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迷宮の魔王さま  作者: 井戸端 康成
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第五話 同居人?

 話が想定したところまで行かなかった……。すいません!



第五話 同居人?


 迷宮都市の北部一帯。俗に貴族街とよばれるそこは、シーカークランなどのある南部とは違って、立派な屋敷の並ぶ高級住宅地である。


 そのはずれをシェリカと魔王は歩いていた。住む人間が夜の外出などしない人間ばかりからか、通りは暗く、寂しい。月だけが、優しく彼らを見守っていた。


「ここが私の家よ」


 シェリカは立ち止まると、一軒の屋敷を指差した。立派な門構えをした屋敷だった。その門の向こうには広い庭と、噴水などが見える。さらにその奥には赤い色調の、二階建ての家がそびえていた。


 しかし長年手入れをされていないのか、庭に雑草は生え放題で噴水の水は緑に変色している。さらに、建物の方も煉瓦の赤がくすみ、さながら幽霊屋敷のようであった。


「……古いが立派な家だな」


「ぼろいが、でしょ。別にお世辞言わなくても良いわよ。さ、中に入りましょ」


 そういうと、シェリカは屋敷の門を押し開け、庭を抜けて中に入っていった。魔王もその後に続いていく。


 屋敷の中はその外観に相応しく、豪奢であった。絨毯が敷き詰められ、天井からはきらびやかシャンデリアが下がっている。だが絨毯は色あせ、シャンデリアは埃まみれであった。それに夜であるというのに、明かり一つついていない。


「さっきから人の姿が見当たらないが……。もしかしてこの広い屋敷に一人暮らしなのか?」


 屋敷の中に明かりがついておらず、人気がまったくなかったので魔王は半ば呆れたようにシェリカに尋ねた。これだけ広い屋敷なのだから、使用人の一人や二人は居るべきだろうと思われた。


 すると、シェリカはどこか寂しげに顔を俯けた。そして微かな声でささやくように答える。


「ええ、そうよ。お父さんとお母さんが死んじゃってね。使用人も昔はいたんだけど、給料を払えないから暇を出したわ」


 家の中が石化した。魔王はシェリカの弱々しい様子に口をつぐむ。しばし、微かに流れる風の音だけがした。二人は沈黙したままだ。


 月が陰り、ヒュウと一際大きく風が唸った。ここでようやく魔王は重々しく口を開けた。


「そうか、すまない。変なことを聞いたな」


「謝らなくても良いわよ。二人ともシーカーだったから……。そんなことよりもあんた、もう晩ご飯食べた?」


 シェリカは話題を変えると顔を上げた。そして、魔王に向かって笑いかける。魔王もぎこちなく笑ってシェリカに答えた。


「いや、まだだ」


「それじゃあ一緒にご飯にしない? 私もまだなのよ」


「そうだな」


「じゃあこっち来て。ご飯にしましょ」


 シェリカは食料のある厨房に向かった。魔王も誘われるまま着いて行き、シェリカと食事をとった。保存食中心の簡素な食卓であったが、魔王はおいしく食べられた。魔界の食べ物は総じてまずいかったのだ。


 こうして食事を食べた後は特に何事もなく、魔王はシェリカの家の一室で朝を迎えた。


★★★★★★★★


「ねえ、物は相談なんだけど……」


「なんだ? 言ってみるが良い」


 翌日、食堂で朝食を食べているとシェリカがぼそぼそと魔王に切り出した。何を照れているのか、手を顔の前で盛んに動かしている。魔王はその様子に首を捻った。何を言うつもりなのかと。


「あんたさ、家に住むつもりはない? お金は取らないから」


「なんだ、そんなことか。住ませてくれるのならむしろありがたいぐらいだ」


 魔王はなんでもないかのように答えた。すると、シェリカの表情がみるみる明るくなっていった。よほど魔王と一緒に住めることが嬉しいようだ。


「そう! 良かったぁ~。実はね、一人で少し寂しかったのよ。だからあんたを泊めたんだけどね。でもあんた貴族みたいだからさ、こんな家すぐに出ていくんじゃないかなと思って心配したのよ」


「それなら心配いらない。余はこの家を気に入ったからな」


 嘘ではない。魔王はこの家のことが本当に気に入っていた。彼の故郷、魔界にこの家の暗く、寂しい雰囲気が似ているのだ。


「ありがと。そうと決まったらご飯も食べたし、神殿に行くわよ。また昨日みたいにされたら同居人の私が恥ずかしいからね!」


「あ、ああ……」


 シェリカは皿を片付けると、魔王の手を引っ張って強引に出掛けようとした。魔王はそれにおおいに戸惑う。


 実はまだ、洗礼を受けるかどうか決めかねていたのだ。しかし、シェリカはそんなことお構いなしに連れて行こうとする。彼女は突っ立っている魔王の手を強く引っ張った。


「ほら、行かないの?」


「ううむ……仕方ない、あの結界の突破は難しそうだからな」


 しばらくして、散々悩んだあげく魔王はシェリカに着いて神殿へ向かうことにした。洗礼を受けなければ迷宮に入るのが難しかったことと、何よりシェリカの押しが彼にそう決断させた。


 魔王とシェリカは家を出て、神殿へ歩いた。すると、シェリカはシーカークランの方向へと向かっていく。そして彼女と魔王はシーカークランの前に来てしまった。


「ここの神殿だったのか……」


「知らなかったの?」


「ああ、なにぶん余はこの世……街に不慣れなのでな」


 シェリカは魔王の世間知らずに肩を竦めると、クランの扉を開けて中に入って行った。そして奥の神殿へと入っていく。


 魔王もシェリカに続いて神殿の中に入ってみると、存外に広かった。白亜の大理石の通路が広がり、太い柱が立ち並ぶ。クランに繋がっているのは数ある出入口の一つに過ぎないようで、神殿はシーカー以外にもたくさんの人で賑わっていた。魔王はしばらく神殿という苦手な空間と人の熱気に圧倒された。


「こっちよ~、早く来て!」


 魔王が固まっていると、通路の奥でシェリカが叫んだ。人々は驚いてビクッとし、シェリカの方を向く。魔王はその声の大きさに慌ててシェリカの方に走った。


「あなたが魔王さん?」


 シェリカの脇に小柄な少女が立っていた。白い服を着て、頭にチョコンと十字架の描かれた帽子を被っている。聖書のような物を脇に抱えていることからして、おそらく神官の一人だろう。だがこの少女、身体から黒い気配を漂わせていた。


「いかにも余が魔王だ」


「そう、なら着いてきて。洗礼の間はこっちよ」


 そういうと神官の少女は通路の脇の扉を開け、魔王を手招きした。魔王はシェリカの方を向いて困ったような顔をする。だが、彼女は頑張ってと笑うだけだった。


 洗礼には一人で行くしかないらしい。そう悟った魔王はどこか重い足取りで神官のいる扉に向かった。その顔はとても曇っていた。


 その様子に、神官の少女は生暖かい目をして、口元を抑えた。そして、魔王をして魔族のようだと思わせる笑いをしながら言う。


「くすくす……後ろめたいことがあるのね。でも大丈夫、あなたが悪の代名詞のような存在でも神は加護してくれるわ。ただし、そういう神だけどね……ふふふっ」


「そ、そうか」


 魔王はギクッとした。少女の指摘はまさに図星であった。まさかこの神官……と思って少女の方を見る。しかし、少女はニヤッと腹黒い笑みを浮かべ、その氷のような青い瞳で魔王を見つめるばかりであった。


「うふふふ……安心したならこっちに来て。早くしないと私の休憩時間があなたの洗礼で潰されてしまうわ」


 少女はそういうと扉の向こうへと消えた。魔王も渋々ながら扉の向こうへと向かう。


 こうして魔王は多大な不安を感じながらも洗礼に臨むのであった。



 評価ポイントが私的にはすごーく伸びてます。べ、別に嬉しくなんかないんだからね!



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