『首都高21時』
203×年 東京・首都高速 PM9:07
外苑前ランプ付近。先頭を走るのは、フェラーリ『550トスカーノ』。時速300kmで、24時間巡航可能とされるエレトリッシア(電気自動車)だ。つや消しの白いボディーは、スーパーバージョンの証である。ドアミラーが、なくなり、リアのストップランプの上部に内蔵される暗視カメラを用いて、コンソールのモニターに、後方映像を映し出すシステムである。
そして、わずか、数mおいて、追尾するのは、TOYOTA『ライディーン4000』日本初のリニアシャフト駆動電気モーターを搭載し、最高速は、時速320kmを超えるとされる。パドルレス・シフト・システムで、無段階のシフトポジションを得られるため、常に最大のトルク出力で走行させることが、可能である。550トスカーノの後部監視モニターには、ライディーン4000の精悍なマスクが、映し出され、コナーをクリアするたびに、わずか数十センチに感じる迫力である。
三宅坂トンネルに突入し、制限速度をはるかに超えて駆け抜ける2台のスーパーカーの後方をHONDA『インペリアGR』のポリスカー仕様が、最高速で、追尾してくる。ホンダ初の4輪マルチモーター駆動システムで、最強のコーナリング性能をたたき出す。
そして、代官町方面からさらに、もう一台、青色フラッシュが、アイデンティティーという首都警仕様のメルセデスの『タイプXJ9』が、合流してきた。世界初のカーボンモーター採用で、体積比世界最軽量を誇り、わずかに軽自動車と同じ車体重量である。ドライバーズシートで、ハンドルを握るのは、飛羽新矢首都警警部補だ。
首都警は、今年で、創立10年目を迎える地方公務行政法に基づいて設立された東京圏を管轄する警察である。猪俣都知事時代に、東京のテロ対策、治安維持を目的に設立され、テロ対策部、公安部、薬事部など9つの部局と、潜入捜査部などの4つの非公式部局からなる通称『トーキョー・バイス』である。
飛羽は、フォーバイセグメント通信システムで、インペリアGRの警官と会話した。
「お~い、警視庁さんは、どっちを捕るんだい?」
「二匹とも、うちが、先に見つけたんだぜ。とっくに、通信本部には、画像を送ったよ。ドライバーを特定して、逮捕状まで、用意してあるんだ。横取りは、ルール違反だぜ。それから、俺には、大岡っていう名前と、警部補って立派な肩書きがあるのさ。」
「俺の名は、飛羽。公務給与ランクは、あんたと同じだよ。つまり、肩書きも同じってことさ。大岡越前さんよ、550の方は、申し訳ないが、ウチの所轄で、マークしていた野郎なんでね、渡すわけには、行かないんだ。すまんが、レインボーブリッジの登り坂で、あんたのPCの前に出るぜ。」
「待て待て。貸しを作ってやってもいいが、ウチは、手続きが面倒でね。」
高速で、迫る4台のパッシングに驚かされた八輪コンボイが、急に車線を変えてくる。どの車線に移ればいいのかさえ、迷っている様子だ。
飛羽>「アブねえなぁ。」
大岡>「飛羽さんよ。あんたの言うとおりここでは、危険だ、550は、あんたに譲るよ。その代わり、後で、ちゃんと連絡をくれよな。」
飛羽>「越前さんよ。あんたの手柄を取ってわるいな。感謝するよ。じゃあ、後でな。必ず、連絡するよ。」
レインボーブリッジから、右に折れ、横浜方面に走らせるフェラーリ550。一方、ライディーン4000は、千鳥町方面へと左に進路を変えた。
大岡>「本部へ、8号車。本部へ、8号車。」
本部>「音声良好、8号車、どうぞ。」
大岡>「8号車の大岡です。この先の渋滞情報をお願いします。」
モニターを一瞥するオペレーター。
本部>「位置情報は、確認しました。いま、千鳥町方面に、進行中ですね。・・・渋滞も、事故も、ありませんね。それと・・・浦安の先2キロ地点、第一通行帯で、工事中です。8号車、GPSで、時速150キロ近いですよ。」
大岡>「8号車は、9時現在、速度違反車両を現認しており、追尾中です。」
本部>「8号車、違反車両の追尾中ですね、了解です。車載モニターに切り替えます。」
本部の大型モニターには、8号車の位置情報が、映し出されると伴に、表示色が、青色から、赤色に変わった。
大岡>「8号車、通信オワル。」
本部>「8号車、通信オワル、了解です。」
二年前の、司法改正で、違反現場の映像を電子的に記録することを条件に、ポリスカーの一人乗車体制が、認められたのだ。電子デバイスの発達と共に、少ない人員で、多方面への捜査員の派遣が、可能となった。大岡は、本部に取締りの終始を記録するように指示した。
高速で走行し、しかも、頻繁に車線を変えるライディーン4000。
8号車の大岡は、第3車線のまま速度を維持して、違反車の動きを伺っている。
葛西JCTを過ぎたら後は、東関東自動車道まで、一直線だ。
大岡は、相手は、このルートを取るはずだと、想定していた。
もし、葛西を曲がり首都環状に進路を取れば、いづれ、渋滞にまきこまれるだろう。
違反車にとっては、逃げ切る可能性を考えるならば、湾岸道路を直進、もしくは、東関東自動車道で、勝負をかけるしかないだろうと。
「ということは、・・・。」
大岡は、あることを思いついた。
速度を上げるインペリアGR、メーターは、200のデジタル表示に変わった。
工事の手前で、相手車両の真横に並べば、減速するに違いない。
周囲の車両の安全のために赤色灯のみで、走行していた、大岡は、サイレンのスイッチに手を伸ばした。
「パゥオ~~~」
「はいぃ~、ライディーンの運転手さん減速してください。」
もう、ずいぶん前から気が付いているはずなのに、一向に減速する気はなさそうだ。
「運転手さん、違反は、確認していますよ、減速してください。」
工事の赤いパイロンが目立ち始めてきた。
違反車の行く先を塞いでいる。
価格帯900万円の高級車だ、傷付けたくあるまい。
大岡のインペリアが、並行しているために、これ以上の加速も難しくなってきたようだ。
デジタルの速度表示も80まで、落ちてきた。
「運転手さん、後ろを着いてきてください。」
違反車の前に出る大岡。
千鳥町出口手前の直線で、路肩に停止させた。
ドライバーは、日本人のようだが、助手席には、金髪の若い女性が座っていた。
大岡>「運転手さん、違反したの判ってるよね!免許証見せて!」と、切り出す大岡。
大岡>「・・・?、柴山さんですね。・・・柴山さんね、ナイトクルーズサービスやってんじゃないの?」
ドライバー>「いいえ・・・。」
大岡>「普通免許じゃ違反だからね。ナイトクルーズサービスは、二種免じゃないとできないんだよ。」
ドライバー>「ええ、知ってますよ。」
大岡>「そちらのご夫人は?」
ニーナ>「コノヒトのガールフレンドです。」
大岡>「日本語できるんですね。」
大岡は、ライディーン4000のドライバーに違反切符を渡した。
大岡>「運転手さんね、免許は、取り消しだからね、今からこの車は運転できないからね。助手席の方は、運転免許ありますか?」
ニーナ>「はい、大丈夫です。」
大岡>「念のため、運転免許見せてください。」
ニーナ>「はい、どうぞ。」
大岡>「リー・ニーナさんね。」
ナイトクルーズサービスとは、数年前の映画「TOKYOアメージング」が、きっかけで、始まった新たらしいビジネスで、今では、二種免許を必要とする認可制のビジネスとなっている。
外国人観光客の多くは、テクノポリスTOKYOの象徴を、首都高だと言う。
それに注目した都庁の運輸局は、駅前の二重駐車解消も兼ねて、一部のタクシードライバーに、ナイトクルーズサービスの認可を与えたのだった。
東京都も観光の目玉として、世界中に発信したため、人気を評し、1時間足らずで、数万円の売り上げになることもあり、ニーズも高いことから、もぐり営業も現れることとなったのだ。
さらに、もぐり営業の中には、高級車を導入し、時速200キロ近い高速でかっ飛ばすことをウリにしている連中もいるのだ。
一方、飛羽の追う550は、大井南手前で、減速した。
緩やかに、カーブを切り、やがて、一般道に下り、コンテナ車の群れに紛れた。
飛羽は、フェラーリ550の後ろに続く。
コンテナヤードの多い地域にかかると、550は、エンジンを停めた。
周囲は、地明かりが、少ない。
バロロロロ・・・、バロルロル・・・。
真横をコンテナ車が、爆音を轟かせ行き交う。
550のドライバーは、座席の下からグロックを引き出し、懐に忍ばせた。
550の後方に、飛羽もXJ9を停めた。
カーゴ車のフロントライトに映し出された前方の550から、タバコの紫煙が立ち上った。
550に歩み寄る飛羽・・・。
三咲>「まずかったな。」
飛羽>「まあ、邪魔が入っては、しょうがない。まだ、相手と連絡は、取れるんだろ。」
三咲>「ああ、おそらく怪しまれていないと思う。」
飛羽>「部長に報告して、次の手を考えよう。」
三咲は、トーキョー・バイスの一員である。アンダーカバーとして、ナイトクルーズを主催する組織に潜入し、その組織を暴きだす役割を負っていた。三咲は、運転技術のレベルを見るために組織の採用試験を受けていたのだった。その真っ最中に、大岡のPCに捕捉されたのであった。そこに、飛羽が、現われ、難無きを得たのだ。柴山という男も、その採用試験を受けていた。
時間は、23時に迫ろうとしていた。
助手席の女は、早口の中国語で、1、2分ほど話し、携帯を切った。
ニーナ>「柴山さん、このまま直進して、船橋の埠頭まで移動してください。」
柴山>「採用は、どうでしょう?」
ニーナ>「なかなかのドライビングテクニックだわ。評価していますよ。」
柴山>「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
ニーナ>「・・・。」
船橋の埠頭は、閑散としていた。
ニーナ>「華龍会が、私を迎えに来るので、それまで、お待ちください。」
柴山>「ええ、判りました。ニーナさんは、日本は、長いのですか?」
ニーナ>「個人的なご質問には、お答えできませんの。」
柴山>「あっ、そうですね。」
トーキョー・バイスの本部は、羽田国際空港に近いガラス張りの高層ビルの中にある。
体裁は、IT企業の風を装っている。
三咲>「部長、実は、華龍会の採用試験の最中に警視庁の覆面に追尾されたのですが、飛羽の車に救われました。それで、今後の方針をどうすれば、いいのかと思いまして。」
藤巻部長>「お前の方から、積極的に連絡を取るのは、不自然だから、しばらく、様子を見ようじゃないか。むしろ、ビビッて、採用をあきらめたように見せたほうが、普通だろう。」
オペレーター>「部長、広域の方からの入電なんですが、これは、今、追っている捜査に関係するものではないですか?」
部長>「モニターで、見せてくれ。」
オペレーター>「30分前に、船橋埠頭において、黒のライディーン4000が、かなりのスピードで、海に飛び込んだそうです。船橋埠頭の貿易検数官が、目撃し、通報してきました。」
三咲>「えっ、何だって。」
部長>「まあ、ことの成り行きからして、そのドライバーは、仏さんになってるだろうな。」
飛羽>「連中は、殺人まで・・・。」
部長>「スピード違反なら、免停では、済まないからな。いくら、腕が良くても、使い物にならんだろ、それに、組織の女の顔を見たからにはなぁ。」
三咲>「アシが、着く前に、バラシたんですね。ということは、オレが、殺られてもおかしくなかった・・・。」
部長>「明日のニュースになれば、お前も殺されたくないという理由で、華龍会から、連絡が来たとしても無視するのが常識だろう。」
三咲>「オレの潜入は、解任ですか。」
部長>「ああ、一から出直しだな。」
飛羽>「部長、潜入は、オレに担当させてください。」
部長>「いかん。飛羽は、華龍会の賭博の筋の捜査をこのまま続けるんだ。ナイトクルーズの線が、切れたんだから、賭博の線をつないで行くのが、善後策だ。それより、所轄が、現場に着いてる頃だろうから、お前ら、所轄に挨拶して来い。それから、車の中から、女の毛髪でも出てないか確認するんだ。」
飛羽・三咲>「はい。わかりました。」
華龍会は、北華共和国出身の葉龍夫を頂点とする在日犯罪組織である。
葉龍夫は、元軍人で、北華国政府高官ともつながりがあるとも言われ、北華国で、犯罪を犯した者を、わざわざ、出国させているという情報もある。構成員は、およそ、200名ほどで、いづれも北華共和国では、国を追われた者達だ。傘下には、一部の日本の暴力団も含まれている。華龍会は、来日する北華国の観光客を相手に三星ホテル、陽光観光ホテルなどを経営、その観光客相手に複数の地下カジノを運営、さらに、売春の斡旋、高利貸しなど、多角化を極める。違法ナイトクルーズは、組織の収入にとっては、大きいものではないが、日本の若者を配下に置こうという目論見がある。トーキョーバイスは、そこに、華龍会頂点への手掛かりがあると考えたのだ。
日本政府は、2033年に警察庁を警察省に格上げし、広域犯罪捜査チームを編成した。アメリカのFBIに相当する機関だ。総務省、警察省、防衛省、外務省、厚生労働省、公安調査庁、海上保安庁、消防庁の垣根を越えた、八省庁総合対策連絡網を構築。同時に、通信チャンネルを省庁専用に、一本化した。厚生労働省と、海上保安庁では、北華国からの違法薬物の取締りを行っている。首都警は、スーパー・エイトに組み込まれなかったが、広域犯罪捜査隊に、トーキョー・バイスから、3チームが、編入された。外務省からの査察では、主犯の葉容疑者は、北華国の領事館に住み着き、治外法権によって手を出せない環境下にあるという情報もある。華龍会は、北華国が、日本のGDPを抜き、富裕層が増えて以来、ここ数年で巨大化したのだ。藤巻班7名は、主に地下カジノを捜査していた。
【続く】
感想自由




