EP 9
炸裂するワスプ薙刀と、黄金のSSRガチャ
「ギャハハハハッ! まずはテメェらから肉塊にしてやるよォ!!」
巨大なトゲ付き肩パットを揺らし、オークの頭目が血塗られた戦斧を天高く振り上げた。
その凶刃の先には、先ほどの突風で吹き飛ばされ、尻餅をついた自警団の若者二人がいる。一人がもう一人を庇うように覆いかぶさったが、絶望的な体格差だ。
「死ねェッ!!」
丸太のような腕が振り下ろされた、まさにその刹那。
突風を切り裂き、黒いパーカー姿の優太が二人の前に割り込んだ。
「遅い」
優太は戦斧の軌道に対し、ワスプ薙刀の強靭な『柄』を斜めに擦り合わせるように差し込んだ。
ガギィィィンッ!!
まともに受け止めれば腕の骨ごと砕かれる一撃。だが、優太はCQBの体術と薙刀の円の動きで、その凄まじい運動エネルギーを側面へと受け流した(パリィ)。
「な、にィ!?」
フルスイングの軌道を逸らされ、頭目の巨体が大きく前のめりに崩れる。
優太の冷徹な視線が、オークの無防備になった急所を捉えた。
「装甲が厚けりゃ安全だとでも思ったか?」
優太は手首を返し、ワスプ薙刀の刃を閃かせた。
狙うは一つ。巨大な肩パットの下、装甲の継ぎ目であり、強固な筋肉が途切れる『脇下』の死角。
「オラァッ!」
ドスッ!
ドワーフ鋼で鍛え上げられた漆黒の刃が、オークの脇下から肺の裏側に向かって深く突き刺さった。
「グガッ……! ヒャハハ、浅ェよ! こんなカス傷で俺が倒れるかァ!」
頭目が痛みに顔を歪めながらも、戦斧を横凪ぎに振るおうと筋肉を隆起させる。
「ああ、刃だけならな」
優太は氷のように冷たい声で告げると、手元――薙刀の柄に仕込まれた『トリガー』を、躊躇なく引き絞った。
『プシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!』
その瞬間、刃の先端から超高圧に圧縮された『風魔力ガス』が、オークの体内へと直接、爆発的な勢いで注入された。
対猛獣用・体内破壊兵器『ワスプインジェクターナイフ』の構造を応用した、ネギオと優太の悪魔的合作。
「ガ、ア……!? ボ、ボゲェェェェェェェェッ!?」
頭目の巨体が、内側から風船のように異様に膨張し始めた。
口や鼻、さらには目尻から、行き場を失った高圧の風と血の混じった泡が噴き出す。強固な筋肉も、分厚い装甲も、内側からの圧力には何の意味も持たない。
パンッ……パーンッ!!
鈍い破裂音が連続して響き、オークの頭目は断末魔すら上げられず、内臓を完全に破壊されてその場に崩れ落ちた。即死だった。
「「「ヒィィィィィッ!!? あ、頭がァァ!!」」」
「バケモノだァァァ! 逃げろォォ!!」
絶対的だった頭目が、謎の武器によって内側から破裂させられるというトラウマ級の光景を前に、残党のオークたちは完全に戦意を喪失し、悲鳴を上げながら森の奥へと蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「……ふぅ」
優太がワスプ薙刀の刃の血を振り払う。
「見事だ、優太! 圧倒的ではないか!」
ネギオが興奮した様子で駆け寄ってくる。防衛戦は、ポポロ村の完全勝利に終わった――かに見えた。
「優太さん……! 兄ちゃんが、兄ちゃんが……!」
背後からの悲痛な叫び声に、優太はハッと振り返った。
先ほど頭目の攻撃から庇われていた若い団員が、泣き叫びながら仲間を抱き起こしている。
「おい、どうした!?」
優太が駆け寄ると、庇った方の若者――村の青年リョウの腹部から、凄まじい量の血が流れ出していた。
頭目の戦斧を躱した際、弾け飛んだ防護柵の鋭い木片が、彼の脇腹を深く、致命的なまでに抉っていたのだ。
「ゴホッ、あ……優太、さん……村、は……」
「喋るな! 気道を確保しろ! ネギオ、傷口を強く圧迫してろ!」
優太は瞬時にリュックから携帯医療キットを引きずり出した。
しかし、顔面蒼白になる。傷が深すぎる。内臓組織が激しく損傷しており、動脈からの出血が止まらない。
持参したガーゼや止血帯では、絶対に間に合わない。失血死まで数分の猶予もない。
(くそっ……! 俺の腕じゃ、いや、この装備じゃ助けられない……!!)
目の前の命が消えようとしている。
アメリカで銃撃戦に巻き込まれ、何もできずに命がこぼれ落ちていくのを見ていた、あの日の無力感がフラッシュバックする。
「嫌だ……。もう二度と、俺の目の前で死なせるもんか……!!」
優太は血に染まった手で、虚空の『ホログラムパネル』を強く叩いた。
現在の善行ポイントは、防衛戦の加算を含めて【120 GP】。
昨日、ルチアナが大吟醸で使い込まなければ、十分な医療キットを指定して買えたはずだ。
残された希望は、わずか100pで引ける【ランダムガチャ】のみ。
普段は「光るタピオカストロー」や「片方だけの軍手」など、どうしようもないゴミしか出ないふざけたシステム。
だが、今はこれに賭けるしかない。
「頼む……! 何でもいい、俺の命を削ってもいい! 目の前の命を救わせろォォッ!!」
優太が魂からの叫びと共にガチャのボタンをタップした、その瞬間。
『ピロリロリロリロリロォォォォォンッ!!!』
普段は安っぽい銀色に光るだけの電子ボードが、突如として周囲の空間を塗り潰すほどの、眩いばかりの『黄金色』に輝き始めた。
システムが、中村優太の極限の「善意」と「救済への渇望」に呼応したのだ。
SSR確定――運命を捻じ曲げる奇跡のアイテムが、黄金の光の中から実体化しようとしていた。




