表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮の魔王さま  作者: 井戸端 康成
26/27

第二十六話 武道大会前日

 未だ太陽も昇らぬ早朝。霧の煙るシェリカの屋敷の庭で朝からシェリカたちが訓練に勤しんでいた。


「やああ! せいっ! とう!」


 サクラは一段と冴え渡る剣技を見せ、霧を裂いていた。白刃が薄明かりに煌めき、風を切る音が響いている。その額からは汗が噴き出しており、彼女はそれを時おり手ぬぐいで拭っていた。


 そのさらに奥では、シェリカが剣を睨みつけていた。眉間にしわを寄せて目が裂けそうなほどだ。そうしてシェリカが剣を睨みつけていると、剣の表面がわずかに輝き始めた。そして次の瞬間、剣が真っ赤に燃える。


「よしっ、成功!」


 シェリカは燃える剣を見て、ガッツポーズをした。その様子を後ろから魔王とエルマとシアが見守っていた。その三人の表情は感心七割、呆れ八割といったところだった。


「二人ともお天道さんも昇る前からよう頑張るなあ……」


「そうね、こんな朝早くから叫ばれたら迷惑だわ……」


 エルマとシアはそう眠たそうに言うと、一緒に大あくびをした。まだ二人とも起きたばかりで、パジャマを着ている。二人とも朝には基本的に弱いのだ。


「まあそういうでない。二人とも頑張っているのだからな」


「せやかて……二人とも明日の大会には出んのやで」


 エルマはたしなめるな顔をした魔王に口を尖らせた。大会参加はギルド単位で、一つのギルドにつき一人参加できる。なので、魔王たちのギルドからは魔王が参加することがすでに決定していたのだ。


「参加せずとも燃えてくるのが武人というものであろう」


「そうかいな。うちにはイマイチわからん世界やわ」


「心配せずともエルマやシアにもそのうちわかるだろう」


「……」


「…………」


 微妙な空気が辺りを漂った。二人とも、体育会系はあまり好きではないようである。特にシアの方は『サクラみたいなおバカさんにはなりたくないわ』と延々とつぶやいていた。


「さてと、そろそろ朝ご飯の時間だな。シェリカ、朝ご飯にするぞ!」


「わかったわ、準備するから待ってて!」


 シェリカは訓練用の剣を庭にある倉庫にしまうと、台所に向かって走っていった。一方サクラは手ぬぐいを肩にかけて、魔王たちの方に歩いていく。


「朝から熱心だな」


「まあそうだ。……私はいつか魔王に追いつきたいからな」


「そうか、なら励むことだな」


「くっ、いつか魔王に負けたと言わせてやるんだからな!」


 サクラは手ぬぐいをエルマに預けると、どしどしと音を立てながら屋敷の中へと入っていった。エルマと魔王はそれを呆然とした顔で見送る。だが、シアだけはにやりと笑った。


「くすくす……。サクラは不器用なのね……」


「どこが不器用なのだ?」


「うちも気になるで」


「ふふふ……。二人とも鈍いのね。なら私が教えて上げる……」


 シアは手招きして二人を近くに寄せると、手を筒のようにして口につけた。二人は腰を屈めて耳をシアの方に向ける。だがその時、三人の会話を邪魔するかのようにシェリカの声が聞こえた。


「三人ともご飯にするわよ! 早く来なさい!」


「ご飯だわ。また気が向いたらしゃべってあげる」


 シアは二人から離れるとさっさと歩いて行ってしまった。エルマと魔王は互いに顔を見合わせる。その時、エルマのお腹が鳴った。


「あはは……うちらも飯にしようか」


「そうだな」


 こうして魔王とエルマも朝食へと向かったのであった。


★★★★★★★★


 シェリカの屋敷の食堂で五人は朝食を食べていた。白いテーブルクロスのかけられた長いテーブルにつき、それぞれ並べられた料理に思い思いに手を出している。


 だがそこで、シェリカはミルクを飲み干すと、不意に手を止めた。そして他の四人を見回して言う。


「今日はこれから大会の受付に出かけるわよ。夕方までだから早めに済ませなきゃ」


「そうね、それに浮上式も見たいわ」


「浮上式?」


 サクラがどこか抜けたような声を出した。同様に、魔王もまたきょとんとした顔をしている。迷宮都市に来てまだ半年ほどのサクラと魔王には『浮上式』とは何のことかよくわからなかったのだ。


「ああ、浮上式っていうのはな……」


「待ってエルマ。ここで答えを言ったら楽しみがないじゃない」


「そらそうや。そういうことだから二人とも、見るまでのお楽しみや」


 エルマの言葉にシェリカたち三人はにこにこと互いに笑いあった。サクラと魔王は何があるのだろうと想像して頭を捻る。


 その後、食事を終えた魔王たちは後片付けを済ませて、武道大会の会場へと出かけた。会場はシェリカの屋敷から北東に十分ほど歩いた位置にある闘技場である。五人はいつになく込み合う人の波を掻き分けて、無事にその前に到着した。


「なかなか大きいな」


 闘技場は巨大な円形建築であった。茶色の石で積み上げられた、見上げると首が痛くなりそうな壁が魔王たちの視界一杯に広がっている。魔王は初めて見るその大きさに少々驚いたようだった。


「驚いてるみたいね。でもまだ早いわよ。ほら、そろそろ浮上式が始まるわ」


 シェリカが込み合う人々の先を指差した。その指の先には黒服を着た男が、拡声用の魔法具らしきものを手にして立っていた。


「あ~、え~ただいまより第二十三回最強ギルド決定戦の浮上式を行います! それでは皆さんご覧下さい!」


 黒服の男は高らかに宣言すると、右手を勢いよく闘技場の方へと向けた。すると、何かが軋むような音が響き渡って地面が揺れ始めた。


「じっ、地震だ! 机の下に隠れなくては!」


「おバカ。あれを良く見て」


 シアに冷ややかな口調で言われたサクラは、シアの指差した方向を見た。すると、そこには驚くべき光景が広がっていた。


「うっ、浮いてるのか!!」


 揺れで発生した膨大な砂埃の向こうに見える闘技場の影。それは何故か地面とつながっていないように見えた。しかも、それはだんだんと上昇しているようにも見えた……。



 え~と、この間募集しましたキャラなのですが、白銀さまの戦闘狂とkyojuさまの忍を採用いたしました!


 あとは、キャラの性格としまして原翔さまの偽勇者も採用させていただきました。


 皆さまのご協力にただただ感謝です!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ