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迷宮の魔王さま  作者: 井戸端 康成
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第十九話 開戦、巨大龍

第十九話 開戦、巨大龍


 厳かな雰囲気の朝の神殿。その中央にある祈祷の間に、魔王たちは来ていた。朝日で大理石が白く輝き、中央にそびえる女神像が見下ろすそこは神聖な空気に満ちていた。


 その雰囲気に、魔王は仏頂面をしていた。そして、隣のシェリカを恨めしそうに見る。


「もう帰っても良いか?」


「まだお祈りしてないじゃない。大きな戦いの前に加護神様にお祈りするのはシーカーの常識よ」


「ううむ……」


 シェリカは魔王の言葉にそっけなく答えると、女神像にお祈りを始めた。他の三人もそれに続く。この女神像というのは特定の神を表したものではなく、様々な神を象徴的に表している。そのため、四人が一緒にお祈りできるのだ。


 他のメンバーが全員お祈りを始めたので、仕方なく魔王も混沌神に祈りだした。固く目を閉じ、胸の前で手を組む。そしてしばらくの間、心を無にした。


「終わり。これで良いわ」


 シアはそういうと身体を伸ばした。そして入口に向かって歩いて行く。魔王たちもシアに従って祈祷の間から出ていこうとした。すると、入口で黒づくめの集団とすれ違った。


「あら、シェリカじゃない。リーダーが言ってたんだけど最近ギルドを設立したんだって?」


 集団の先頭に立っていた女が馴れ馴れしくシェリカに話しかけてきた。二十代くらいの金髪で、妖艶な雰囲気のある女だ。その女は晴れているのに、何故か長い傘を手にしていた。


 シェリカは彼女に話しかけられると露骨に顔をしかめた。そして、冷たく女をあしらおうとする。


「そうよ。それがどうかした?」


「いや、リーダーの誘いを断ってギルド作るなんて、やるなーと思って聞いただけ」


「そう、ならもう行くわよ。私たちこれから忙しいんだから」


 シェリカは感情を殺した声でそういうと、四人を連れて歩き去ろうとした。魔王たちも何だか良くわからないが、シェリカの機嫌が悪いようなので素直についていくことにする。


「いけ好かない女だったな。誰なんだあいつは?」


 神殿を出て迷宮へと向かう途中。シェリカの隣に移動したサクラが尋ねた。するとシェリカはムスッと膨れた顔をして答える。


「銀の杯のアイリスよ。あいつとは銀の杯に入るか入らないかでずいぶん揉めたの」


「そうだったのか。だがそのアイリスという名前、どこかで聞き覚えがあるな」


 サクラは首を捻り、顎に手を当てた。すると、話を聞いていたエルマがその疑問に答える。


「アイリスと言えばいつも武道大会で活躍してる女やろ。ほら、傘で戦うあれ」


「ああ、だから聞き覚えがあったのか」


「そういうことやね」


 違和感のとれたサクラはポンと手をつき、豪快に笑った。それに応えてエルマもにっこりと微笑む。和やかな空気が辺りに満ちた。だが、ここで魔王が一つ疑問を感じた。


「……話に割り込んですまぬが傘でどうやって戦うのだ。傘は武器ではないと思うのだが」


「それがいろいろ上手いこと使うんや。叩いたり、突いたり、柄に仕込んである魔砲を撃ったり。そうそう、去年なんて……」


 エルマは身振り手振りも交えて魔王にアイリスの戦い方を語った。魔王はその熱心な様子に、興味深そうに耳を傾ける。だがここで、シアが話を遮った。


「着いたわ。だから気持ちを切り替える」


 シアが見慣れたモニュメントのような迷宮の入口を指差した。しかしエルマは気恥ずかしそうにシアを見て言った。


「今良いところなんや。もうちょっとだけ」


「ダメ」


 シアはきっぱりと何のためらいもなく断言した。妥協するつもりは一切ないようだった。


「もう、けちやな。でもその通りか。よっしゃ、燃えてきたで!」


 エルマの目に炎が燃えた。彼女はそのまま勢いに任せてみんなに円陣を組ませる。そして、高らかに宣言した。


「岩龍を倒すぞー!」


 沈黙が訪れた。ここは人々の集まる広場の真ん中。四人は恥ずかしくて口をもぐもぐとさせるのが精一杯だった。


 だが、ノリと笑いにうるさいエルマがそんな四人を許すはずがなかった。


「みんなノリ悪いなあ。ほらおーとかなんか言うてみ!」


「お、おー!!」


 エルマの勢いに押された四人は、まごつきながらも掛け声をかけた。威勢の良い声が広場に響き、高い空に吸い込まれていく。


 こうして五人は岩龍と戦う前に、わずかながら団結感を感じたのであった。


★★★★★★★★


 迷宮第五十階層。そこには異様な緊迫感が充満していた。クリスタルで転移した途端に襲ってきた刺すような気配に、五人の緊張が張り詰める。


 五人が忍び足で探索を始めると、すぐ目の前に圧倒的な存在感を放つ門があった。高さは人の背丈の五倍ほど、横幅はその高さの三分の二ほどの鋼鉄製の門だ。赤錆の浮いているその門の向こうからは、酔いそうなほどの魔力が漏れてきていた。


「この門の向こうに間違いなく岩龍がいるわね。みんな、準備はいい?」


「もちろん!」


 四人の声が寸分違わず重なった。シェリカは頷くと、ゆっくり門を押す。すると門はシェリカたちの訪れを待っていたかのように何の抵抗もなく開いた。そしてついに岩龍が姿を現す。


 大地を思わせるごつごつとした身体に、光る牙。目は刃のように冷徹に獲物を射抜く。その山のような身体は、息をするたびに迷宮を僅かに震わせていた。


「ぐぎゃああああ!!」


 小癪な侵入者にたいして、岩龍の悍ましい雄叫びが大気を切り裂き洞窟を壊さんばかりに轟き渡った。これは岩龍からの宣戦布告の合図であったのだった……。



 いつのまにかこの小説が千ポイントを超えていました! 読者のみなさんありがとう!



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