EP 7
CQBと薙刀、そして『ワスプ薙刀』の誕生
翌朝。
昨晩のどんちゃん騒ぎで二日酔いになったルチアナやルナたちがリビングで屍のように転がる中、優太は一人、早朝の澄んだ空気を吸いに村の広場へ出ていた。
「腰が高い! 槍の穂先がブレているぞ! そんなことではオークの突進すら止められん!」
『パァァァンッ!!』
広場では、村の男たち(自警団)が木槍を持って整列し、厳しい訓練を行っていた。
その中心で檄を飛ばし、巨大な長ネギ(?)で次々と村人たちの頭をハリセンのように叩いている異形の姿があった。
全身が樹木と蔦で構成された人型の樹人、世界樹の端末である『ポーン』のネギオだ。
「おい、そこの新顔の居候」
ネギオがピタリと動きを止め、広場の端で見学していた優太を鋭い木目の眼光で睨みつけた。
「カレーとやらは中々美味かったが、貴様、少しは腕は立つのか? この村は緩衝地帯だ。飯炊き係以外に能がないなら、邪魔になるだけだぞ」
毒舌全開のネギオに、優太はふっと笑みをこぼした。
「……なるほど。お前がこの村の防衛責任者ってわけか。俺の腕を知りたいなら、少し手合わせしてみるか?」
優太は足元に転がっていた訓練用の長めの木の棒(柄)を拾い上げ、スッと構えた。
剣道のような構えではない。半身になり、柄を体の側面でゆったりと保持する独特の構え――『薙刀』の構えだ。
「ほう。面白い。おい、お前ら。3人がかりでその男を制圧してみせろ」
ネギオの合図で、槍を持った自警団の若者3人が優太を囲むようにジリジリと距離を詰めてきた。
「いくぞっ!」
若者の一人が鋭い突きを放つ。
しかし、優太は焦らない。ハワイの元SEALs教官から徹底的に叩き込まれたCQB(近接戦闘)の基本『射線管理と死角の制圧』が、彼の脳内で瞬時に最適解を弾き出す。
優太は最小限の動きで半歩だけ軸をずらし、槍の軌道を躱した。
同時に、遠心力を乗せた木の棒の先端を、円を描くように振るう。
「なっ!?」
パァァァンッ!!
若者の手元を正確に打ち据え、槍を弾き飛ばす。さらに回転の勢いを殺さず、棒の石突き(後端)でもう一人の膝裏を薙ぎ払い、体勢を崩した三人目の首筋にピタリと棒の先端を突きつけた。
時間にして、わずか数秒の出来事だった。
力任せではない。圧倒的な「間合いの支配」と「重心移動」の芸術。
「……見事だ」
ネギオが感嘆の声を漏らし、ネギカリバーを下ろした。
「間合いの外から遠心力で重い一撃を叩き込むその武術……そして、敵の死角を的確に突くその無駄のない戦術機動。ただの素人ではないな」
「まあ、アメリカでちょっと優秀な教官に戦術を習ってね。それに、これでも薙刀は有段者なんだ」
優太が木の棒を下ろして肩をすくめると、ネギオはニヤリと木の唇を歪めた。
「合格だ、中村優太。貴様のような戦力なら歓迎する。……そうだ、貴様に良いものをやろう。ついてこい」
***
ネギオに案内されたのは、村の奥にある本格的な鍛冶場だった。
彼はなんと、ドワーフ国の『鍛冶通信講座1級』をストレート合格している凄腕の鍛冶師でもあるのだ。
「昨晩、貴様のリュックから少し本を拝借してな。一晩で熟読させてもらった」
ネギオが指差した先には、優太が地球から持参した『世界の特殊部隊・サバイバルギア大全』という分厚い本が開かれていた。
「これに載っていた地球の武器……『ワスプインジェクターナイフ』。ブレードの根元から圧縮ガスを対象の体内に注入し、内部から破裂させるという、対猛獣用の極悪な代物。これを、貴様の『薙刀』という武器の構造に組み込んでみた」
ネギオが布をバサリと取り払うと、そこには黒鈍色に輝く一本の美しい長柄の武器が鎮座していた。
「刃にはドワーフ鋼を打ち込み、柄の内部には超高圧の『風魔力ガス』を圧縮したシリンダーを内蔵している。斬撃と同時に手元のトリガーを引けば、刃の先端から暴風のガスが敵の体内に直接撃ち込まれる」
「……マジかよ。お前、天才か?」
優太は震える手でその『ワスプ薙刀』を手に取った。
ずしりとした心地よい重み。完璧な重心バランス。
装甲の隙間を薙刀の鋭い刃で切り裂き、そのまま内部に圧縮ガスを撃ち込んで内臓ごと破裂させる――異世界の魔法にも劣らない、物理と戦術の極致とも言える凶悪兵器だ。
「ふん。私を誰だと思っている。これからは、自警団の戦術指導も貴様に手伝ってもらうぞ、優太」
「ああ、喜んで引き受けよう」
ポンコツ女神や大食いアイドルに振り回され、底辺扱いから始まった優太の異世界生活。
しかし今、現代戦術と異世界鍛冶の結晶である『ワスプ薙刀』を手にしたことで、彼はついにこの理不尽な世界で生き抜くための最強の「牙」を手に入れたのだった。




