第十三話 侍とギルド
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第十三話 侍とギルド
夕闇迫るスラム街。ヒヤリと風が吹き抜けるその真っ只中に、魔王たち三人はいた。三人とも、前方にいるサクラと大男の様子に視線が釘付けだ。
「ゆっ許してくれよ……なっ頼む!」
自慢の剣を斬られた大男は、地面に頭を擦りつけていた。その大きな身体が卑屈に小さくなっているのは、いかにも哀愁が漂っている。
大男の情けない姿にサクラは何も言わずに竹光をしまった。その目は呆れたようだった。助かった大男はサクラにヘイコラ頭を下げて走り去っていく。
「まったく。困った奴らだ」
サクラは肩をすくめてため息をつくと、宿の中へと戻っていこうとする。そこでシアがサクラの肩を叩き、声をかけた。
「サクラ」
「おおっ!? これは神官殿。……すまないが金の都合はまだ……」
サクラはシアに気がつくと頭を下げた。そして、両手で拝むようにして、上目遣いでシアを見る。二人はどうやら知り合いのようだった。しかもサクラはシアに頭が上がらないらしい。
「今日は別に金の催促に来たんじゃないわ。ほら、二人ともこっちに来て」
シアはサクラに顔を上げさせると、魔王たちを呼んだ。サクラは近づいてきた魔王たちをきょとんとした表情で迎える。
「この方たちは?」
「私のシーカー仲間よ。今一緒にギルドを立ち上げようとしているの。こっちがシェリカで、こっちが魔王。仲良くして」
シアは二人の紹介を簡単にした。それにサクラは納得すると、乱れていた着物を整えて自身も自己紹介をする。
「そうか。私はサクラ、東方から来た侍だ。修行の旅であちこちを巡っていて今はこの街でシーカーをしている……と言いたいところだが、荷物を置き引きされてしまってな。見ての通りだ」
サクラはそういうと顔を俯けてしまった。嫌なことを思い出してしまったようだ。場が何となく気まずい雰囲気となり、四人は沈黙した。しばらくして、沈黙に耐え兼ねたシェリカが場の空気を変えるべく話を切り出す。
「……えーと、サクラさんだっけ。今、シアも言ったと思うけど私たち仲間を探しているの。あなた強そうだし、仲間になってくれないかしら」
シェリカの言葉にサクラは押し黙った。提案を受けるべきかどうか考えているようだ。そこへ、魔王も追い撃ちをかける。
「余は別に仲間になれとは言わぬ。だが、そなたほどの者がここで埋もれておるのをもったいないとは思うがな」
魔王の言葉が重々しい響きをもってサクラの心に染み入った。すると、サクラの目が変わった。自信を失っていた瞳が光を取り戻す。
「わかった。このサクラ、武士道に誓ってそなたらの仲間となろう」
サクラはそう仰々しく宣言したあと、はにかんだような笑顔を見せた。三人もそれに微笑みで応える。
こうして、また新たな仲間が増えたのであった。
★★★★★★★★
迷宮都市の北地区。貴族街と呼ばれるこの地区の端にシェリカの家はある。シアもサクラも今日からここに泊まることになった。しかし……
「ひどい……詐欺なの。貴族街の家なんて言うから期待してたのに……。とってもか弱い私にこんな劣悪な環境で暮らせというのね」
「すっ、すばらしい家だな! えっと……とにかくすばらしい家だ!」
ボロボロの屋敷の様子に、嘘泣きをしてごねるシアに強張った顔で必死に褒めるところを探すサクラ。その様子に、シェリカは額に指を当てて呆れた。
「はあ、騒いでも家は立派にはならないわよ。ほら、さっさと入るわよ。いい加減あきらめなさい」
「むう……儲かったら手入れさせてもらうわ」
きっぱりとした態度で言い切ったシェリカに、シアも膨れながらもあきらめた。サクラも引き気味になりながら家の門をくぐり抜ける。
その後、シアが恨み言を言ったり騒いだりした。だが、それ以外はおおむね無事に四人は朝を迎えたのであった。
「あと一人必要ね。誰かいないかなあ」
翌朝の食堂。朝食をとっていた三人に、シェリカがパンを片手につぶやいた。それにシアとサクラが頷いて応える。すると、魔王がシェリカに尋ねた。
「何があと一人必要なのだ?」
「何がってそれは……あんただったわね」
シェリカは魔王が並外れた世間知らずなことを思い出した。最近、少しはマシになっていたので忘れかけていたのだ。
「えーとね、ギルドの設立には五人が必要なのよ。だからあと一人なの」
「ふむ、そうか。だがそのギルドというのは設立すると何か良いことでもあるのか」
「もちろん。専用の施設を使えるようになったりとか、武道大会に出場できるようになったりとか。それに、強いギルドを設立するのはシーカーのロマンなの!」
シェリカは強い語気で言い切った。魔王はその言葉にふむふむと頷く。するとシアが自らのクランカードを取り出して言った。
「ギルドを設立するのは良いわ。けれど、まだ私たち互いのカードを交換してないわね。あと一人、集める前に交換しておきましょう」
「確かにそれもそうだ。交換しようじゃないか」
サクラとシアは互いのカードを交換した。そして、シェリカと魔王の方を見る。するとシェリカの顔がたちまち険しくなった。
「良いけど……何を見ても騒がないでよ」
「何を言うのだ。別に私は騒ぎやしないぞ」
「何が書いてあるのかしら……面白そう」
眼光鋭いシェリカに、二人は軽い態度のままだった。シェリカは少々不安になったが、魔王と共にカードを交換する。
「冗談が好きなのね……」
魔王のカードを受け取ったシアが固まった。青い顔をして唇を震わせている。サクラは何が書いてあったのかと覗き込んだ。
「私にも見せてくれ……ひょえ!」
サクラもまた奇声を上げて固まった。こうして、シェリカの家の食堂が大変なこととなったのだった。