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迷宮の魔王さま  作者: 井戸端 康成
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第十八話 初陣

第十八話 初陣


 ギルド『深層へ至る者』結成から二日が経過した。その日、雫が石に滴り落ち澄んだ音を奏でる迷宮第四十五階層を、五人のシーカーが探索していた。前を歩く赤髪の剣士に藍色の着物を纏った侍、後方を歩く大きな帽子を頭に載せた神官に地図とペンを手にしたマップメーカー。そして、そのさらに後ろを貴族風の男が続いていく。間違いなく魔王たちであった。


 彼らは今日、五人で始めての探索に臨んでいた。うまく戦えるのか、連携できるのか。岩龍に備えた訓練のつもりとはいえ、少なからぬ不安が彼らを付き纏っていた。


「いきなり四十五階層なんて大丈夫かしら……」


 最前列を歩くシェリカが不安げな顔をした。五人で始めての探索、しかも四十五階層は彼女にとっては未知の階層である。彼女は他の誰よりも不安でいっぱいであった。


「大丈夫だ、私やみんながいるじゃないか」


 サクラがシェリカの独り言を聞き付けて、任せておけと言わんばかりに胸を張った。シェリカはそれを見て、ほっと息をつく。


「それもそうね。心配することなかったわ」


 シェリカが顔を上げた。わずかながら不安が軽減されたようだった。するとその時、最後尾の魔王が足を止めた。そして辺りをゆっくりと見回す。


「ふむ、何か来たようだ」


 魔王がつぶやくと、それ続くかのように足元がじりじりと揺れた。ほかの四人も足を止めてそれぞれの武器を構える。張り詰めた空気が辺りを支配した。


「オークか! 大きいな!」


「援護はするで! 暴れてきいや!」


「回復は任せて。さ、気持ち悪いから早く倒してきて」


 天井につかえそうなほどの身体を持ったオークが、前の曲がり角から現れた。丸々と肥え太ったオークは鼻を鳴らし、ゴミのような臭いがする息を吐き出す。


 五人はその臭いに思わず吐き気を感じつつも、攻撃を始めた。


「せやあっ!」


 サクラの刀がにわかに光り、一閃。気を纏った刃がオークの腹を裂き、血があふれ出る。身を裂かれる痛みにオークは雄叫びを上げ、手にもつこん棒を振り回した。近づく人など軽く吹き飛ばしてしまいそうなその暴れっぷりにサクラもシェリカも後ろに下がる。


「近づけないわ! エルマ、頼むわよ!」


「よっしゃ、任せとき!」


 エルマは腰からサッと黒く輝く物体を引き抜いた。L字型をして、先端に穴が空いているその物体は魔銃と呼ばれる武器である。鉛弾の代わりに魔力を打ち出す銃だ。


 エルマはそれを二丁構えると、安全装置を解除して次々と引き金を引いた。白い光が線を引き、瞬く間にオークに殺到していく。


「ぐおお! ぎゃおお!」


「ちっ、あかん! こいつデブやから銃があんま効かへんみたいや!」


 エルマはブヨブヨとした腹に弾かれる光を見て舌打ちした。見た目は派手で使い勝手もよい魔銃だが、その威力はあまり高くはない。特に、今回のオークのような柔らかい敵には滅法弱いのだ。


 結局エルマの攻撃はオークを怒らせただけであった。前にも増して暴れ出したオークに、エルマはすぐ後ろの魔王を見る。だが、魔王は首を横に振った。


「ダメだ。余が手を出しては訓練にならぬ」


 魔王は毅然とした態度で断言した。今回の探索は、ギルドでの連携を高めるためである。それに強すぎる魔王が手を加えたら成果が上がらないのだ。


「そうかいな。それならやれるだけやってみるで!」


 エルマは魔銃を一丁しまい、もう片方を両手で構えた。そして神経を研ぎ澄まし、オークの顔のあたりに狙いをつける。


「バーストショットォ!」


 気迫の篭った叫びが響き、エルマの銃からまばゆい閃光が放たれた。閃光はオークの右目に直撃。それをえぐり取る。血が噴き出し、オークの身体が朱に染まりゆく。


「うぎゃあああ!」


 鼓膜を破壊するような堪え難い絶叫が轟いた。オークはこん棒を放りなげ、頭を抑えてのたうちまわる。


 こん棒を手放したのはオークにとって致命的であった。サクラとシェリカがオークの懐に飛び込み、その身体を血に染めていく。オークは慌ててこん棒を手に取ろうとしたが時すでに遅し。肉を裂かれ、ずぶ濡れになるほど血を流した身体にはこん棒を振り回すような力は残っていなかった。


「ぐぅ……」


 オークは弱々しい断末魔のみを残し、息絶えた。その死体はあっという間に光の粒となり闇に溶けていく。後にはメロンほどの大きさの魔力珠だけが残された。


「ふふ……大きいわ。お金になりそう」


 怪我人がでなかったので暇をしていたシアが、すぐに魔力珠を抱えた。そして愛おしいかのようにほお擦りをする。その頭の中はお金のことでいっぱいだった。


「こらっ、あんたなに勝手に持ってるのよ! それはみんなで山分けよ!」


「あっ……」


 シェリカはシアに近づくと、その手から魔力珠を取り上げた。そして、腰のポーチに押し込む。シアは赤くなって頬を膨らませたが、シェリカはまったく相手にしなかった。


「まったく油断もすきもないんだから。……それよりサクラ、オークってみんなあんなに強いの? あたしあれが続いたら結構きついんだけど」


「えっ? ……そうだな、少なくとも私が知る限りではあれだけ強いのは始めてだ。普通なら最初の一撃で真っ二つになっている」


 サクラはしばらく考えた後、シェリカの質問に答えた。サクラとしても、オークの強さは予想外であった。


「なら良いけど……」


 シェリカはサクラの答えにそう心配そうに言うと、また迷宮の中を歩き始めた。他の四人もすぐに後に続いて探索を再開する。


 その後五人はオークに何度か襲われたものの、シェリカの心配したようなことにはならなかった。そして五人は四十九階層まで潜り、いよいよ次回の探索で岩龍と戦うことになったのである。



 話の構成上仕方ないとはいえ、魔王の出番が……。今後はもっと増えるように努力します。



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