ボケたガールとツッコみボーイ 中編
――放課後。
「デートあるある言います」
「はい。お願いします」
「服選びに3時間」
「初々しい感じがする」
「デートの日に限って雨」
「うわあ。ありそう」
「英語の授業で、Dateって単語を習ったときに、ちょっと恥ずかしくなる」
「あるのかわからないけど、お題が違う」
「自分の時だけ開かない」
「ゲートあるあるかな?」
「自分のオムライスの文字だけ下手」
「メイドあるある?」
「飲み物持ってきたときに歌うのやめる」
「カラオケあるある?」
「黒船でやってくる」
「カイコクシテクダサーイって、全然あるあるじゃないよ」
「ふはっ。それ結構好き」
「誰かがやってたやつだけどね」
「それでも好き」
「ありがとう」
「ごめんね。ノリにくかったよね」
「ノリツッコみだけは未だに慣れないんだよなあ……」
そんなやり取りをしながら帰る帰り道。
いつも通る公園の真ん中あたりで、不意に正面から黒ずくめで人型の何かが襲いかかってきた。
「ていっ!」
それをあっさり蹴飛ばす衣丹。
「人間?」
「いや、異能かな?」
蹴り飛ばした感覚で、人ではないと感じたのだろう。
「なんか変な感じがする」
この公園内が別世界というか、別空間のような感じだ。
「ここだけ切り取られたみたいな感じだねー」
二人で話していると、向こうの方から走ってくる人物がいた。
あれは間違いなく人間だ。
俺は庇うように衣丹より一歩前に出る。
まあ、実際に守ってもらうのは俺の方ではあるが。
「大丈夫ですか? 今、変な奴いましたよね?」
向こうからやって来たのが即人間であると断定したのは、見知った顔だったからだ。
「全然へーきだよー」
衣丹が笑って返す。
「伊枢くんは大丈夫?」
そう。向こうからやってきたのは、クラスメイトでイケメンの伊枢くん。
「僕は何もされてないから」
「本当に? 痛みとかない?」
「なんともないよ?」
伊枢くんの様子を見るに、何かダメージを負ったりはなさそうだ。
「衣丹」
「うん?」
「これって、アレがアレ?」
「たぶんそう。アレがアレ」
「二人は何を言ってるんだ?」
怪訝な表情を浮かべる伊枢くん。
「蹴られても大丈夫なタイプなんだなって思って」
「蹴られるのがご褒美なタイプかも?」
「とんだドМ野郎か」
「何を言ってるのかわかんないけど、僕のこと?」
伊枢くんは、俺らの会話についてこれていない様子。
本当についてこれていないのかはわからないけど。
「感覚共有ではないのかな? 視覚や聴覚のみってこともあるし、遠隔か自動か、決められた行動しかできないって可能性もあるし、別に隠れた異能者がいるって可能性もあるか」
「あとはペリーの可能性もあるかも」
「黒船引きずりすぎ」
「開国顔してるし」
「開国顔て」
「ちょっと待って。さっきから何を言ってるのか全然わかんないんだけど!?」
開国顔(?)の伊枢くんは、明らかにイラついているようだった。
「伊枢くんは何でこんなところに?」
「え? 僕? いや、えっと、変なやつがいたから追いかけてきたんだけど」
「それなら撃退したから大丈夫」
「あ、そうだよね。女の子に蹴り飛ばされるようなヤツだったみたいだしね」
「伊枢くん見てたの? こないだ九井出さんを不審者から守ったって聞いたけど、俺らのことは見てるだけ?」
「いや、違っ」
「ギリギリの状況になるのを待ってたんじゃない? 遅れて来ないとありがたみが伝わらないから」
「本当にそんなんじゃなくて」
「じゃあなんで知ってるの?」
「いやほら、さっき蹴られるのがどうとか言ってたよね?」
「たしかに言ってたかも」
「だからだよ。うん」
「見てたわけじゃないんだね」
「もちろん。向こうから追いかけて走ってきたんだし」
「じゃあ“女の子”に蹴り飛ばされるって言ったのは?」
「え」
伊枢くんが動揺している。
「俺の後ろにいる衣丹が蹴り飛ばしたなんて、ぱっと見、思わなくない?」
「はあ。うるせーなー」
伊枢くんの言葉遣いと態度と表情が変わる。
「分かりやすい豹変」
「たしかに。テンプレ悪役っぽい」
「ママに恥ずい表現」
「たしかにお母さんには見せられない。ってか韻踏んでる?」
「何なんだよマジでそれ」
イラついている伊枢くん。そんな伊枢くんを無視して衣丹は続ける。
「たまにはつい暴言」
「ついって感じではないけどね」
「カラシ不味いよおでん」
「それは個人の味覚の問題だね」
「セイ!」
「え? 俺もやれってこと?」
「セイ!!」
「……私は無理よこれ」
「おー」
「おー、は恥ずいです」
「お前らマジ何なんだよそのつまらない漫才みたいなやつ!」
伊枢くん激おこ。
まあ、こっちでふざけ倒してるから当然か。
「ちがーう!!」
あれ? 衣丹も激おこ?
「つまらない漫才じゃなくて、つまらない夫婦漫才だから!」
「そこに怒ってるのね」
「夫婦漫才でもなんでもいいがうぜえ!」
このままでは埒が明かないと思ったのだろう、伊枢くんは異能と思しき真っ黒な人型の塊を生み出し、こちらに素早い動きで攻撃を仕掛けてきた。
が、あっさりと衣丹が殴り飛ばす。
「なんで訳わからん話しながら、対応できんだよ!」
地団駄を踏む伊枢くん。
「一応これにも意味があるから」
「は?」
「夫婦漫才の理由を言ったげて!」
「そんな武勇伝を言わせるみたいなフリ」
「言ったげて!」
「俺のツッコミって能力強化なんだよね。
これによって衣丹の攻撃力や防御力がアップしてる」
ちなみに敏捷性もアップするが、これだけは何故かノリツッコみでしか上がらない。
苦手でも下手でも、俺がノリツッコみをする理由だ。
素早さは高いほうが強いに決まっているし。
「じゃあまずはお前から倒すべきなんだな。ペラペラと喋りやがってバカが」
伊枢くんはそう言って歯をむき出しにして笑うと、俺の背後に異能の人型を生み出す。
「これでもくらっとけ!」
伊枢くんの異能が攻撃を繰り出すと同時に、いつの間にか動いていた衣丹が、伊枢くんの腹部をぶん殴った。
「あがっ」
伊枢くんは身体をくの字に曲げながら地面に座り込む。
ちなみに、伊枢くんの攻撃を受けたはずの俺は無傷。ダメージ一つ負っていない。
「残念だったね! そいつはハンゾーだ!」
「残像な。たしかにハンゾーが使いそうな技だけど」
攻撃を受けた俺だったものは、俺のブレザーを羽織った丸太に変わっていた。
変わり身の術、というやつである。
それにしてもどこから丸太が出てきたのやら。
「ありがとう衣丹」
「どういたしましてー」
手の内を明かして俺への攻撃を誘発したのは、当然このためだ。
「衣丹」
「なに?」
「コレ、消すよ」
「おっけー」
痛みでうずくまる伊枢くんの元へと近付く。
「いいかげんにしろっ」
そう言いながら伊枢くんの頭をはたいてやった。




