EP 9
経済崩壊を救え!悪魔の『推し活ロンダリング』
「……ルチアナ。お前、さっき魔王ラスティアが『地球の男性アイドル』の熱狂的ファンだと言っていたな?」
広場のド真ん中に鎮座する100kgの純金ブロックを前に、優太は腕を組み、冷徹な目で駄女神を見下ろした。
「えっ? ええ、そうよ。あの子、地球のテレビ番組の電波を受信して以来、完全に沼に落ちてるの。特に……」
ルチアナが興奮気味に鼻息を荒くする。
「美青年アイドル、『朝倉月人』! 御年20歳! 儚げなルックスと、ふとした時に見せる色気で今地球を席巻しているトップアイドルよ! ラスティアちゃんは彼のアクリルスタンドを魔王城の玉座の隣に飾ってるくらいのガチ勢なんだから!」
「……朝倉月人、20歳。よし、分かった」
優太は迷うことなく、自身の生体認証でロックした【地球ショッピング】のホログラムパネルを再起動した。
現在の残高は、昨日から地道に稼いだポイントと先ほどの残りを合わせて数千GP。
「おい、リーザ! 口を開けろ!」
「えっ? あぐっ!?」
優太は村のパントリーから引っ張り出した『肉椎茸』をコンロで一瞬だけ炙り、飢えとインフレの絶望で泣き叫んでいたリーザの口に強引に突っ込んだ。
『ピロリン♪ 飢餓状態の生命を救済しました。+100 GP』
「もぐもぐ……おいひぃ……」
「よし、ポイント確保」
涙目で咀嚼するリーザを放置し、優太はパネルの検索窓に『朝倉月人』と打ち込んだ。
「何をする気なの、優太?」
ウサギ耳をペタンと下げたキャルルが、不安そうに見上げてくる。その上目遣いの破壊力に一瞬たじろぎそうになるが、優太は「冷徹公爵様(自称)」の仮面を被ってニヤリと笑った。
「経済のバグ(純金)は、さらに巨大なブラックホール(魔王の財力)に飲み込ませて消滅させるんだよ。……検索完了。これだ」
優太がポイントを消費して実体化させたのは、地球の超限定プレミアムグッズ――
**『朝倉月人 20歳の軌跡 〜完全受注生産・等身大抱き枕カバー&直筆サイン入り写真集BOX〜』**であった。
「なっ……!? そ、それは! 地球のフリマサイトで定価の10倍で取引されているという伝説の神BOX!!」
ルチアナの目が飛び出る。
「ルチアナ、お前の『転売ルート』を使って、今すぐ魔王ラスティアをここに呼び出せ」
「え!? 魔王をポポロ村に!? そ、そんなことしたら……!」
「いいから呼べ。俺が交渉する」
優太の有無を言わさぬ迫力(と、顎クイの余韻)に圧され、ルチアナは慌てて虚空に魔法陣を描いた。
***
ズガァァァァァンッ!!
数分後、ポポロ村の広場に、禍々しい漆黒の雷光が落ちた。
圧倒的な魔力と絶望のオーラを纏い、空間を引き裂いて現れたのは――豪奢なドレスに身を包み、頭に立派な二本の角を生やした、絶世の美女。魔族を統べる絶対的支配者、魔王ラスティア(女性)である。
「ルチアナ! わらわを急に呼び出すとは何事じゃ! 今ちょうど、月人くんの深夜ドラマの録画を観ようと……」
「魔王ラスティアだな」
優太が、漆黒のオーラを全く意に介さず、ズイッと前に出た。
そして、その手に持っていた『朝倉月人の等身大抱き枕カバー(プリント面)』を、バサァッ! と広げて見せつけた。
「ひゃっ……!? つ、月人くんの腹筋チラ見せ限定イラストォォォッ!?」
先ほどまでの威厳はどこへやら。魔王ラスティアは「ひぇっ」と変な声を上げ、顔を真っ赤にして口元を両手で覆った。
「貴様……それをどこで! 転売ヤーのルチアナですら手に入れられなかった幻の品じゃぞ!」
「俺の独自のルートだ。お前が熱狂的な『月人推し』だと聞いてね。交渉のテーブルに着く気はあるか?」
優太は悪魔のような笑みを浮かべた。
「この『抱き枕カバー&直筆サイン入り写真集』を譲ってやってもいい。ただし、条件が三つある」
「な、なんじゃ! 言ってみろ!」
ラスティアは抱き枕カバーから目を逸らせず、完全にヨダレを垂らしている。
「一つ。そこにあるルナの『純金100kg』を、お前の魔王国の国庫で全額引き取れ。
二つ。ゴルド商会が村でばら撒いた大量の金貨を、魔王軍の武力と権威をもって強制回収しろ。
三つ。回収した金の代わりに、村の物価が安定するまで、適正価格の『銀貨』と『銅貨』、そして備蓄用の小麦をポポロ村に提供しろ」
それは、魔王の強大な権力と財力を利用した、ポポロ村の「強制的インフレ鎮圧」であった。
「……そ、そんなことで良いのか? 純金など、我が魔王国の魔力炉の触媒にいくらでも使えるし、ゴルド商会の金貨回収など、配下の四天王を脅しに行かせれば一瞬で終わるわ!」
ラスティアにとって、金などただの石ころと同義である。彼女にとっての真の価値(最強の資産)は、今優太が握っている「朝倉月人(20)」なのだ。
「交渉成立だ」
優太が抱き枕カバーと写真集のBOXをポンッと投げ渡すと、魔王ラスティアはそれを神器のように恭しく受け取り、感極まってポロポロと涙を流した。
「おおおっ……! 月人くん、尊い……! この肌触り、最高じゃ……!!」
魔王はそのまま純金100kgのブロックを片手で軽々と持ち上げると、「すぐに手配する! 次の新作グッズが出たらまた呼べ!」と叫び、ウキウキとした足取りで魔法陣の彼方へと帰っていった。
***
翌日。
魔王軍の迅速すぎる実力行使により、ゴルド商会は不当に得たキャベツや小麦を吐き出させられ、村に溢れた金貨はすべて回収された。
代わりに、適正な価値の銀貨と銅貨が村に流通し、ポポロ村の物価は完全に元通り(パン1個=銅貨数枚)の平和な水準へと落ち着いたのである。
「あぁぁぁ……! 私の銅貨が、また元の価値に戻ったわぁぁぁ!」
広場で銅貨の山にダイブし、頬ずりをして喜ぶリーザ。
その横で、キャルルが尊敬(と、乙女の熱気)を込めた眼差しで優太を見つめていた。
「すごいわ優太……! オークだけじゃなく、村の経済の危機まで救ってくれるなんて……。やっぱりあなたって……冷徹だけど、根は優しいのね……っ!」
「……だから、その冷徹って何なんだよ。まあ、とりあえず平和が戻って何よりだ」
優太はワスプ薙刀を肩に担ぎながら、大きく伸びをした。
魔王をも手玉に取る「医学生の推し活ハック」。こうして、ポポロ村を襲った前代未聞の経済崩壊は、一人の美青年アイドルの尊い笑顔によって救われたのであった。




