EP 5
胃袋掌握とポイ活の始まり
「さあ、遠慮しないで。ここは村長の私の家だから、部屋はたくさんあるわ」
ポポロ村の中央に位置する、立派な木造の村長宅。
リビングのふかふかなソファに座らされた優太とルチアナの前に、キャルルが湯気を立てるホットミルクをコトッと置いた。
「はぁ~、生き返るわぁ……って、酒じゃないじゃないの! 私が欲しいのは芋酒の熱燗よ!」
「ダメよ。お腹を空かせた状態で急にアルコールを入れたら、胃がびっくりしちゃうもの。まずはゆっくり休んでちょうだいね」
芋ジャージの女神が文句を言うが、ウサギ耳の村長・キャルルは完全に「可哀想な迷子」をあやす保母さんのトーンだった。
その隣では、魚人のリーザが「ふふっ、わかるわ。パンの耳すら喉を通らない時ってあるわよね……」と、自分の極貧生活と勝手に重ね合わせて涙ぐんでいる。
(……くそっ。このままじゃ、俺まで頭のおかしい浮浪者扱いだ)
優太はホットミルクを一息に飲み干すと、バンッとテーブルを叩いて立ち上がった。
「キャルルさん、と言ったか。保護してくれた恩は返す。俺は料理が得意なんだ。今日の夕飯は俺に作らせてくれ」
「え? でも、あなたたち長旅で疲れて……」
「いいから! 厨房と、いくつか村の食材を貸してくれ!」
優太は半ば強引に立ち上がり、村長宅の広い厨房へと向かった。
医学生として自活してきたプライド、そして何より「美味しいものを食べている時が一番平和」という真理を証明するためだ。
厨房に入り、優太は誰にも見えないように、視空に半透明の電子ボードを呼び出した。
――【地球ショッピング】起動。
所持ポイントを確認する。初期ボーナスなのか、はたまたさっき村の入り口に落ちていたゴミを拾って捨てた(ゴミ拾い:1p)からなのか、わずかながら『善行ポイント(GP)』が貯まっていた。
「よし、スパイス系なら単価も安いな。クミン、コリアンダー、ターメリック、ガラムマサラ……それにトマト缶とバターだ」
光と共に、見慣れた地球の調味料が厨房の台に出現する。
優太は村のパントリーから、鶏肉に近いという『トライバードの肉』と、極上の旨味を持つという巨大な『肉椎茸』、そしてパンにも米にもなる万能主食『米麦草』を引っ張り出した。
「トラックに轢かれる直前に作ってた、俺の特製バターチキンカレー。……異世界バージョンで作ってやる」
優太の包丁捌きは、外科志望の医学生ならではの精密さだった。
トライバードの肉を均等に切り分け、ヨーグルト(村の備蓄)とスパイスでマリネする。大量のバターとニンニク、生姜を炒め、トマト缶と各種スパイスを投入してじっくりと煮込んでいく。
ジュワァァァッ……!
「……っ!? な、何この匂い!?」
数十分後。
リビングでくつろいでいたキャルルたちの鼻腔を、これまでこの世界に存在しなかった、複雑かつ暴力的なまでに食欲をそそるスパイスの香りが強襲した。
「すごい……! スパイシーなのに、どこか甘くて、とっても濃厚な香りがするわ!」
「お腹が……私のお腹が限界突破のサインを出してるわ……!」
キャルルがウサギ耳をピンと立てて立ち上がり、リーザは涎を拭いながら厨房へとにじり寄る。
「はい、お待たせ。特製『肉椎茸とトライバードのバターチキンカレー』だ」
優太が深皿によそった黄金色のカレーと、ふっくらと炊き上がった『サンライス(米麦草)』をテーブルに並べた。
「い、いただきます……! はむっ」
キャルルがスプーンで一口すくい、口に運ぶ。
その瞬間、彼女のウサギ耳がビクゥゥゥンッ! と跳ね上がった。
「おいしぃぃぃぃぃぃぃっ!! 何これ!? トライバードのお肉が信じられないくらい柔らかくて、肉椎茸の旨味がスパイスと完全に調和してる! 辛いのに、バターの甘みとコクが後を引いて……止まらないわ!!」
甘いものが大好きなキャルルにとって、バターチキンカレーの濃厚な甘辛さはまさにクリティカルヒットだった。
「優雅ね。大地の恵みが、見知らぬ魔法で完璧な芸術に昇華されているわ」
エルフのルナも上品に微笑みながら、凄まじいスピードでスプーンを動かしている。
そして――。
「あぁぁぁ……! おいじぃぃぃ……! ぱんのみみじゃない……あったかくて、お肉が、お肉がぁぁ……!」
リーザに至っては、ボロボロと大粒の涙をこぼしながら、まるでダイソンの掃除機のような吸引力でカレーを飲み込んでいた。
「ふん。まあ、酒のツマミにはちょっと甘いけど、悪くないわね」
ルチアナも偉そうに言いながら、すでに三杯目のおかわりを要求している。
「ははっ、どうだ。俺はただの可哀想な奴じゃないだろ?」
優太がドヤ顔で腕を組んだ、その時だった。
『ピロリン♪』
優太の脳内に、軽快なシステム音が響き渡った。
視界の隅に、ホログラムの文字が浮かび上がる。
【善行判定:極限の飢餓状態にある生命を、手料理によって救済しました】
【ボーナス獲得:+500 GP】
「……は?」
優太は目を見開いた。
ポイントの獲得条件。人命救助なら1000p~だが、日常の善行はせいぜい1~10pのはずだ。
優太は、皿を舐め回す勢いでカレーを平らげたリーザを見た。
「あ、あのっ……優太さん! もう一口、いやもう一皿だけ、いただけないでしょうか……!?」
リーザが、潤んだ瞳で空の皿を差し出してくる。
優太は無言で、鍋に残っていたカレーをたっぷりとよそってやった。
「あぁぁっ! 神様! 優太様ぁぁぁ!!」
『ピロリン♪』
【善行判定:飢餓状態の生命に追加の救済を行いました】
【ボーナス獲得:+100 GP】
(……マジか)
優太は震える手でカレーの鍋を見つめた。
この世界には、ただご飯を食べさせるだけで「人命救助」レベルの善行ポイントを乱獲できる、『歩くポイントタンク(リーザ)』が存在するのだ。
(勝った……。こいつを餌付けし続ければ、地球ショッピングのポイントは無限に稼げる!!)
不審者の汚名を返上し、異世界人の胃袋を完全に掌握した優太。
同時に彼は、この過酷な異世界で生き抜くための、最強の「ポイ活」錬金術を発見したのだった。




