表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
年下の彼氏  作者: 桷爛
4/7

第4話【竹下論】

部活は終わったが、あたしは弓道場から足を踏み出す気にどうしてもなれず、皆が帰った後、袴を着たまま床の上に仰向けになった。

「あー、気持ちいい」

ひんやりとした感触が手足から伝わる。

このまま寝てしまいたい。

弓道場の隣りには体育館がある。

バスケ部かバレー部か、はたまた両方か、ボールの跳ねる音と監督の怒鳴り声がかすかに耳元をかすめる。

今あたしの周りに存在する音はそれだけだ。

なんて心地いいんだろう。

独りじゃないけど、一人であること。

人にとって、そういう空間が1番心地いいんじゃないだろうか。

風が顔をなでるのに従って瞼を閉じる。

そのまま夢の世界へと落ちようとしていた時に、感情のこもらない声がかけられた。

「風邪ひきますよ」

「っっ!?」

自分がいつどのようにして目を開き、体を起こしたのか分からないほど、あたしは驚いた。

「た、たっ、竹下!」

なんでこの後輩は、こんなにも存在感がないのだろう。

誰でも似合いそうな髪型をしてるからか?

太っても痩せてもないし、背が高くも低くもないからか?

いや。肌の色が白くも黒くもなく、上手く周りの風景と調和しているからかもしれない。

あ、分かった。

この、光りの宿ってない瞳。この瞳のせいだ。

そんなことを考えてるうちに、やっと気持ちが落ち着いてきた。

よく見ると竹下もまた着替えていない。

身を包んでいるのは、1年生専用ユニフォームである体操服だ。

もしかしてあたし同様、ずっと弓道場にいたのかもしれない。

それに気づかないあたしより、気づかれない竹下の方が凄いと思う。

「帰らないの?」

そう聞いたら、

「先輩こそ」

と返された。

あたしが黙っていると、珍しく竹下から話題をふってきた。

「自分は神様を信じません」

いや、全く貴方らしい話題選択です。

思わず苦笑がこぼれる。

「へぇ、そうなんだ」

そういえば、弓道に関する質問されたことは何度かあるが、会話のキャッチボールを投げられたのは、もしかしたらこれが初めてかもしれない。

胸の奥から笑いがこみあげてくるのを必死で隠す。

竹下はそんなあたしに気づいていない様子で淡々と続けた。

「でも、もしいたとしたら、ひどく傲慢な神様になるんでしょうね」

「どうして?」

竹下が真面目に語るのが面白くて、つい話を促してしまった。

それを後悔したのは、竹下があたしの目を捉えたときだ。

相変わらず光りを宿さないその目は、どこも見ていないようでいて、あたしという次元を越えた深い所を探っていた。

「1番偉いということは、1番高いところから周りを見てるってことですよね。同じ目線でものを考えられないことはひどくつまらないことだと、自分は思います。誰かの上に立つことはむなしいことです。無理矢理山に登ったって、結局足は地面にあるんですから。

どこにいようが結局みんな一緒です。

神様は、一度顔を上げるという経験をしなきゃだめだ」

竹下は明らかに“あたし”に向かって言っていた。

居心地が悪い。

もって生まれた本能か、意識しないままに、あたしの顔には笑顔の仮面が張り付いていた。

「ふぅん。凄いね。そんな風に深く考えることが出来るのって、凄いと思うよ」

「いつか……神様に」

竹下の声が少し震えた。

もしかしたらそれは、あたしの気のせいだったのかもしれないけれど。

「思考を凌駕する存在が現れるといいですね」

そういう竹下の目には、光りの代わりに感情が揺らめいていた気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ