表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『5階にトラック突撃!?ポンコツ女神の使役権と地球通販を得た医学生、辺境の村でワスプ薙刀と現代医療を駆使し最強防衛ライフを始める』  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/76

EP 4

涙の焼肉食べ放題と、医学生の愛した鶏肉

「す、涼しいぃぃぃ……! なにこれ、氷の精霊の結界!?」

「生き返るわぁ……ガリガリ君なくても生きていける……」

コミケ会場での「神レイヤー騒動」から逃げるように撤退した異世界御一行は、有明近くのビルに入っている『焼肉食べ放題』のチェーン店へと避難していた。

ガンガンに効いた冷房と、換気扇が吸い込む甘辛いタレと脂の焦げる匂い。

長らく異世界のサバイバル生活を強いられていた優太にとって、そこはまさに現代日本のオアシスだった。

「いいかお前ら、ここは『食べ放題』だ。制限時間内なら、この端末タッチパネルで頼めば、魔術のように無限に肉が出てくるぞ」

優太がルールを説明した、次の瞬間。

『ピピッ! ピピッ! ピピピピピピピッ!!!』

「タン塩! タン塩! タン塩!!」

野生のサバイバルアイドル・リーザが、凄まじい連打速度でタッチパネルの『ネギ塩牛タン』の画像を叩きまくっていた。その目は完全に血走り、獲物を狙う肉食魚のそれである。

「おいリーザ! タン塩連打はやめろ! エラー吐くだろ! ちゃんと裏の厨房で切ってんだから必ず来るから!!」

優太が慌ててパネルを取り上げる。

「だって! こんな薄くて綺麗なお肉、ルナミス帝国の貴族の宴でも見たことないわ! 早く! 早く私の胃袋にタン塩を!!」

リーザが網の上でトングをカチカチと鳴らして威嚇している横で、すでにジョッキを傾けている女がいた。

「ゴクゴクゴクッ……、プハァーーッ!!」

芋ジャージ姿のルチアナが、ジョッキに付いた水滴を拭いもせず、新橋のサラリーマンのような完璧な所作で喉を鳴らした。

「くぅ〜っ! やっぱりキンキンに冷えた地球のビールは最高ね! 世界樹の朝露とかやってられないわ! 店員さぁん! 生ビールおかわり!!」

「駄女神、お前まだ昼間だぞ……」

優太が頭を抱えていると、今度は通路側から、妙に甘ったるい、聞き慣れない猫撫で声が響いてきた。

「店員さぁん♡ 壺付けハラミ、下さぁい♡」

ビクッ!? と優太の背筋が跳ね上がる。

声の主は、月影流の武闘派ウサギこと、村長キャルルだった。

彼女は両手で顔を包み込むようなあざといポーズを取り、上目遣いで店員に微笑みかけている。完全に『貴婦人の恋心』の令嬢モード(少女漫画フィルター)が抜けきっていないのだ。

「キャルル……お前、キャラが崩壊してるぞ。お前が壺付けハラミなんて頼んだら、壺ごとオークの頭に叩き込みそうに見えるんだが」

「もぉっ、優太の意地悪っ♡ 私だって、たまにはガッツリお肉を食べて、冷徹な公爵様(優太)にエスコートされたいのよっ♡」

「ダメだこいつ、早く脳のCTスキャン撮らないと」

ドンッ、ドンッ、と次々に運ばれてくる極上の肉たち。

「おおっ! 網の上に肉を乗せると、音が鳴るぞ! 月人くんのライブの特効パイロみたいじゃ!!」と魔王ラスティアもトング片手にはしゃぎまくっている。エルフのルナは「このサンチュという葉っぱ、マナが豊富ね」と謎の草食動物ムーブをかましていた。

カオス極まるテーブル。

だが、優太は騒ぐ彼女たちをよそに、一人、網の隅の最も火加減の安定した『特等席』を陣取っていた。

そこに彼がトングで優しく、まるで赤子を扱うようにそっと乗せたのは――『鶏モモ肉』であった。

ジューゥゥゥゥゥッ……。

「……ああっ」

皮の面からじっくりと焼き上げ、溢れ出す黄金色の脂。

異世界アナステシアでは、トライバード(三徳鳥)などのパサパサした野鳥の肉や、シープピッグ(綿豚)ばかりだった。

優太は、こんがりとキツネ色に焼き上がった鶏肉を、塩ダレに軽くバウンドさせ、熱い白飯の上にワンクッション置いてから、口へと運んだ。

プリッとした弾力。噛み締めた瞬間にジュワッと溢れ出す、圧倒的に優しく、そして力強い『鶏の旨味』。

牛肉のような暴力的な脂ではない。毎日食べても決して飽きることのない、彼が心の底から愛してやまない、地球の鶏肉の味。

「……う、うまい……」

ぽろっ。

医学生・中村優太の頬を、一筋の美しい涙が伝い落ちた。

オークの群れに囲まれても、純金で経済が崩壊しても決して泣かなかった男が、ただ一切れの鶏モモ肉を前にしてむせび泣いているのである。

「ちょっと優太、なんで鶏肉なんかで泣いてるのよ? こっちのカルビ食べなさいよ」

「うるせぇ……! お前ら異世界人には、この地球の鶏肉の……圧倒的な『安心感』と『完成度』が分からねぇんだよ……!! 鶏肉こそ、至高にして究極なんだよォォッ!!」

涙ながらに鶏肉への愛を叫び、さらに追加の『鶏セセリ』と『鶏ハラミ』をパネルで連打する優太。

かくして、真夏のトーキョーの焼肉店で、タン塩の亡者、アル中女神、恋するウサギ、限界オタク魔王、そして鶏肉に涙する医学生という、店員からすれば「絶対に触れてはいけないヤバい客のテーブル」が完成したのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ