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迷宮の魔王さま  作者: 井戸端 康成
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第二十三話 魔王の本気

 遅くなりました!

ごめんなさい!

第二十三話 魔王の本気


「くぎゃああ!」


 完全復活し、けたたまし雄叫びを上げる岩龍。魔王はその前に悠然と立ち塞がり、刃のような目つきでその姿を見据える。


「行くぞ! みんな下がっていろ!」


「わかったわ! ほら、みんな下がるわよ!」


 三人は岩陰から素早く飛び出して、さらに後ろの大岩に隠れた。魔王はそれを後ろ目で確認すると、杖を身体の前に構えた。緊迫した空気がにわかに張り詰め、刹那の沈黙が訪れる。


「ふぬっ!」


 魔王の姿が突風とともに消えた。彼のいた場所には窪んだ地面だけが残されている。だが次の瞬間、岩龍の顔の前に魔王はその姿を現した。


「ダークアロー!」


「きしゃあああ!」


 魔王の杖から周囲の闇よりなおも暗い闇の矢が飛び出した。無数の矢は岩龍の顔を穿ち、岩龍は悲鳴を轟かせる。洞窟が震え、岩がぽろぽろと落ちた。


 だが魔王は岩龍の悲鳴になど頓着しなかった。彼は魔法の反動で洞窟の中を高く高く舞い上がっていく。そして、洞窟の天井近くに差し掛かると天井を強烈に蹴った。天井が大きく窪み、魔王が砲弾のような速度で飛び出す。その速さたるや、音にも迫ろうかというほどだ。


「ぐうお……」


 魔王の蹴りが岩龍の首元に炸裂した。岩龍の巨体が揺らぎ、崩れる。ぐらぐらと洞窟が揺れ、天井から岩がいくつも崩れ落ちてきた。さらに魔王は岩龍に次々と技を繰り出し、再び立ち上がる隙を与えない。だが、その攻撃のせいでいよいよ洞窟内は危ない状況になってきた。天井から細かい石が降り注ぎ、ときどき大人より大きな石が落下する。


 魔王はそれでも別に良かった。岩が当たるぐらい大したことではない。だが、この洞窟には魔王と岩龍以外にもあと四人いた。シェリカたちだ。


「うわああ! こりゃあかん、避難するで!」


「避難するってどこへよ!」


「えっと……」


「あそこの門を越えたところならたぶん安全」


 シアが洞窟の入口の門を指差した。確かに、門の向こうでは岩は降っていない。エルマとシェリカはともに頷き、サクラに肩を貸して避難を開始した。その間、魔王は攻撃を一時中断して、四人の様子を見守った。幸いにも岩龍は気を失いかけていた。


 しばらくして、鳴り響く金属音。入口の門が閉められた。魔王はそれを確認すると、岩龍に不適に笑いかける。そのとき岩龍は、半気絶状態から脱しつつあった。


「戦闘再開だ」


「ぐあおお!!」


 戦う者の心は通じ合うのだろうか。魔王の言葉に岩龍は咆哮を持って答えた。そして、その口に膨大な魔力を蓄え始める。


「ブレスか……しかもかなり魔力を込めているようだ。……かわせぬな、守護陣一式!」


 魔王は杖で手早く地面に魔法陣を描き、魔力を込めた。オレンジ色の光の壁が魔王を包み込む。ちょうどその時、岩龍の方も魔力を蓄え終えた。口から青い魔力の炎が放たれる。空気を焦がし、岩を溶かし、炎は魔王へと迫っていく。しかし、魔王の方に一切の動揺はなかった。眉一つ動かさぬまま魔法陣ごと炎に包まれていく。


 洞窟内が火の海になったところでブレスは収まった。岩龍は満足したのか目を細める。だがここで、彼にとって想定外のことが起きた。何かが火の海から跳んだのだ。その出来事に岩龍は開けていた口を閉じることもできない。


「油断したな……。ハイプロージョン!」


 無防備な岩龍の口から閃光がほとばしった。洞窟の中が一瞬、白くなるほどの光だ。しかもそこはオリハルチウムの外殻に守られていない岩龍の最大の弱点であった。それゆえに、岩龍の頭は内側から粉々に吹き飛ばされてしまう。


「よし、後は……」


 魔王は呪術核を探し始めた。目を閉じて微弱な魔力の流れを探っていく。精神が無に達して、極限まで感覚が鋭敏となる。その結果、魔王はすぐにそれらしき魔力の塊を見つけた。


「これか……うむ、間違いない」


 それは肉に埋もれて血で濡れていたが白い骨に紅く刻まれた文字、間違いなく呪術核であった。魔王はそれを肉の塊から引っ張り出すと、手で握り潰す。乾いた音がして、骨は粉と化した。


「ほう、これは……」


 岩龍の身体が光となっていった。巨大な骸が淡い燐光となり、空中へと消えていく。光の花が咲き乱れたようになって、あたりは一面彩色の海に飲まれていった。


「良くやったわね魔王……」


「うぬ? この気配は混沌神か」


 景色に見惚れていた魔王の頭の中に声が聞こえた。合唱のようないくつもの声が混じったような声である。魔王はその声の正体がすぐに混沌神だとわかった。


「何のようだ?」


「そう怖い声をださないでよ。あなたと仲間に贈り物があるの」


「贈り物?」


「そうよ、だから他の女の子たちも連れてきて」


「わかった、連れてこよう」


 魔王は疑わしげな顔をしながらも、鉄の門をこじ開け避難していたシェリカたちの元へ移動した。すると、魔王の姿を見つけたシェリカたちが駆け寄っていく。


「魔王! あんた大丈夫なの!?」


「大丈夫だ。どこも怪我はしておらん」


「本当に大丈夫なんか!? 無理したらあかんで!」


「大丈夫だ。心配しなくてよい」


 元気そうな魔王の言葉に四人はほっと一息ついた。四人とも、門の向こうの魔王が心配で仕方なかったのだ。険しい雰囲気がにわかに緩み、穏やかになる。


「今度こそ大丈夫なようね。さあ、帰りましょう」


「ちょっと待て」


 シェリカがクリスタルの方向に向かって歩き始めた。だがそれを魔王が呼び止める。シェリカは妙な顔をして後ろを振り向いた。


「まだ何かあるの? もしかして……また復活したとか……」


「それは大丈夫だ。ただ混沌神がシェリカたちを呼んでいてな。ついてきてくれ」


 ここでシアの顔つきが変わった。目を大きく見開き、驚いたような顔となる。その目はどこか恐怖を感じているようであった。


「あの混沌神さまが……。何があるというの?」


「シア、どうしたのだ」


「いいえ、何でもないわ。行きましょう」


 シアはそう言うと、真っ先に門をくぐって行った。その足はどこか焦っているようである。魔王たちはシアが何を怖がっているのかわからなかったが、どこかおそるおそる門をくぐって行った。



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