。やば。考えてなかった…。
にこりと笑みを作って対応してみる。
「何が食べたい?」
灯呂は呆れたようなため息をつく。
「何がつくれるのさ?」
……。
家で料理なんかしたことないあたし。
家庭科の時間につくったものならつくれるかもなあ。
でも何つくったか忘れた。
あ、林間学校でつくったアレなら覚えてるかも!確か簡単だったはず。
「カレーとか?」
「カレーつくるならこんなに材料要らないだろ。ちゃんと考えろよ」
そう言って灯呂はあたしから買い物かごを奪うと、中に入ってる商品を元あった場所に戻していく。
あぅ〜。ハンバーグの素までもが〜…。
突然あたしはハッと気づいた。
灯呂の顔をじっと見つめる。
「なんでアンタそんなに詳しいわけ?つい最近までイギリスに住んでたんでしょ?」
灯呂は少し苦しげに顔をしかめたが、すぐに人を馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「あんたが知らなすぎるだけだよ」
うきーっ!生意気ーっ!
いいじゃない!知らないことだってあるわよ。人間だもの。
結局、買い物かごの中身は灯呂が選び、支払いも灯呂が済ませた。
あたしは
「弟のはじめてのお使いを見守ってるんです。いい姉でしょ」スマイルでやり過ごしてみた。
さすがに買い物袋は重いのであたしが持つ。
またいつの間にか離れていていた手を持て余しながら、帰り道を急いだ。
2人の間に会話はなかった。