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迷宮の魔王さま  作者: 井戸端 康成
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第三話 シーカークラン

 お気に入りが作者的に凄い伸びです。これはまさか……魔王さまのお力なのか!?



第三話 シーカークラン


 夕闇が深まる中、シーカークランは今日もシーカーたちでごった返していた。その中に、一人の男が足を踏み入れてきた。魔王だ。


「いらっしゃいませ。何のご用ですか?」


 カウンターに座っていた受付嬢は魔王に、錆び付いたような営業スマイルで答えた。そしてその心の中で思う。またどこかのアホな貴族が来たのかと。


 シーカーになるためにシーカークランに来る貴族というのはたまにいる。そういうのはたいてい自身の腕に自信を持っていて、それを見せつけてやろうという連中だ。だが、そんな連中は普通シーカーになって三日ぐらいで、その自信を打ち砕かれ辞めていく。


 豪奢な紅いマントを着てこれまたきらびやかな杖をついていた魔王は、どこからどう見てもそういうアホ貴族にしか見えなかった。


「シーカーになる手続きをしたいのだが」


「はい、わかりました。……ではこちらについてきて下さい」


 魔王は受付嬢が笑顔の裏に放った『場違いだ、帰れアホ貴族』というメッセージを黙殺した。というよりはそもそも気がついていない。受付嬢は仕方なく魔王を手続きのできる奥の個室へと案内した。


 魔王が受付嬢に案内された部屋はとても小さな部屋だった。椅子が二つ、真ん中のテーブルに向かい合うように置いてあり、さらにその真ん中のテーブルの上には水晶球と書類が置かれている。部屋にはそれだけしかなく、またそれだけしか置けるスペースがない。


「こちらにお座りになって下さい」


 受付嬢は魔王を先に手前の椅子に座らせた。そして自身は奥の椅子に座る。椅子に腰を落ち着かせた彼女は書類をぽんぽんと整えると、魔王に説明を始めた。


「手続きを始める前にシーカーの義務と危険性について説明します。……」


 魔王が聞いた受付嬢の説明はかなり長かったが、その主な事柄だけを抜き出すとこうだ。


 まず、第一にシーカーとなるとシーカークランに税金のような物を納める義務を負うということ。このお金は月ごとに支払うもので、シーカーによって金額がことなる。収入が多い上位のシーカーほど多い仕組みだ。なお、シーカーになって最初の一月は払わなくても良いらしい。


 第二に、シーカーになるとこの街から出るのが面倒になるということ。優秀な戦力であるシーカーに勝手気ままに動かれては困るからだそうで、街を出るのに非常に煩雑な手続きが必要になるのだそうだ。ちなみにその手続きには最低でも半年はかかるらしい。


 最後に、シーカーたちの死亡率について。何でも初心者シーカーの死亡率は三割近くになるそうで、熟練者の死亡も良くあるらしい。ただし、魔王はこの部分の説明をほとんど聞き流していたが。


「説明が終わりましたので、いよいよ登録作業です。まずはこの書類に必要事項を書いて下さい」


 受付嬢は魔王にペンと書類を手渡した。魔王は書類を受け取ると、必要事項をサラサラと記入していく。文字の知識はさきほどの男から得ていたし、書き込む情報は適当でもばれないと魔王は高を括っていた。


「全部記入できたぞ」


「はい、どれどれ……名前がイストリア・フランシス・フリードリヒ……」


 名前の欄を見た受付嬢の顔が曇った。欄いっぱいに小さな字で書かれている。覚えるのに苦労するどころか、読み上げるだけで大変だ。


 しかし、ここで魔王が助け舟を出した。彼自身も名前が長すぎることは自覚していたのだ。何故自覚しているのかはっきり言ってしまうと、彼自身も思い出しながら記入したからである。


「魔王で構わん。長いからな」


「魔王ですか? はい、わかりました。そう呼ばさせていただきますね」


 受付嬢は妙な顔をしたが、何も聞かなかった。この世界にはモンスターはいても魔族はいないので、魔王という言葉に特に意味はないのである。


 しばらくして、受付嬢は書類に目を通し終えた。すると、水晶球に何か薄い紙のような物を差し込む。彼女は紙が奥までささったことを確かめと、魔王の方に向き直った。


「ではいよいよステータス測定です! この水晶球に手を当ててみて下さい」


 魔王は受付嬢に促されるまま、水晶球に手を触れた。水晶球は何も反応しない。受付嬢が首を捻った。だがその瞬間、水晶球が太陽のように明るく輝き出した。


「うわああ! 何でこんなに光るんですか!! いつもはこんな風にはならないのに!」


「そういうものなのか?」


「はい、いつもはぼんやり明るくなる程度です! あっ、カードが出て来ましたよ!」


 受付嬢は未だにチカチカとする目を擦りながら、水晶球の隙間から出てきたカードに目を通した。


 すると、その顔色がどんどん青ざめていく。やがて彼女は震えながら、カードと魔王の顔を見比べた。そして次の瞬間。


「な、なんでこんな人がレベル五百もあるんですかああ!」


 受付嬢の渾身の叫びがシーカークランにこだました。窓ガラスが割れそうな程の音量だ。さしもの魔王もこの音波攻撃には耐えられなかったのか、ギュッと耳を抑える。彼の耳にキーンと耳鳴りがした。


 少し後で、耳鳴りが収まった魔王。そこで彼は空気を読まないことを承知で、受付嬢に気になったことを質問をした。


「雰囲気を壊して悪いが、レベルとは何だ? それが五百とはそんなに驚くことなのか?」


 この質問に受付嬢がまた叫んだことは言うまでもないだろう。



 なかなか話が進まない……。まだヒロインすら出てないぜ。次回、次回にはきっと登場させるのでお楽しみに!



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