EP 6
女神の横領と、異世界大宴会
「ふふっ……いいぞ、このペースなら明日には医療キットやサバイバルナイフも交換できるな」
食後の片付けを終えた優太は、厨房の隅で一人、半透明のホログラムパネルを見つめながら邪悪な笑みを浮かべていた。
【現在の善行ポイント:6,800 GP】
歩く飢餓状態ことリーザにカレーのおかわりを与え続けた結果、ポイントは驚くべきスピードで貯まっていた。まさに錬金術である。
「よしよし。明日はリーザに炒飯でも作ってやって、さらにポイントを……」
『ピロリン♪』
『ピロリン♪』
『ピロッ、ピロリン♪』
突如、優太の耳元で軽快な決済音が連続して鳴り響いた。
パネルの数字が、スロットマシンのように猛烈な勢いで減っていく。
【6,800 GP】→【1,200 GP】→【80 GP】
「……は?」
優太の思考がフリーズした。
直後、背後から「よいしょっと」という気の抜けた声と共に、光の粒子がリビングのテーブルの上に降り注いだ。
「おっしゃぁぁ! やっと飲める! 喉カラカラだったのよ~!」
振り返ると、芋ジャージ姿のルチアナが、テーブルの上に出現した『桐箱入りの純米大吟醸』を大事そうに抱きしめ、頬ずりをしていた。
さらにその周りには、高級カニ缶、ホタテの貝柱、キャビア、エイヒレ、そして大量のポテトチップスがズラリと並んでいる。
「お、おまっ……!! お前、何勝手に出してんだ!?」
「え? 何って、酒とツマミだけど?」
「そうじゃねぇ! 俺のホログラムパネルにどうやって干渉した!?」
「あー、それね」
ルチアナは桐箱を開けながら、あっけらかんと言い放った。
「私、そのシステムの開発者(創造主)だから。管理者権限のバックドアから普通に遠隔タップできるのよ。ちょっと失礼してポイント使わせてもらったわ」
「ふ、ふざけんなぁぁぁ!!」
優太の怒号が村長宅に響き渡った。
「俺が! リーザにカレーを5杯も食わせて! 汗水流して稼いだ命のポイントだぞ!? なんでお前の大吟醸とカニ缶に消えてんだよ!!」
優太がルチアナの首を絞めようと飛びかかった、その時だった。
「んんっ……!? な、なんなのこの魅惑的な香りは……!」
スパイスの残り香を上書きするように漂い始めた、高級海鮮ツマミと大吟醸の芳醇な香り。
それに釣られて、食後の紅茶を楽しんでいたキャルル、ルナ、リーザの三人がテーブルに群がってきた。
「ちょっとルチアナ、これ開けていいかしら? ……サクッ。うまっ!? なにこの『ぽてとちっぷす』って食べ物! サクサクしてて、塩気と謎の旨味が強烈で止まらないわ!」
ウサギ耳をピンと立てたキャルルが、ポテトチップスの袋を抱え込んでバリバリと貪り始めた。
「こ、これは……カニ!? 缶の中に、海の至宝がギュッと詰まってるぅぅぅ! しかも、この黒いツブツブ(キャビア)、塩辛くてパンの耳に絶対合うわぁぁぁ!」
リーザが缶詰を抱きしめ、再び大粒の涙を流して号泣している。
「まあ。この透き通った液体……エルフの秘酒にも劣らない、洗練されたマナの気配を感じるわ。一口いただこうかしら」
ルナが優雅に大吟醸をお猪口に注ぎ、クイッと飲み干す。直後、その美しいエルフの頬がポッと桜色に染まった。
「……美味しい。これ、いくらでもいけちゃうわね」
「でしょでしょ!? さあさあ、今夜は無礼講よ! 飲めや歌えやの大宴会よーっ!」
ルチアナがドヤ顔で音頭を取り、村長宅のリビングは完全にどんちゃん騒ぎの宴会モードへと突入してしまった。
「お前ら……俺の、俺の医療キットが……」
膝から崩れ落ちる優太。
だが、高級ツマミを前に満面の笑みを浮かべるキャルルたちを見て、医学生の良心と、元来のお人好しな性格が顔を出してしまう。
「……はぁ。まあ、美味い飯食って笑ってるなら、いっか……」
優太は深くため息をつくと、残った80GPで地球から『ウコンの力』を数本召喚し、悪酔いしそうなエルフと女神の前にそっと置いてやるのだった。




