第三章 武道館コンサートとLOVE&MONEY
魔王の駄々っ子と、次元を超えるコタツ部屋
「いやじゃあああああああああああっ!! 行く! 絶対に行くのじゃあああああ!!」
ドゴォォォォンッ!!
ポポロ村、村長宅のリビング。
かつて人間界を恐怖のどん底に陥れた漆黒の魔力波が、無意味に天井を揺らしていた。
原因は、床に寝転がって手足をバタバタと振り回している絶世の美女――魔王ラスティアである。
彼女は豪奢なドレスをホコリまみれにしながら、大粒の涙をポロポロとこぼし、駄々をこねる幼児のように絨毯の上を転げ回っていた。
「おい……誰か、この限界オタク魔王をどうにかしろ」
優太はこめかみを押さえ、深いため息をついた。
事の発端は数時間前。優太が日課のポイ活(リーザへの餌付け)で貯めた100GPを使い、何気なく【ランダムガチャ】を回したことだった。
排出されたのは、一枚の煌びやかな紙切れ。
『朝倉月人 20th Memorial Live in 日本武道館 〜プレミアムアリーナ最前列チケット(握手券付き)〜』
それを、ポポロ村へ日課の「聖地巡礼」に来ていた魔王ラスティアが見つけてしまったのだ。
「月人くんの……っ! に、二十歳の記念すべき武道館ライブ! しかも最前列の神席!! それが何故、優太の手元にあるのじゃ!? 地球のファンクラブ先行抽選で、どれだけの血の雨が降ったと思っとる!!」
「知るか! ガチャから出たゴミ(俺にとっては)だ!」
優太がチケットをヒラヒラさせると、ラスティアは「ゴミィ!?」と悲鳴を上げ、優太の足元にすがりついた。
「お願いじゃ優太! わらわの魔王軍の領地の半分……いや、ワイズ皇国を丸ごと滅ぼして譲るから! そのチケットをわらわに恵んでたもれ!!」
「物騒な交渉すんな! だいたい、お前がチケットを手に入れたところで、ここは異世界だぞ。日本武道館なんて次元の彼方だろうが」
優太が極めて真っ当な現実を突きつけると、ラスティアはピタッと動きを止め、ギリリッと奥歯を噛み締めた。
そして、ゆっくりと顔を上げ、リビングの奥――和室のふすまを睨みつけた。
「……おるのじゃろう? そこに」
「ズルズルズル……はふっ。もう、騒がしいわねぇ」
ふすまがスパーンと開き、季節外れのコタツに入ってカップラーメンを啜る、芋ジャージの女が現れた。
この世界『アナステシア』の創造主たる駄女神、ルチアナである。
「ルチアナよ! 貴様、次元の壁の管理者であろう!? 今すぐ日本武道館へのゲートを開けい!!」
「はぁ? バカ言わないでよ。異世界人を地球に送るなんて、システム上かなりのイレギュラーなのよ? 始末書書かされるのは私なんだからね」
ルチアナが鼻をほじりながら面倒くさそうに却下すると、ラスティアはスッと立ち上がり、凄まじい殺気を放った。
「……開けぬというなら、今ここで貴様が地球ショッピングで横領した『百均ライターの転売ルート』を、ドワーフの国に全部バラして市場を崩壊させてやるぞ」
「はい喜んで! ドア・トゥ・ドアで武道館までご案内しまーす!!」
脅迫に屈したルチアナが、秒で掌を返した。
「おい駄女神! お前、権限の私的利用がひどすぎるだろ!」
「うるさいわね! どうせ私も、秋葉原に新作の乙女ゲー買いに行きたかったのよ! 丁度いいじゃない!」
ルチアナがコタツの上からリモコンのような機械を取り出し、ポチッとボタンを押す。
すると、和室の『ふすま』が、眩いばかりの青白い光を放ち始めた。次元の壁が、完全に突破されたのだ。
「おおおっ……! 待っておれ、月人くん! 今、魔界(異世界)から愛に行くぞ……!」
ラスティアが感動に打ち震えていると、その背後からドドドドドッ! と足音が響いてきた。
「優太! あなたの故郷に帰るって本当!?」
ウサギ耳をピンと立てた村長キャルルが、目を輝かせて飛び込んできた。その手にはしっかりと『貴婦人の恋心』が握られている。(冷徹公爵様の世界に行けると思っているらしい)
「優太様ぁ! 地球には、歌うだけで無限にご飯が食べられる『あいどる』の聖地があるんでしょ!? リーザも行くわ!」
「私は、優太の作っていた『かれー』のスパイスの故郷が見てみたいわね」
リーザとルナも、すっかりお出かけモード(異世界の軽装)でリュックを背負っている。
「お前らまで……っ! はぁ……全員まとめて面倒見てやるよ。ただし、向こうでは絶対に魔法も異能も使うなよ!」
優太は呆れ果てながらも、財布とスマホ、そして念のための医療キットが入ったリュックを背負い直した。長らく離れていた、故郷の土を踏むために。
「それじゃ、トーキョーに向けて! レッツゴォォォー!!」
ルチアナの掛け声と共に。
医学生、駄女神、魔王、武闘派ウサギ、極貧アイドル、天然エルフの超絶カオスな一行は、光り輝くコタツ部屋のふすまをくぐり抜け、現代日本へとその足を踏み入れたのであった。




