第十七話 結成、新ギルド
今回でようやく一区切りです。
第十七話 結成新ギルド
陽射しに照らされ、魔王はエルマとともに通りを東に歩いていた。二人は人波を掻き分け、どんどんと歩いて行く。すると魔王とエルマの目に、軒先にたくさんの服を吊り下げた店が飛び込んできた。さらに、その前に立っている三人の女の子も見える。
「遅い! 何やってたのよ。私たちもう買い物ぜーんぶ終わらせて、ここで待ってたのよ!」
魔王が三人に近づいていくと、シェリカが口を尖らせた。他の二人も時計に目をやり、呆れたような顔をしている。
「すまなかったな。いろいろとやっているうちに時間を忘れてしまったのだ」
「もう、今度からは気をつけなさいよ。それより、その女の子は誰?」
シェリカは魔王にひとしきり怒った後で、エルマに目を向けた。その容赦ない視線に、エルマはたじろぎ後ろに一歩下がる。そこで魔王がエルマの前に出てエルマの紹介をした。
「この者はエルマという者だ。余が仲間候補として連れてきた」
「あら、そうなの。どっかで引っかけてきたのかと思ったじゃない」
シェリカはエルマの前に移動した。それに他の二人も続く。そして、三人はエルマに次々と質問を投げかけていった。
エルマはその質問にそつなく答えていった。三人は徐々にに値踏みするような目から、納得したような目になる。
「いいんじゃないか、なかなか優秀そうだぞ」
サクラが真新しい藍色の着物を揺らして、関心したように息をついた。シェリカもその意見に頷く。だがシアは少し懐疑的な表情をした。
「シア、なんでそんな顔するのよ。何か気にいらないの?」
「別にそういう訳じゃないわ。ただ……この娘からはサクラと同じ貧乏神の気配がする」
シアはひよこの財布を取り出してギュッと抱きしめた。その様子に、サクラとエルマは目を丸くする。
「むむっ、今のはさすがに我慢ならんぞ!」
「サクラはん、協力するで! 二人であの悪徳神官を倒すんや!」
サクラとエルマは顔を真っ赤にしてアイコンタクトをした。シアはすばやくその場から逃げ出していく。
シアとサクラたちの追いかけっこが始まった。追いかけるサクラとエルマに逃げるシア。三人は混み合う人々の間をすり抜け、通りを縦横無尽に駆けていく。
やがて周囲に迷惑をかける三人を止めるため、シェリカと魔王もそれに加わった。それにより追いかけっこは一層激化して、日が傾くまで続いた。
こうしているうちに、いつのまにかエルマはすっかり四人に溶け込んでいたのであった。
★★★★★★★★
そろそろ風が冷えてくる黄昏れ時。五人はシェリカの家の食堂に集まって会議をしていた。新たに結成するギルドのことについて話し合うためだ。ちなみに、恒例のカード交換イベントは終わっている。
「新しいギルドの名前について決めたいんだけど、何か意見のある人!」
シェリカがペンを片手にみんなに意見を聞いた。その手元には、『ギルド結成申請書』と書かれた紙が置かれている。
「ふふ、このサクラがこんなこともあろうかとすでに名前を考えておいたぞ。その名もファイナルギャラクティカナイトだああぁ!」
サクラが唇を吊り上げ、押し殺したように不適に笑った。そして無駄に自信たっぷりに、自分のアイデアを言い放つ。そのネーミングセンスのなさにみんなの顔が固まり、場が凍りついた。食堂の中をひんやりした空気が通り抜けていった。
「馬鹿は放置。私はシア様親衛隊が良いと思う」
しばらくしてシアがサクラの提案を一蹴した。そして、自分の意見を述べる。その自己中心的過ぎる名前にシェリカをはじめとしてみんなはまた頭を抱えた。
「……この二人はダメだわ。あんたたちは何か意見ないの?」
シェリカは希望を込めた眼差しで魔王とエルマを見た。すると、魔王もエルマもそれぞれ考え込み始める。
「うちはそうやなあ……あかん、ネーミングセンスないから無理や」
考えあぐねたエルマは、そう言ってシェリカの方を見た。シェリカは両手を上げて、お手上げというポーズを取る。彼女もまたネーミングには自信がないようだった。
「深層へ至る者、などどうだろう」
魔王がぼそっとつぶやいた。みんなは話すのを止めて、食堂は水を打ったようになった。今までで唯一、まともな名前だった。
「大げさだけど良いかも。みんなはどう?」
シェリカはみんなに確認を取った。シアとサクラがどことなく不満そうではあったが、反対意見はでなかった。
「よーし、名前は『深層へ至る者』に決定!」
シェリカは書類にササッと名前を記入して、次の空欄を見た。そこには『代表者名』と書かれていた。
「次はリーダーを決めなきゃいけないみたいね。みんな、誰が良いと思う?」
シェリカはみんなの顔を見渡して言った。するとみんなは一斉にシェリカの顔を見る。シェリカはその反応に戸惑ってしまった。実はこのメンバーの中では彼女が一番レベルが低いのだ。
「わっ、私! それは無理よ! そりゃさ、こうやってみんなをまとめてるかも知れないけど……レベルが低くてあてにならないんだから。それよりも魔王とかどうなの?」
困惑したシェリカは魔王の方に目を向けた。他の三人もそれにつられて魔王を見る。魔王は少し唸ったが、何も言わなかった。
「レベルが高い方がリーダーに向いているのは事実。魔王はそういった点では問題ないわ」
しばらくしてシアはそうつぶやいた。その一言に、他の二人は唸らされる。二人とも魔王の実力についてはリーダーに相応しいと思っていたのだ。シェリカが乗り気でない以上、魔王が最適かもしれない。そんな考えがにわかに広まった。
「皆が推すのであれば、引き受けよう」
魔王は周囲の雰囲気を察して、リーダーを引き受けることにした。その言葉にみんなは笑顔になり、シェリカは魔王に書類とペンを手渡す。魔王は渡された書類につらつらと長い長い本名を記入していった。
「最後にそれぞれの血判を押さねばならぬようだな。誰かナイフを持っておるか?」
「ナイフなら私が持ってるわ、はい」
魔王が書類の下のスペースを見て言った。シェリカがすかさずナイフを魔王に手渡す。すると魔王は親指を切り、紙に押し当てた。紅の指紋がはっきりと紙に残る。それを確認したところで、魔王は隣のエルマにナイフと紙を手渡した。
エルマは切りすぎたのか、痛みに顔をしかめつつも血判を押した。その後、残りのメンバーは粛々と血判を押していく。そしてついに、最後であるシェリカに順番が回ってきた。
「いよいよ最後ね。みんな、本当に後悔とかない? 今ならまだやめれるわよ」
シェリカは最後の確認をした。みんなは黙っている。それは明らかにシェリカが血判を押すことを肯定していた。
「っつう……これでよし!」
シェリカは血を指からにじませ、力いっぱい紙に押し付けた。そして、ゆっくりと指を紙から離していく。紙には五つの血判が赤々と残されていた。
今ここに、新たなギルドが結成されたのであった。
ネーミングが……作者もサクラほどではないですが残念です……。センスのある方を本当に尊敬してます。