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年下の彼氏  作者: 桷爛
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第6話【買い物】

「ここは……」

あたしは灯呂の手を引いて、近所のスーパーに来ていた。

呆けたように店を見ている灯呂の頭を小さくたたく。

「何ぼうっとしてるのよ。まさかスーパーに来たの初めてとか言わないでよね」

……とか偉そうにいいながら、あたし自身、スーパー経験は浅かったりする。

買い物は常にデパートでだったし、買うものも服とか小物とか、そういうのばっかだったし。

だって、スーパーで買い物なんて、おばさんくさいじゃない?

おつかい頼まれても断固拒否してた。

でも、そういうこと、人には言えない。

「馬鹿にすんなよ」

灯呂はどこかムッとしたように言ったが、繋いだ手はそのままでいてくれた。……というか、あたしがものっすごくがっしり掴んでいるから、離せないだけなんだとは思うけど。

灯呂の手がものすごく小さくて、しっかり握ってないとスルリと抜けていっちゃいそうで、そんでそのまま逃げてしまいそうで、あたしは灯呂の手を離せないでいたのだ。

「あんたさ、買い物する気なんだよね?」

店の中に入った途端、灯呂が変な質問をしてきた。

「当たり前でしょう。散歩コースが店内なんて、そこまであたしも趣味悪くないわよ」

何聞いてるのコイツは。あたしはため息をつく。

そして、傍に積み上げられてる買い物カゴの山を見て、心臓が波打つのを感じた。


「でもさ……あんたさ、……」


まだ、なんか言ってるけど、なんかもう、あたし、それどころじゃない。

ちょっと待って。このカゴ見覚えあるわよ…。

確か、あれよね?買うものを入れるやつよね?

そう思って周りを見る。おばさん達が、このカゴ片手にうろうろしてる。

よし!さすが、あたし!

ん?待てよ。でもこれ使うのお金要ったりしたかなぁ?

いやいや、まさかぁ。そんなに世の中世知辛くないわよ。いや、でも……


「……財布持ってなくない?」


財布?ああ、もう、うるさいなぁ。

とりあえず、あたしにカゴを持たせてよ!

これがなきゃ、買い物できないでしょ!!

ん?買い物?

……財布??


あたしは、ゆっくりと灯呂の顔を見る。

「あたし、鞄……どうしたっけ?」

「はぁ、やっぱり。あんた床に置いてたじゃん」

むかつくほどに形のよい顔が呆れたっていうように歪む。

あたしはついカッとなって、ここが外だということも忘れて怒鳴り声を上げてしまった。

「何よ!気づいてたんなら早くそう言ってよね!大体――…」

「先輩?」

「ぎゃーーっ!?」

肩を誰かにたたかれたあたしは思わず飛び上がった。

慌てて振り返ると、そこには…

「た、竹下?」

最大の苦手人物――竹下――があたしの目の前でいつもの無表情のままつっ立っている。

「あぁ、やっぱり、先輩だ。大きな声出してどうしたんですか?」

聞かれてた!?

内心かなり動揺するも、それを少しも面に出さずにあたしは“いつもの”笑顔をうかべた。

お願いだから、“あたし”を見ないで。

探さないで。

「……別に何でもないよ?君こそこんなところでどうしたの?」

「買い物です」

「へぇ、何買ったの?……」

聞きながら、竹下の持っている買い物袋を見ると、

…そこには大量の長ネギ!!

長ネギONRY!!

え、これどうしよう。このまま話題を続けるべき?それともスルーするべき?「え、えっとぉ…、ネギ、好きなんだ?」

迷った挙げ句、一応話題を振ってみることにした。


ねぇ、だって気になるじゃない?


でも、返ってきた答えはあたしの期待したものとはかけはなれていた。

「いえ、好きか嫌いかと問われと至って普通ですとしか返せません」

「はぁ……」

ええ!?

好きでもないのにこんなにネギ買うわけ?

ああ、駄目よ。このままじゃ敵の思うツボじゃないの。


竹下は今日ネギを食べると幸運なのよ。朝のテレビでそういってたから竹下はこんなにネギを買ったのよ。


竹下がテレビの占いごときを真面目に信じていたらいたで怖いのだが、あたしは無理矢理そう結論づけてネギから頭を切り替えた。


「おつかいか、偉いね。家この近くなんだ?」

「えっと、寝ている所は光瀬町です」

光瀬町!?駅2つ分違う町じゃない!!

しかも、『寝ている所』!!?何、そのものっすごく微妙な表現!


もう

「へぇ」

としか言いようのないあたし。

すると竹下はおもむろに自分の財布を取りだし、そこから1万円札を取り出すとあたしに差し出した。

「取りに帰るの大変でしょう?よろしければ使ってください」

「わぁ、助かるよ。今度ちゃんと返すからね、ありがと」

なんだ、少しは良いとこあるじゃない。

感謝しながら1万円札に手を伸ばした。

しかし、つかんだのは空気。

……え?


「な、なんで!?」


竹下はあろうことか灯呂にお金を渡していたのだ。


「先輩に渡すと、なくしそうだから」



ちょ…。

それ、どういう意味よっ!

とも言えず、口をパクパクさせるあたし。

竹下は何事もなかったように、いつもの無表情で頭を下げた。


「それじゃ、失礼します」



もう、むかつくとか、そんなの通り越して、あたしは、小さくなる竹下の背中を焦点の定まらない目で見送るしか選択肢がなかった。

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