ボケたガールとツッコみボーイ 前編
短編としても短い程度の量ですが、いつか続きを書きたくなった時に繋げやすいよう、3話に分けて連載としました。
――という建前で、人の目に付く機会が増えたらいいなという打算的な理由からです!
本日中に3話とも投稿する予定となっております。
雑に読んでゆるく楽しんでいただければ幸いです。
「ねえ聞いて。私昨日異世界転移してきたんだけどさ」
「電車で一駅のショッピングモールに行ってきたみたいな軽さだな」
「そしたら私、聖女だったみたいで」
「へええ。すごいね」
「十二万三千飛んで四人目の聖女らしくて」
「多いね聖女。日本なら名字が川口ってくらいありふれてそう」
「それは三本線の川とさんずいの河とどっちなんだろ?」
「それはどっちでもいいかな」
「私は皮膚の方の皮で皮口だと思う」
「それは聖女並の超レア」
「で、聖女だったんだけど」
「うん」
「王様追放したった」
「追放した側なの?」
「王様追放〜異世界転移してきた聖女から権力の座を追われた俺、国家運営に行き詰まったからって玉座を用意されてももう遅い〜」
「長い」
「で、なんだかんだあって帰ってきたってわけ」
「展開は早い」
高校までの道すがら、隣にいる丸顔ゆるふわな雰囲気の可愛い女子高生――四季花衣丹と、こんなふざけた会話を毎日のように繰り広げながら歩く。
「じゃ、また後でー」
学年は同じだが、クラスは別なので教室に入るところで衣丹とは別れる。
いつもと変わらない日常、いつもと同じ教室、いつも通りの顔ぶれ。
だけど、全てが同じではない。
当然昨日と今日では違う。
今日の変化は、このクラス内のイケメン、伊枢くんを囲む女子たちだ。
いや、伊枢くんが女子に囲まれているのは、いつも通りではあるんだけどね。
今まで伊枢くんの近くでは見なかった女子――九井出さんが、頬を赤らめて嬉しそうにぺこぺことしている。
「伊枢のやつ、人助けしたらしいぜ。不審者に襲われそうになったところを助けたとか」
「顔が良い上に行動までイケメンとかどうなってんだよって話だよな」
「もしかすると異能者なのかもな?」
「俺もピンチの女の子の前に颯爽と現れてみたいもんだぜ」
「異能でカッコよく不審者をぶっ倒したりしてな」
「きゃーって女の子に抱きつかれたりして」
「羨ましすぎる」
近くの席の男子二人が俺に愚痴る。
「羨ましいよな?」
「いや、こいつには響かねえよ」
「そうだった。こいつには夫婦漫才する嫁がいるんだった」
「こいつも敵だ」
敵認定されました。
「勝手に敵認定するな」
「くそー」
「あんなに可愛い四季花さんがなんでこんなやつに」
うん? こいつらではなくどこからか、敵意と悪意が飛んできた気がする。
気のせいか?
「うだうだ言ってないでそろそろ席に戻ったほうがいいんじゃない?」
「余裕なのが腹立つ」
「くっそー」
席に戻っていった二人はおいといて。
今朝のこのクラスの主役、伊枢くんを見る。
向こうも解散したようで、周りには誰もいなくなっている。
伊枢くんは異能者かもしれないと言われていたが、異能者とは文字通り異能を持つ者である。
この世界の歴史は、異能者によって転換してきたといわれている。
教科書にもそう記述されている。
だが、だがしかしだ。
これは改変された歴史だと、俺の記憶が訴えている。
上書きされた歴史だと、おそらく俺だけが認識している。
ほんの数ヶ月前に世界丸ごと変容したのだと。
誰に言うつもりも、主張するつもりもないが。
俺だけが知っている真実なんて、俺一人が間違った認識を持っているというのと変わらないのだから。
だからといって、世界を元に戻そうなんて、微塵も思わない。
この世界で生きていくだけだ。
――夜。
「コンコンコン。うーばーでーっす!」
「2階のベランダに直接届ける人はいないと思うよ」
「お風呂にする? ご飯にする? それとも、わ・た・し?」
「食べ物お届けならご飯じゃない?」
「わたしも食べれるよ? 性的な意味で」
「そんなに顔赤くするくらいなら言わないほうがいいよ」
「もう照れちゃって可愛いんだから」
「自分の顔を鏡で見たほうがいい」
「かわいい?」
「うん。かわいい」
「………………ぅう」
真っ赤な衣丹。
「今日は見回りの日じゃないと思うんだけど?」
「あー、うん。急遽だけど頼まれて」
「無理はしないでよ」
「それはもちろん!」
「無理して下ネタ言わなくてもいいんだからね?」
「………………別に無理はしてない」
「はいはい」
「あ、そうだ」
「うん?」
「はいこれ、うーばー」
衣丹がポケットから取り出したものを俺に握らせる。
「そうそうこれこれ、やっぱりバナソの単三電池が最高だよなって、俺は電池で動くロボットじゃないからな? それに乾電池一つって、俺はリモコン以下か」
「リモコンよりは好きだよ?」
「リモコンと比較しないでほしい」
「じゃあパパよりも好き」
「それはそれで反応に困る」
「じゃあそろそろ行ってくるね」
「うん。気をつけて」
「いってきまーす」
「あ、待った」
「うん? なあに?」
「次の日曜日デート行かない?」
「えっ!? 行く! 行く行く!」
「どこに行くとか決めてるわけじゃないけど」
「おっけおっけ」
「行き先とか考えとくわ」
「楽しみにしてる!」
「じゃあ気を付けて。いってらっしゃい」
「はーい。いってきまーす!」
そう言って、衣丹はうきうきと駆け出して行った。
――翌日。
「あなたが好きなのは、動物園と水族館、どっち?」
「ショート動画みたいなやつきた」
「どっちも好きだけど、たけのこ派!」
「戦争起きそうな質問に変わってる」
「犬派? 猫派? 僕はもちろん、画面の前の子猫ちゃんさ」
「犬派猫派のオチにありそう」
「レム派? ノンレム派?」
「俺はレム派。やっぱり眼球が高速で動いているのが最高だよね。ってどっち派とかないでしょこれ」
「ちなみに私は宇宙科学館派」
「今になって動物園か水族館かで、それ出してきた? せめて遊園地じゃない?」
「ということでよろしくー」
「うん?」
デートの行く先で宇宙科学館みたいなやつ希望ってことか?
「あー。宇宙科学館ね。調べておきます」
あとで調べておかなきゃ。
「ところで、昨日は急遽お疲れ様」
「ありがとー」
「何かあったりした?」
「ううん。最近は平和だねー」
「昨日うちのクラスの伊枢くんが不審者に襲われてる子を助けた、みたいな話があったけど」
「みたいだねー。ママの話だと異能が使われた痕跡はあるけど、色々と謎みたい」
「そうなんだ?」
「犯人も誰が異能を使ったのか、なんのために異能が使われたのか、謎だらけみたい。
まるで砂浜でハンバーガーを食べていたら、いつの間にか手から消え去っていたみたいな」
「その犯人はたいていトンビじゃないかな」
「そぉんなことないよぉ、しっかりと掴んでいた30個目のバーガーだったよぉ」
「そいつは自分で食べたんだろうね」
「じゃ、また後でー」
「うん。また後で」




