EP 4
底辺アイドル以下の扱い
ポポロ村の入り口。
のどかな畑の広がる風景の中、二人の不審者が立ち尽くしていた。
一人は、ヨレヨレの芋ジャージに泥だらけの健康サンダルを履き、鼻をヒクヒクさせながら「酒ぇ……おでん……」と虚ろな目で呟く女。
もう一人は、見慣れない服を着て、リュックを背負い、片手にはゴブリンの血と脳漿がこびりついた一升瓶を握りしめている、目つきの鋭い男。
どう見ても、限界まで追い詰められた浮浪者と危険人物のコンビである。
「ねえ、キャルル。村の入り口に変な人たちがいるわよ?」
「あら。本当ね。迷子の旅人さんかしら?」
「……なんだか、すごく飢えと貧困の匂いがするわ!」
村の方から、三人の少女たちが近づいてきた。
ウサギの耳を生やした、健康的なスタイルの美少女。
みすぼらしい服を着ているが、無駄にキラキラした瞳を持つ魚人族の少女。
そして、エルフ特有の長い耳を持ち、優雅なオーラを放つ美女。
「おいルチアナ、村人らしき奴らが来たぞ。絶対に余計なことを言うなよ、まずは情報収集……」
優太が小声で釘を刺そうとした、その時だった。
「ふはははははっ!! 控えおろう人間と亜人ども!!」
ルチアナが突然、健康サンダルを鳴らして胸を張り、ビシッと三人に向かって指を突きつけた。
「私がこの世界『アナステシア』を創りし者! 慈悲深き女神ルチアナよ! さあ、私を崇め、敬い、そして今すぐその奥から匂ってくる『芋酒の熱燗』と『おでん』を献上しなさーい!!」
静寂。
秋の涼しい風が、村の入り口を吹き抜けていく。
「……バカ! お前、何言ってんだ!!」
優太は慌ててルチアナの頭を引っぱたいた。
ただでさえ不審な格好なのに、こんな狂った自己紹介をしたら「ヤバい奴ら」として自警団に通報されるに決まっている。
「痛っ!? な、何するのよ! 私は正真正銘の女神よ!」
「そんなこと言ったら、ただのイカれた奴にしか見えないだろ! 見ろ、あいつらの目を!」
優太が指差した先。
キャルルたち三人は、ルチアナの言葉に怒るでもなく、怯えるでもなく――ただただ、深い同情と哀れみのこもった瞳で二人を見つめていた。
「……困っている方なのですか? 可哀想に。あまりの空腹と疲労で、ご自分が女神様だと思い込んでしまうほど心が壊れてしまって……」
ウサギ耳の少女、キャルルが両手を口元に当てて、ホロリと涙ぐんだ。
「お仲間だわ!! キャルル、保護してあげよう!」
リーザと呼ばれた魚人の少女が、ルチアナのジャージの袖を強く握りしめ、熱い共感の眼差しを向けてきた。
「わかる! わかるわよお姉さん! 私もね、ルナミスデパートの試食コーナーを3周して店員さんに怒られた時は、自分がアイドルだって幻覚を見たもの! 辛かったわね、もう大丈夫よ!!」
「え? いや、私は幻覚じゃなくて本当に……」
「ルナミス帝国でパンの耳をかじって生き延びていたリーザより、お可哀想な方は久しぶりに見たわ……」
エルフの美女ルナが、ふわりと微笑みながらトドメの一撃(天然の暴言)を刺した。
世界を創った絶対的スケールの女神が、**「パンの耳で食いつなぐ地下アイドル以下の底辺」**として認定された瞬間である。
「そうね……まずは村長である私の家へ案内しましょう。温かい牛乳でも飲んで……ゆっくり落ち着いてちょうだい。ね?」
キャルルは、まるで保護犬に接するような極限の優しさで、優太の持っていた血まみれの一升瓶をそっと取り上げ、ポンポンと背中を撫でた。
(ああああああああっ!? 俺まで、めっちゃくちゃ可哀想な目で見られてるぅぅぅ!!)
現代の医学を志し、元SEALsの教官からCQBを叩き込まれ、薙刀の有段者でもある中村優太。
そんなエリートである彼のプライドは、異世界転移からわずか数時間で、「可哀想な浮浪者の付き添い」という最底辺のレッテルと共に粉々に砕け散ったのだった。




