第四章 虹色孔雀と12時間耐久ファミレス女子会
トーキョーの味が忘れられない!と、閉ざされた次元の扉
「いやああああああああぁぁぁぁぁっ!! 私の、私のトーキョーへの直通ルートがぁぁぁっ!!」
ポポロ村の朝。
村長宅のコタツ部屋から、芋ジャージ姿の駄女神・ルチアナの鼓膜を破らんばかりの悲鳴が響き渡った。
『ピロリン♪ 警告。管理者権限の重大な違反(次元の壁の無断開放)を検知しました。神界上層部の決定により、対象者ルチアナの【ゲート作成権限】を無期限で完全凍結します』
無慈悲なシステム音声と共に、昨日まで地球の路地裏へと繋がっていた「和室のふすま」は、ただのボロいふすまへとダウングレードしてしまったのである。
「あははははっ! ざまぁみろクソ駄女神! 天網恢々疎にして漏らさず、神の裁き(物理)ってやつだな!」
リビングでコーヒーを啜っていた優太は、腹を抱えて大爆笑した。
「笑い事じゃないわよ優太! これじゃあ、秋葉原の新作ゲームの発売日に買いに行けないじゃない!!」
「知るか! そもそも異世界人がホイホイ次元を超えちゃダメなんだよ。これでようやく、俺の胃痛の原因(トーキョーでのお前らの介護)が一つ減ったぜ」
優太が晴れやかな顔で背伸びをした、その時だった。
「……うぅぅ。そんなぁ……」
「ウソでしょ……? もう、あの甘くて冷たい『めろん・あいす』が食べられないの……?」
リビングのソファで、キャルルとルナが、この世の終わりのような絶望の表情を浮かべて崩れ落ちていた。
少女漫画フィルターが絶賛稼働中のウサギ耳村長と、天然エルフの美女。二人は完全に、現代日本の『ファミレスと居酒屋の味』の虜になってしまっていたのだ。
「優太ぁ……。私、あの壺に入ったお肉(壺付けハラミ)の味が忘れられないわ。サンライス(米麦草)と一緒に、お腹いっぱい食べたいのぉ……」
「地球の果実酒の甘さが恋しいわねぇ……。世界樹の朝露が、ただの苦い水に感じるわ」
二人はうつろな目で宙を見つめ、完全に禁断症状を起こしている。
さらに悪いことに、厨房の方からは魚人族のアイドル・リーザが、村の配給である干し肉を齧りながら血の涙を流していた。
「あぁぁっ! タン塩! タン塩が食べたいぃぃ! 網の上でジュワッて鳴るあの薄いお肉を、エンドレスで注文したいのよぉぉっ!!」
「……お前ら、たった一日の地球旅行で完全に舌が甘やかされやがって」
優太は呆れ果ててため息をついた。
だが、彼自身もまた、焼肉屋で流した涙を忘れてはいなかった。
(……まぁ、気持ちは痛いほど分かる。俺だって、あの完璧な火加減の『鶏モモ肉』をもう一度食いたいしな)
「ないものは仕方ないだろ。俺の【地球ショッピング】で食材を出してやることはできるが、あのお店の『空間』や『無限に出てくるシステム(食べ放題・ドリンクバー)』までは再現できないぞ」
優太が現実を突きつけると、三人のヒロインたちはドンヨリと暗いオーラを放ち始めた。
このままでは村長の執務もストップし、ポポロ村の行政が停止してしまう。
そう危惧した時、リーザがハッと顔を上げ、みかん箱の上に飛び乗った。
「地球に行けないなら……作ればいいじゃない!! 私たちの村に、『ふぁみれす』を!!」
「はぁ? ファミレスを作る? どうやってだよ。ノウハウも機材もないのに」
優太が突っ込むと、リーザは自信満々に腕を組んで鼻を鳴らした。
「甘いわね優太様。私の故郷、ルナミス帝国にはね、庶民から貴族までが愛する超巨大な飲食チェーン店が存在するの。その名も……『ルナミスキング(通称・ルナキン)』!」
「ルナミスキング……(絶対バーミヤンかジョイフルのパクリだろそれ)」
「そこには、優太様の言う『どりんくばー』によく似た、魔法の樽から無限に甘い果実水が出てくる夢のシステムがあるのよ! あのルナキンの支店を、このポポロ村に誘致するの!!」
リーザの熱弁に、キャルルとルナの瞳にパァァッ! と光が宿った。
「それよ! 村長権限で、ポポロ村の広場に店舗を建設するわ!!」
「でもキャルル。帝国の大商会を誘致するなんて、莫大な資金が必要なんじゃなくて?」
ルナの冷静な指摘に、キャルルが「うっ……」と言葉を詰まらせる。
だが、そこで優太が不敵な笑みを浮かべ、ワスプ薙刀の柄を床にトンッと突いた。
「……忘れたのか? このポポロ村の金庫には今、魔王ラスティアがゴルド商会を脅し上げて回収した『莫大な量の適正な銀貨と銅貨』が、村おこし資金として有り余ってるんだぜ?」
「「「……あッ!!」」」
「純金100kgを犠牲にして手に入れた、この村の潤沢な経済力。それを今こそ、インフラ(ファミレス)投資に突っ込む時だ!」
かくして、地球への未練と食欲、そして魔王の力で得た潤沢な村の資金(銀貨)を武器に。
ポポロ村への『異世界ファミレス・チェーン誘致計画』という、かつてないバカバカしくも壮大なプロジェクトが、力強く幕を開けたのであった。




