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迷宮の魔王さま  作者: 井戸端 康成
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第十一話 仲間募集中!

第十一話 仲間募集中!


 朝日に染まる迷宮都市。その北部に佇むシェリカの家の食堂で、魔王とシェリカは朝食を取りながら話し合っていた。


「魔王、今日からしばらく探索は休んでパーティーメンバーを募集しましょ。いくらあんたが強くても二人じゃ岩龍を倒せないわ」


「たしかに相手の力がわからない以上、備えは必要かもしれん」


 パンをミルクで流し込むと、シェリカはそう言った。その言葉に魔王は腕を組み、考え込んだ後で答えた。彼はよもや自分が負けるとは思っていなかったが、万が一が起きるのが戦いだ。なのでとりあえずシェリカの提案に従っておこうと思った。魔王は意外にも慎重な性格をしているのだ。


 魔王の返事を聞いたシェリカは、何かチラシのような紙をテーブルの下から取り出した。そしてそれを魔王に手渡す。受け取った魔王はそのチラシらしき物にサッと目を走らせた。


「パーティーメンバー募集中……か。具体的なことが書いてないが良いのか?」


 魔王はシェリカに不安そうな目を向けた。シェリカが渡した紙には『パーティーメンバー募集中! 詳しいことは一番通り八番地のシェリカ宅まで』としか書かれていなかったのだ。


「詳しいことを書こうにも、紙に書くような実績がないじゃない」


 シェリカはそう言ってふうっとため息をついた。魔王はたしかにそうだと言葉に詰まる。その魔王の様子にシェリカはニヤっと笑った。


「ま、そんなこと気にしないでいいわよ。チラシに頼れない分は私達が直接勧誘すれば良いんだから」


「たしかにそうだ」


 魔王は目を細め、微笑んだ。それにシェリカも頷く。そうして二人は話し合いを終えると、朝食を片付け、出かけていったのだった。


★★★★★★★★


 シーカーたちで今日も混み合うシーカークラン。その片隅にある掲示板に、シェリカと魔王はチラシを貼っていた。魔王がチラシを抑え、シェリカがその四隅をピンで固定していく。


「これでよし! さあ、勧誘しに行くわよ!」


 ピンでチラシを固定したシェリカはそう宣言した。威勢の良い声が辺りの喧騒にも負けずに響く。


 すると、それを聞き付けたのかシーカーの集団が近づいてきた。その集団の先頭には細雪のような白髪の女が立っている。その女の翡翠色の怪しい瞳の輝きと、気味の悪い笑みは間違いなくユリアスの物であった。


「おやおやシェリカさん。新しいギルドでも旗揚げなさるおつもりですか?」


「ええそうよ。仲間が必要になってね」


 シェリカはユリアスにぶっきらぼうな態度で答えた。ユリアスはその答えに大袈裟に得心したように息をつく。


「なるほど。そういえば五十階の岩龍が目覚めたとか騒がしいですからねえ。岩龍と戦うための仲間集めというわけですか。でもどうです、私達の仲間になってみませんか? わざわざ戦わなくても先へ進めますよ」


 ユリアスは赤ん坊をあやすような声でシェリカに問い掛けた。しかし、シェリカはその問いに頬を紅潮させた。額に血管が浮かび、苛立ちが見て取れる。


「結構よ、入らないわ。……ほら魔王、神殿に行くわよ。まずは神官を勧誘しなきゃ」


 シェリカはユリアスにそう吐き捨てると、魔王を連れて神殿の方に向かった。シェリカはいらついているからかずかずか大股で通路を歩き、神殿の中に入っていく。


 その様子を、ユリアスは気味の悪い微笑みで見送ったのだった。


「ああもう、いらいらする! あいつ絶対何かやってるわよ!」


「ありえなくはないな」


 神殿に入り、ユリアスの姿が見えなくなるとすぐにいらいらをぶちまけるシェリカ。それにたいして魔王は適当な相槌をうつだけだ。石造りの神殿に、シェリカの愚痴がこだました。


「静かに。問題が起きたら私がめんどくさいのよ」


 シェリカと魔王の前にいつかの黒い神官が現れた。彼女はどことなくだるそうに二人のマナーの悪さを注意する。二人は恥ずかしさで顔を赤らめて、すぐに黙った。


「ふふ、それでよろしい」


 神官はにっこり笑って満足そうにそう告げると、神殿の奥へと去っていった。神官がいなくなるとシェリカと魔王は一息ついて、気を取り直す。


「恥ずかしかった……。さてと魔王、神官を勧誘するわよ。私があっちに行くからあんたはあっちで頼むわ」


 シェリカが魔王と反対側を指差していった。魔王はそれに深く頷いて了解する。二人は二手に別れて歩き出し、神官の勧誘を始めた。


「はあ……なかなか難しいわね……あんたの方は?」


 数時間後、シェリカがくたびれたような顔をして戻ってきた。力の抜けたような様子からして、勧誘は上手くはいかなかったようだ。それにたいする魔王もろくな結果ではなく、肩をすくめて首を横に振る。


「はあ……」


 二人の口から同時にため息が漏れた。あきらめにも似た停滞感が二人を覆う。不安だけが今の二人の友達だった。


「あなたたちまだいたのね」


 さっきの神官が二人に声を掛けてきた。声には少しの呆れと、何をしているのかという興味が多分に含まれていた。


「さっきの神官さん? 実は私達……」


 シェリカが神官の質問に自分達の事情の説明を始めた。岩龍が目覚めたこと、自分達がそれと戦うべく仲間を集めていること……シェリカがそういった事柄をある程度神官に話してしまった。


 すると神官は口元を抑え、くすくすと笑いだした。とても神に仕える者とは思えない底知れない笑いだった。


「くすくす……面白そうだわ。その仲間の話は私が受けてあげる」


 シェリカが説明を全て終えたところで、神官はニタニタとしながらそう言った。カラカラと涼やかな神官の声が、人の少ない神殿によく通った。



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