EP 5
居酒屋の惨劇!メロンアイスと嫉妬の駄女神
「店員さぁん! この『飲むさつまいもカクテル』っていうの、すっごく甘くて美味しいわぁ! もう一杯おかわりぃ〜っ!」
「うふふふっ……地球の果実酒は、マナが濃くて舌がとろけそうねぇ……」
焼肉食べ放題で限界まで胃袋を満たした一行が二次会に選んだのは、有明近くの大衆居酒屋(個室)だった。
冷房の効いた薄暗い部屋で、キャルル、ルナ、リーザの三人は、完全に出来上がっていた。
異世界の住人である彼女たちは、アルコール耐性自体はそこそこあるものの、日本の居酒屋が誇る「ジュースのように甘くて飲みやすいカクテル(飲むさつまいもやカシスオレンジ)」の罠に見事にはまり、ぐでんぐでんに酔っ払っていたのだ。
「うぃ〜っ……優太ぁ、私、ルナミス帝国で炊き出し並んでた時より、今が一番幸せよぉ……ひっく」
リーザが顔を真っ赤にして、テーブルに突っ伏している。
「優太ぁ……♡ 私の冷徹公爵様ぁ……♡ もっとこっちに来て、私を優しくエスコートしてぇ……♡」
少女漫画フィルターがアルコールで暴走したキャルルが、ウサギ耳をふにゃふにゃに垂らしながら、優太の右腕にすり寄ってくる。
さらに左側からは、エルフのルナが「優太、いつも美味しいご飯をありがとうねぇ」と、豊満な胸を押し当てながらニコニコと寄りかかってきた。
「お、おいお前ら! 酔いすぎだ、離れろ! 俺は酒よりウーロン茶と軟骨の唐揚げが食べたいんだよ!」
両手に花、ならぬ「両手に泥酔した異世界の美女と獣人」。
普通の男なら天にも昇る心地だろうが、常に戦術と医療的リスクを計算する医学生・優太にとって、体温が高くアルコール臭を放つ酔っ払いは、単なる「介護対象」でしかなかった。
その時、個室のふすまが開き、店員が巨大なグラスを運んできた。
「お待たせいたしましたー! 当店名物、特大『メロンアイスカクテル』でーす!」
ドンッ! とテーブルの中央に置かれたのは、半分に切った本物のメロンを器にし、その上に山盛りのバニラアイスと生クリーム、そして色鮮やかなメロンリキュールが注がれた、パフェのような巨大カクテルだった。
ご丁寧に、長いストローが4本も刺さっている。
「「「わぁぁぁぁっ……!!」」」
酔っ払った三人の瞳が、キラキラと輝いた。
「これ、みんなで一緒に飲むやつね! 優太、ほら、一緒に飲みましょ!」
「え? いや、俺は甘い酒は……」
「いいからいいから! ほら、ルナお姉様も! リーザも!」
キャルルに強引に頭を引っ張られ、優太はメロンアイスカクテルの前へと屈み込まされた。
右にキャルル、左にルナ、正面にリーザ。
四人がそれぞれ一本ずつストローを咥え、顔を寄せ合う。
(……ちかっ)
女の子特有のシャンプーの甘い香りと、カクテルのメロンの香りが混ざり合う。
吐息がかかるほどの至近距離で、三人の美女がストローを吸いながら上目遣いでこちらを見つめている。
さすがの冷徹(?)な優太も、こればかりは少しだけ顔が熱くなるのを感じた。
「おいおい……こんなの、完全にラブコメの主人公じゃねぇか……」
優太が思わずストローを咥えたまま、少しだけデレたような表情を浮かべた――まさにその瞬間だった。
『……イラッ』
テーブルの向かい側。
一人でジョッキの生ビールを煽り、枝豆を延々と食い散らかしていた芋ジャージの駄女神・ルチアナの額に、青筋が浮かんだ。
「……自分だけ、安全圏から地球を満喫して。しかも可愛い子たちに囲まれて、一人だけ主人公気取り?」
ルチアナはジョッキをドンッ! とテーブルに叩きつけると、立ち上がり、優太の背後へと回り込んだ。
「え? ルチアナ、お前何し……」
優太が振り返ろうとした瞬間。
「調子乗んな! ラブラブ小僧ッ!!」
ルチアナの両手が、優太の後頭部を躊躇なく、全力で押し込んだ。
「……ふぐぇッ!?」
ドシャァァァァァァァッ!!!
優太の顔面が、山盛りのバニラアイスと生クリーム、そしてメロンの果肉のド真ん中へと、見事な放物線を描いてダイブした。
「キャァァァッ!?」
「ああっ! メロンアイスが!!」
キャルルたちが悲鳴を上げて飛び退く。
「ぶはっ……! げほっ、ごほっ!! て、てめぇぇぇぇルチアナァァァァッ!!」
数秒後。
顔面を真っ白なアイスと生クリームでコーティングされ、頭から緑色のメロンリキュールを滴らせた優太が、般若のような形相で立ち上がった。
鼻の穴には、生クリームがガッツリと詰まっている。
医学生の威厳も、冷徹公爵の面影も、CQBの達人のオーラも、すべてがバニラアイスの甘い匂いに掻き消されていた。
「あはははははっ!! ざっまみろ! 青春の甘い味がするでしょ、物理的にね!! あーースッキリした! 奢りよろしくー!」
ルチアナは腹を抱えて大爆笑し、そのまま個室からトイレへと逃亡していった。
「あのクソ駄女神……! 武道館に行く前に、異世界に強制送還してやる……!!」
顔面からメロンの香りを漂わせながら、おしぼりで必死に顔を拭く優太。
日本の居酒屋の個室で繰り広げられた、あまりにも理不尽なラブコメクラッシャーの惨劇。
そして、彼らがトーキョーを満喫(?)している間にも、開演の時間が迫る『日本武道館』の前では――全身をグッズで武装した「限界オタク魔王」が、荒い鼻息と共にその門をくぐろうとしていたのである。




